「やなせたかし」さんが、94歳で亡くなりました。
大往生といえるでしょうね。
「アンパンマン」もそうですが、
「詩とメルヘン」の方が、自分には馴染み深い。
詩とは哲学である、という言葉通り、
『アンパンマンのマーチ』の歌詞が子供向けにしては
異様に哲学的で根源的な問いがあったり、
「自分の顔を食べさせるヒーロー」とか、
考えてみると「?」「!」だったりするわけで…
「アンパンマン」は、結構、謎に満ちている。
作者が自作を語るインタビューがあった。
それによると、「正義とはなにか」が創作動機であったという。
第二次大戦後、「正義」が相対化していくなかで
『でも困っている人、飢えている人に食べ物を差し出す行為は、
立場が変わっても国が違っても「正しいこと」には変わりません。
絶対的な正義なのです。』
『正義を行う人は自分が傷つくことも覚悟しなくてはいけない。』
…「自分を食べさせて人を救う」ヒーロー、
「アンパンマン」が生まれた。
絶対的な正義・本物の正義だから、何かで飾る必要がないから
「アンパンマン」は、究極の「ベタなヒーロー」なのかも。
それに、なぜか脇役ヒーロー、ヒロインが
「アンパンマン」よりも魅力的だったりするわけで。
まぁ、「あんぱん」自体が日本と西洋の究極の融合というか
西洋のものを日本化した最高傑作だしねぇ。
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やなせたかしさん死去=「アンパンマン」漫画家、94歳
jiji.com (2013/10/15-19:07)
「アンパンマン」で知られる漫画家・絵本作家の
やなせたかし(本名柳瀬嵩=やなせ・たかし)さんが
13日午前3時8分、心不全のため東京都内の病院で死去した。
94歳だった。東京都生まれ。
葬儀は関係者だけで行った。後日しのぶ会を開く。
幼少時を高知県で過ごし、
1939年東京高等工芸学校(現在の千葉大学工学部)卒。
兵役から復員後、高知新聞記者を経て三越宣伝部に勤務し、デザイナーとして活躍。
53年、漫画家として独立する一方、放送作家や脚本家、作詞家としても知られた。
61年に「手のひらを太陽に」を作詞。
69年に絵本「やさしいライオン」を刊行した。
73年には雑誌「詩とメルヘン」を創刊するとともに、
最初の「あんぱんまん」の絵本を出版。
88年に日本テレビ系で「それいけ!アンパンマン」のアニメ放送が始まり、
子供たちに大人気となった。
「それいけ!アンパンマン」は25年間放映され続け、
アンパンマンの絵本の累計発行部数は6800万部に上っている。
地元の高知で開催されている「まんが甲子園」の審査委員長を務め、
各地で行われる「アンパンマン展」にも出席。
11月にはアンパンマンシリーズの最新刊のほか、
作家活動60年を記念する「やなせたかし大全」の出版を予定している。
やなせさんは心臓手術を受けるなどしたが、最近まで活躍した。
2年前にぼうこうがんが見つかり、その後肝臓に転移。
8月下旬に体調を崩して入院していた。
今月12日夜にはスタッフに仕事上の指示をするなど元気だったが、
13日未明に容体が急変したという。
☆ ☆ ☆
やなせたかし氏 日本人の正義とは困った人にパン差し出すこと
newsポストセブン2011.05.03 16:00
コラムニストの石原壮一郎氏は、震災直後、
事務所で付けっぱなしにしていたラジオから
『アンパンマンのマーチ』が流れてきたのを聞き、思わず落涙した。
そして自分がレギュラーを務めているラジオ番組の企画で
「被災者を元気づける曲」として、この曲を躊躇わずイチ押ししたという。
なぜそれほどまでに心を揺さぶられたのか。
「震災で被災地の悲惨な状況を見て心を痛めたり、
原発事故で不安を感じたり、
モヤモヤとした複雑な感情が入り交じっていたと思うんです。
その中でこの歌が、たとえいろいろなことがあっても
人は生きて行かなくてはならないんだということを教えてくれました。
漠然とした生きる事への不安に対して、
それでも生きていけと励ましてくれたのです」
人々を勇気づけるこの歌はどのように誕生したのか、
どのような想いが込められているのか。
自ら作詞を手がけた「アンパンマン」作者で今年92歳、
漫画界の大御所やなせたかし氏に、
ノンフィクション・ライターの神田憲行氏が聞いた。
* * *
やなせ:「アンパンマン」を創作する際の僕の強い動機が、
「正義とはなにか」ということです。
正義とは実は簡単なことなのです。困っている人を助けること。
ひもじい思いをしている人に、
パンの一切れを差し出す行為を「正義」と呼ぶのです。
なにも相手の国にミサイルを撃ち込んだり、
国家を転覆させようと大きなことを企てる必要はありません。
アメリカにはアメリカの“正義”があり、フセインにはフセインの“正義”がある。
アラブにも、イスラエルにもお互いの“正義”がある。
つまりこれらの“正義”は立場によって変わる。
でも困っている人、飢えている人に食べ物を差し出す行為は、
立場が変わっても国が違っても「正しいこと」には変わりません。
絶対的な正義なのです。
やなせ氏は第二次世界大戦では砲兵として中国に駐留していた。
大東亜共栄圏の美名のもと「正義の闘い」だと信じていたものが、
戦後、侵略戦争だと知った。
「天皇陛下万歳」と叫んでいた者たちが「民主主義」に走り去っていく姿も見た。
全ての正義が相対化されていくなかで、
絶対的な正義とは何か考えていって、
突き当たったのが飢えに苦しんだ兵隊時代の記憶だった。
そこから「自分を食べさせて人を救う」ヒーローが生まれた。
やなせ:うん。だから正義って相手を倒すことじゃないんですよ。
アンパンマンもバイキンマンを殺したりしないでしょ。
だってバイキンマンにはバイキンマンなりの正義を持っているかも知れないから。
それに正義って、普通の人が行うものなんです。
政治家みたいな偉い人や強い人だけが行うものではない。
普通の人が目の前で溺れる子どもを見て
思わず助けるために河に飛び込んでしまうような行為をいうのです。
ただし普通の人なので、助けに行って自分が代わりに溺れ死んでしまうかも知れない。
それでも助けざるを得ない。
つまり、正義を行う人は自分が傷つくことも覚悟しなくてはいけない。
今で喩えると、原発事故に防護服を着て立ち向かっている人々がいます。
自分たちが被爆する恐れがあるのに、
事故をなんとかしなくてはという想いで放射能が満ちた施設に向かっていく。
あれをもって、「正義」というのです。
怪獣を倒すスーパーヒーローではなく、
怪獣との闘いで壊された街を復元しようと立ちあがる
普通の人々がヒーローであり、正義なのです。
――未曾有の国難といわれています。日本は復興できるのでしょうか
やなせ:(笑みを浮かべて)出来るのに決まってるじゃないか!
あの戦争だって日本は焼け野原になって、
原爆をニ個も落とされて人が何十年も住めないと言われたんだよ。
それがあそこまで復興できたんだから。
日本人は粘り強く、正しく立派に生きている人たちです。間違いなく復興できますよ!
やなせ氏は震災直後に1000万円を寄付し、
さらにグッズの売り上げを寄付にする活動を継続中である。
「被災地の子どもたちがアンパンマンが助けに来てくれると思ってるらしいんだ。
だからこうして活動していると知ると、喜んでくれるんじゃないかと思うんだ」
取材後、私(神田)が仙台で被災した従兄弟に
小さな子どもが2人いることを話の流れで言うと、
やなせ氏は目を見開いて
「この事務所にあるオモチャどれでもいいから持って行きなさい。
送って励ましてあげなさい」と言ってくださった。
秘書の方が丁寧に選んで手渡してくれた二つのオモチャを持つだけで、
帰り道の私の気持ちは温かくなった。
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