漫画家アシスタント物語

漫画家アシスタントの馬鹿人生40年と、リタイア後のタイ移住生活。

漫画家アシスタント 第6章 その15

2009年03月28日 18時16分42秒 | 漫画家アシスタント
( この写真は、リョウさんの暮らした東京豊島区椎名町の下宿前です・・・。この風景は、当時
 (20年前)の面影をそのまま残しています。《 2008年11月、撮影 》 )
  
  
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
 
 
 
               その15
 
 
漫画家アシスタントが渡された原稿の背景を入れる時に、指定された背景
をどう描いたら良いかまったく想起出来ないとしたら・・・・・
 
いつも描いている町並みや部屋の中、空や海など、意識しなくても頭に浮
かぶ風景が何も浮かばない・・・・
 
そこにあるのは、ただ真っ白な背景だけ。そして、J先生が描いた人物だ
けが、ジッとこちらを見ている・・・・・

主人公のミニスカートの金髪美女が・・・おしりを向けながら振り返って
いる・・・
 
真っ白な背景の中で、その金髪美女は口をとがらせながらリョウさん( 仮
名:内海遼一、岡山県出身、Jプロ勤続14年目、88年当時33歳 )に微笑み
かける・・・・

 『 どうしたの? 』

その絵には、セリフがないのに・・・・そう問いかけられている気がする
・・・・
 
 『 どうしたの? 』
 
 『 何も・・・わからない・・・・ 』

描くべき背景も思い浮かばない・・・・・ただ白い背景が白いままでそこ
にあるのだ・・・・。

自分の頭が空中に浮いている様に・・・・そこから先には、何もないのだ
・・・・・
 
アシスタントをやっていて、もし自分がそんな状態になったら・・・・き
っとパニックに陥ると思います。

しかし、リョウさんは表面上まったく平静でした・・・・。
 
仕事場を早退しても、まだ自分の不調を単なる「 疲れが出ただけ 」だと考
えていたのです。描くべき背景が浮かばなくても意識が淀んでいる事もない
・・・いや、それどころか意識は明晰でさえあるのです・・・。
 
リョウさんは自転車をこいで椎名町の下宿へ戻ります。そして、すぐに布団
を敷いて横になります・・・
 
 『 ちょっと、疲れたかな・・・・ 』
 
その程度の気分でした。明日にはきっと元気になって仕事が出来るだろう・・
・・・と。しかし、横になっても眠れる訳でもありません。つねに、龍馬暗
殺の謎について考えていたのです・・・・。
 
この頃から、リョウさんは人並な食欲を無くして、まともな食事を摂れなくな
ります・・・。いつもは自炊で野菜炒めや寄せ鍋などを作って食べていたので
すが・・・
 
 『 別に食いたくもないし、作らなくてもいいか・・・・ 』
 
・・・と、果物やスナック菓子など、ごく軽いモノですませていました。
 
仕事を早退して横になったり、本を読んだり・・・そうしているうちに夜も更
けてきます・・・。
 
 『 もう、仕事(Jプロの)は終わったかな・・・ 』
 
そんな事を考えている時・・・
 
 トントン・・・
 
アシスタントの大黒柱であるカンさん( 仮名:菅原浩二、神戸市出身、Jプロ
勤続19年目、88年当時、35歳 )が訪ねて来ました。 手土産に「 助六寿司 」を
持って見舞いに来てくれたのです。
 
普段、欠勤したり遅刻したりする事もないリョウさんが、初めて早退したので
心配して来てくれたのでした。
 
 「 リョウちゃん、大丈夫かァ? 」
 
 「 ・・・うん・・・ちょっと調子が悪くて・・・・ 」
 
 「 医者は・・・? 」
 
 「 いやァ・・・ちょっと疲れが出ただけだと・・・少し休めば・・・ 」
 
何の問題もない・・・深刻な会話も、恐ろしい出来事を予想させる様な事も・・
・・・何もありませんでした。
 
二人の会話はごく自然で、いたって日常的で、ほとんど記憶にも残らない程あ
りふれたものでした・・・・。
 
 「 リョウちゃん、無理しないでゆっくり休みなよ・・・ 」
 
 「 うん・・・ありがとう。大丈夫だから・・・すまんね、これ・・・ 」
 
リョウさんは、もらった「 助六寿司 」を示しながら、部屋を出て行くカンさ
んを見送ります。
 
 「 じゃ~ね~、リョウちゃん、お大事に・・・、おやすみ~・・・ 」
 
 「 ありがとう・・・おやすみ・・・ 」
 
この日から、プッツリとリョウさんの消息が途絶え・・・・・
 
 
 
 
            「 漫画家アシスタント 第6章 その16 」 へつづく・・・



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14 コメント

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ブログの天才では? (roitoto)
2009-03-29 02:09:14
どうもはじめまして。
イエスさん。

つい先日このブログを見つけて、
その興味深い内容に
吸い込まれるようにして
アーカイブからずっと辿ってまいりました。

そうして本日、初めてコメントする訳ですが、
気づいたことをひとつふたつ。

このブログは漫画週間誌のように
さくさく進行するし、内容も
見所や引きをたくさん作ってありますよね。
これは職能によるものだと
思います。

その上、どうやらモチーフに絞って
時間軸を何巡も往復する構成・・・

それによって、過去が失われたものではなく、
視点や論点によって変わりえるもの、
静止したものではなく、
生成する現場として記述しておられる。

そのように読めてしまうのです。

イエスさんは、その類まれな謙虚さが
特徴の方ですから、おそらくは否定なさる
でしょうし、また、そのような貫き方が、
「漫画馬鹿」という自己規定には相応しいようにも
思われるのですが、

あえて言わせて頂きますと、

イエスさんの見えにくかった才能は、
過去の作品を読んでもわかる通り、元々
私小説風であり、その独白に近い筆致は
最初から個人のブログと近接していたと
思います。

イエスさんは、ブログという形式に
必然的に出会い、その形式によって、
類例のない『ブログ漫画』を(「蟹工船」の
時のように滔々とした気分で)書き続けておられる
のではないか。
それも、魯迅の『阿Q正伝』を彷彿とさせる
ある種の諧謔の印象を与えるように注意しながら。

無意識に始められたものだとしたら
なかなかの天才だと思いますが・・・
このような発言は求められていないでしょうね。

今後も、楽しみにしております。

『ブロ漫』としての御健闘を
今後ともお祈りしております。
返信する
roitotoさん、コメントどうもありがとうございました! (yes)
2009-03-29 06:26:07
roitotoさん、はじめまして!
 
拙ブログに暖かく丁寧な感想を書き込んでいただきまして、本
当にありがとうございました!
 
いつも、感想を読ませていただく時は、実は・・・ハラハラしなが
ら読んでいます。小心者の悲しさです・・・。
 
 >見所や引きをたくさん作ってありますよね。これは職能
 >によるものだと思います。
 
はい。確かに! かなり漫画を制作する時の感覚を利用してい
ると思います。
 
 >イエスさんは、ブログという形式に必然的に出会い、
 >その形式によって、類例のない・・・
 
ありがとうございます。 漫画を描く時にはあれほど苦しいの
に・・・ブログを書き進める時の抵抗感のなさ・・・快適さ・・・このな
じむ様な居心地の良さ・・・・・
 
出会うべくして出会った「ブログ」・・・まさに、roitotoさんの
ご指摘の通りだと思います。
 
roitotoさんからいただきました、普段私とは無縁な言葉・・・
「才能」「魯迅」「天才」・・・まったく、もったいなく・・・恐縮
するばかりです!
 
こんな言葉を含んだ文章を、あと数行書かれたら私は悶絶して
しまいます!
 
今日は、嬉しい感想コメントをどうもありがとうございました!
これを励みに、また一歩一歩前に進んでまいります!
  
返信する
TVのなかの漫画家 (適当放送)
2009-03-29 23:33:15
10時から、3CHのETV特集で、赤塚不二雄をやっていた。
森田拳次も70歳、赤塚評をしている顔が、若い頃と比べてあまりに年取っていたのでびっくり。
森の仙人みたいに。
そういえば、前回のカンブリア宮殿で、武論尊があだち充と一緒に出ていて、初めて武論尊の実物を見たが、植木職人みたいで、かつなにか感動的だった。

これはすました背広の武論尊

http://www.google.co.jp/imgres?imgurl=http://otaknight.at.infoseek.co.jp/mangasyou4.jpg&imgrefurl=http://otaknight.at.infoseek.co.jp/mangasyou.htm&h=544&w=800&sz=74&tbnid=cABk9LtXg74tHM::&tbnh=97&tbnw=143&prev=/images%3Fq%3D%25E9%25AB%2598%25E6%25A9%258B%25E7%2595%2599%25E7%25BE%258E%25E5%25AD%2590&hl=ja&usg=__-0IaSyWikYNldskT5V-JtaG1pCM=&ei=9YTPSeyKEpHW7APSkdnXAg&sa=X&oi=image_result&resnum=6&ct=image&cd=1

高橋留美子は、うるせいや奴らの鬼のj○娘とは、似ても似つかない。
経理課のおばさんといったところか。

http://www.youtube.com/watch?v=fT69aDoMeMc

まあ、いずれにせよ、売れても売れなくても、脂肪がたっぷりついて、人間年を取ると、こんなものかという変な感慨をうけました。
返信する
適当放送さん、コメントどうもありがとうございました! (yes)
2009-03-30 02:42:19
 >3CHのETV特集で、赤塚不二雄をやっていた。
 
それ、私は録画してあります。後で見るのを楽しみにしており
ます! 特に「森田拳次」先生が見られるのなら必見ですね!
 
武論尊先生と高橋留美子先生の写真紹介もありがとうございま
した!
 
 >売れても売れなくても、脂肪がたっぷりついて・・・
 
みんな一緒に年を取ります・・・!(当り前か)それにしても、痩
せていく人より太っていく人の方が圧倒的に多いですね。
 
20歳だった頃に55キロだった私の体重も50歳代の今は78キロで
す。自分の写真を見るたびに元気がなくなる・・・そんな年になり
ました・・・・・。(沈)
  
返信する
森田拳次の本 (山のカラス)
2009-03-31 01:59:50
今手元に、森田拳次の「マンガの描き方」日本文芸社があるが、これには巻末に100人以上の漫画家の現住所が載っている。
ナニマンションの何号室まで。
昔は、情報公開がすごかった。
しかも、発行年月日がどこにも書いてないです。
返信する
山のカラスさん、コメントありがとうございました! (yes)
2009-03-31 07:11:18
私は中学生の頃に電話帳で漫画家の電話番号を知らべて、電話を
かけまくった事があります。
 
今からでは考えられない事ですが・・・しかし、逆にのんびりして
いたというか・・・「平和」だったのだと・・・懐かしい思いもいたし
ます・・・・・。
  
返信する
地デー人 (みみ)
2009-04-01 04:08:21
ようやく地デジがJCOMからやってきました。
亀山シャープ、ヤマダ電機で32インチを74000で買ってきて、きれいに映りました。
うれしいです。
毎月、1万円が銀行口座から減っていくことになりました。
高いんだか、安いんだか、。
CS放送50CHが見られるのは、いい点ですが、「アクトビラ」でNHKアーカイブが300円で取ってこれます。
TUTAYAオンラインも。
JCOMオンディマンドも、一回400円です。
番組を取りに行くと、400円づつ財産が減っていきます。
ようやく地デー人になった、ということは、400円ずつ財産が減っていくにんげんということです。
返信する
みみさん、コメントどうもありがとございました! (yes)
2009-04-01 05:27:24
 >CS放送50CHが見られる・・・
 
それは、スゴイと思いますが・・・月々1万円は、ちょっとキツイで
すね・・・!
 
ちなみに、私が薄型TVを買う時に亀山モデルをビックで見たので
すが・・・なんだかやけに暗くて・・・ですので、明るい他社製品を買
いました。
 
でも・・・家で見てみると・・・なんだか暗い・・・。夜のシーンなどで
は、みんな黒くつぶれてしまいます。(設定で画面を明るくして
いますが・・・あまり変わりません)
  
返信する
刑務所の中でも、マンガは読めるらしいw (オレンジボーイ)
2009-04-02 00:51:19
最近、「刑務所の中で絵(マンガも)を描いている人」の本を読みました。

女の人らしく、花のデッサン?の他に、「あさきゆめみし」(マンガ版の源氏物語)の模写なども載っていて、興味深いです。(刑務所の中でも、マンガが読めるのかな、なんて)

「便せんの裏に、ボールペンで描いた」とのことで、画材も自由に使えず、どうみても「素人の趣味」レベルの絵ですが、特徴をうまくつかんでいて、「ちゃんと道具(つけペン・インク・マンガ用原稿用紙)を与えて、本人がさらに練習すれば、上達が見込めるのでは?」と思える絵でした。
(女子校のマン研の同人誌みたいな感じの絵といえば、分かる人は分かるかも?)
(プロのマンガ家のペン画のようなメリハリ、入りと抜きに乏しいが、必死に画風をまねようと、がんばった感じの絵でした。)

刑務所の暮らしは、特に食べ物に不自由するようで、面会に来てくれた知人から、差し入れされた「カリントウ」や「ポテトチップス」の大袋を5分もしないうちに平らげてしまったり、さらに「今度、来るときは、チョコレートを持ってきてください」と頼んだりしてました。
差し入れされた「焼き鳥の缶詰」のデッサン画に、本人の「食べ物」への渇望を感じました。

たしか、刑務所へ食べ物の差し入れは、「外部から、毒殺されるおそれがあるから、ダメ」と聞いたことがあるのですか、最近はちがうのかな。なんて、いろいろ考えさせられる本でした。
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甘味は麻薬 (ふじもん)
2009-04-02 03:39:47
刑務所は基本的に外部からの差し入れは出来ません。でも面会時に差し入れは出来ます。
これはその刑務所に物品を納めている売店が刑務所近くには必ずあり、そこで買った物を売店から刑務所内に納める、という形になるそうです。

刑務所内の食事はカロリー計算などされてきちんと管理されているのですが、甘味が殆ど無いそうです。
生きていくのに直接、甘味は必要ありませんから(糖分は甘味以外から摂取できるので)刑務所内では提供されないようです。

ただ、食事に果物であったりプリンであったりデザートが土日には追加され、その日は刑務所内がソワソワするとかしないとか。

甘味は麻薬と同じなので、人は餓えます。軍隊であったり、タコ部屋労働、それこそ蟹工船でも甘味は奪い合いになるほど危険なものだそうですよ。
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