蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

哀れ、ミツバチよ

2013年12月06日 | 季節の便り・虫篇

 CCD(蜂群崩壊症候群)……世界中でミツバチが大量に死んだり行方不明になり、蜂蜜の採取ばかりでなく、農作物や果樹の授粉が出来なくなるというに異常な事態が依然として続いている……このことを書いて既に数年、いまだに確たる原因究明はなされていない。トラックで長距離移動しながら授粉させるストレス、寄生虫や感染症、気候変動、突然変異、あるいは地磁気の変動等々諸説ある中で、最も疑われているのが農薬である。
 ネオニコチノイド系農薬の恐ろしさは、植物の葉や茎などの細胞に深く浸透する特性にあり、それが花粉や蜜を媒体にしてミツバチ(ばかりでなく、多分蝶などの吸蜜昆虫や葉を食べる虫たち)の体内に蓄積されていく点にある。神経に作用し、方向感覚を狂わせ巣箱に戻れなくなるというのが有力な説だが、それだけでは巣箱の周辺で大量に死滅していく事実は解明出来ない。

 福岡県や長崎県で対策に乗り出したというニュースを新聞で読んだ。3年前に「県みつばち連絡協議会」を設置し、農薬の一斉散布時期を「県養蜂協会」に事前通知を始めている長崎県、昨年から稲の開花時期に散布を避けるように農協などに要請している福岡県……「まだまだ手ぬるい!」という憾みはあるが、少なくとも第一歩を踏み出したことは評価しよう。EUでも、この12月から2年間ネオニコチノイド系農薬の使用を禁止したという。

 ニュースの後段を読んで愕然とした。農林水産省がネオニコチノイド系農薬のクロチアニジンを使用できる作物の数を40項目まで増やすという。しかも、食品の残留基準を緩和する方向で、来年2月には正式決定するという報道に、開いた口が塞がらない思いだった。
 福島の事故処理に通じるものがある。廃炉に向かっての数十年がかりの作業も遅々として進まず、汚染された土壌の浄化作業も児戯のような原始的なことしかやれてないのに、原発再稼働を謀り、いつの間にか被爆放射能の許容限度を緩和して口を拭っている。これほど懲りない行政が愚策を展開していく情けなさに、もう怒ることさえ疲れてきている。

 一党独裁、弱体化した野党を蹴散らし、右傾化する政治が暴走を続ける。特定秘密保護法案が国民の多数意見に耳も傾けず、強行採決を重ねていく。「最早戦後ではない。戦前である」「何が秘密ですか?それが秘密です」という戯れ句を数日前の新聞に見た。怖ろしい可能性を秘めた暗黒の法であるのに、反対運動の広がりは遅きに失した。

   音を立てて自壊する日本。
   滅びの道を進む人類。

 「CCDは、蜂から人間への警鐘と考えるべきだ」と説く金沢大学山田教授の言葉を、行政はどう聞くのだろう。「蜂が死ぬという事は、他の昆虫などにも影響があるはず。農水省は、環境にもっと配慮した農業の方向性を示すべきだ」と説く長崎県養蜂協会事務局長の言葉に、行政は耳を貸す知性もないのだろうか。
 農水省は弁解する。「ネオニコチノイド系農薬のメリットと、ミツバチにどう影響を与えるかの比較考量をして決めた。日本は高温多湿で害虫が発生しやすく、農薬が必要だ。使用する際は、ミツバチへの影響に注意してくださいと言っている」……もっともらしく聞こえて、実は詭弁でしかない。もうそんなレベルの事態ではないことを、行政は理解しようとしない。そして背後にちらつくのは、例によって族議員の不気味な影である。

 師走が奔る。「人は滅びよ。しかし、ミツバチまで巻き添えにするな」と、今年の「怒り納め」となることを祈りながら、キーボードを叩いていた。
 今日の福岡県は煙霧。各地でPM2.5の値が100を超え、福岡市元岡で14時に122に達した。
         (2013年12月:写真:マツムシソウに遊ぶ一匹の蜂)