漫画家アシスタント物語

漫画家アシスタントの馬鹿人生40年と、リタイア後のタイ移住生活。

漫画家アシスタント 第5章 その52

2008年07月31日 20時25分11秒 | アシスタント
( この写真は、東京、目白通りにある某マンション(Jプロが7階に入っている)から
  見た夕焼け空です。《 2008年7月、撮影 》 )
 
 
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
  
 
   
               その52
 
 
 「 ダメですよッ! 現金渡しちゃ! 」
 
500万円の借金をJ先生が肩代りするのですが、さすがに500万円を現金で
ポンと出すわけにもいきません。 そこで、会計事務所に相談すると・・・
 
500万円をJプロから支出し、その後、キタさん ( 仮称、当時30歳、Jプ
ロ勤続12年目、私を含むサラ金トリオの一角。 )がJプロに月々5万円づつ
( 100回払い )返済するという事に決まりかけたのですが・・・
 
 「 本当に借金を返すか、分かりませんよ! 」
 
会計事務所の方では、キタさんをまったく信用していません。
 
 「 500万円ですよ! ただ持って行かれたらど~するんですか?! 
   第一、ちゃんと借金を返すかど~かも分からないんですよォ! 」
 
確かに・・・会計事務所の主張はもっともかもしれません・・・。そこで、
誰かがキタさんに付き添い、サラ金やカード会社を一軒づつ回って確実に返
済させる・・・と。 この案で決定になりました。
 
しかし・・・いったい誰がお目付けにキタさんと一緒に借金を返しに行くの
か・・・・?
 
1週間後、お目付け役として500万円をバックにしっかりとかかえて目白駅に
やって来たのは・・・・
 
J先生の奥さんでした。
 
 
私は、このブログを書き始めて4年( Jプロ勤続30年!)になろうとしていま
すが、J先生の奥さんについて書くのは初めてです。

これまで、奥さんとはほとんど個人的なお付き合いもありませんでしたし、
普段からお目にかかる事もなく、年1回お顔を見かける位で取り立ててブログ
に書くほどのエピソードがありませんでした。( 20年ほど前、引っ越し費用
の借入を電話でお願いした事がありますが・・・ )
 
もっとも、Jプロの先輩アシスタントたちには、母親や姉代わりとも言える
ほど、お世話になったり、お付き合いがあったりした人もいました。
 
奥さんはJ先生の漫画「 H雲 」の「 カメさん 」( H雲の妻役 )というキャ
ラクターにとてもよく(女優さんでいえば・・・宮崎美子さんに印象が・・・)
似ています。
 
明るく、朗らか、あっ気らかん・・・。 その天真爛漫な奥さんが、キタさん
の借金問題で3日間寝込んでしまったほどに落ち込んでしまったそうです・・
・・・。 きっと、奥さんはキタさんを家族の一員の様に信頼されていたから
なのだと思います。
 
ちなみに・・・キタさんが「 3日間寝込んだ 」奥さんの話を知ったのは、ずっ
と後になってからでした。
 
 
1982年、秋。 目白駅。 

先に来て待っていたキタさんは、小柄で丸顔、「カメさん」にそっくりな奥さ
んが大事そうに鞄を抱えてやって来るのを見つけます。
 
しかし、キタさんは奥さんの大きな瞳を真っ直ぐに見る事が出来ません・・・。
 
視線を落とすキタさんの顔をのぞき込む様に奥さんは・・・
 
 「 おバカさんねェ~ッ! 」
 
ニコニコである。 いつもの様にニコニコである! 本当は落ち込んで3日間
寝込んでいた人が・・・!
 
キタさんは、この時の奥さんの笑顔を今も忘れる事ができません。
 
きっと生涯忘れないでしょう・・・・・。
 
 
 
            「 漫画家アシスタント 第5章 その53 」 へつづく・・・



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漫画家アシスタント 第5章 その51

2008年07月24日 21時35分10秒 | 漫画背景
( この写真は、1987年当時に撮影されたJプロ、アシスタントの仕事場風景です。平均年齢
  30歳代のスタッフ。今現在の平均年齢は54歳!《 1987年夏、撮影 》 )
   
 
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
  
 
   
               その51
 
 
漫画背景ばかりを10年、20年と描いていると、自分の人生そのものがただ
の「 背景 」の様に影の薄いものになっていく様な・・・そんな、気がする
ものです。( 背中で木枯らしが吹いている様な・・・ )
 
私の様に一度でも作品を雑誌に発表できた者でさえそうなのですから、一
本も作品を世に出す事が出来ずにいたらなおさらだと思います。
 
人生の歯車が自分が望む方向とは全然違う方向へ進み、望むべき結果とは真
逆の結果に直面する。そんな時、人は泣くより先に笑うものなのです。
 
 
1982年、秋の深夜。Jプロの一番奥にあるJ先生の個室で、キタさん( 仮
称、当時30歳、Jプロ勤続12年目、私を含むサラ金トリオの一角。 )は、
先生と二人っきりで話し合います・・・・。
 
なぜ、500万円(現在の貨幣価値で約1000万円)もお金を借りたのか・・・? 
その事をキタさんは、最初の経緯から話し始めました・・・。
 
最初は少額の4,5万円から、しかし、徐々に借金は増え、高い利息の支払いに
迫られると月々の赤字額は膨らみ、さらに借金を増やしていく・・・つまり、
「 500万円も借りた 」のではなく、「 5年で500万円に増えた 」のです。
 
キタさんが500万円酒を飲んだり、遊んだりしたわけではまったくありません。
J先生にはその事がよく理解してもらえた様でした。 なぜならJ先生自身、
若くして有名人になり、財産を築いた事から金に窮した友人や身内から何か
と頼られる( 借金の依頼など )経験があったからです・・・・・。
 
キタさんはJ先生の目の前で上着から下着まで、着けている服を全て脱ぎ捨て
る様に借金地獄へ落ちていく過程を告白しました。
 
J先生はブランデーグラスを何度も口に運びながらジッと聞いています・・・。
そして、キタさんの話を聞き終えたJ先生は、静かにうなずきながら・・・・
 
 「 大変だったな・・・・・ 」
 
キタさんはJ先生の一言で救われます。
 
 「 Yちゃん(私)・・・先生は『 大変だったな 』って、そう言って
   くれたんだよ! 」
 
深夜から夜明けまで、J先生とキタさんは酒を一緒に飲みながら話し合った
そうです。借金の事は後日Jプロを担当する会計事務所とも相談した上で善
後策( 事実上、Jプロが肩代わりする )を練るという事で一件落着しました。
 
J先生は怒る事も説教する事も愚痴る事もなく、何気ない雑談で朝日が部屋
の中を明るくするまで付き合ってくれたそうです。
 
キタさんは、帰り道の夜明けの目白通りの事を何も覚えていはいません。きっ
と美しく澄み渡った秋空だったろうに・・・・。 夜、先生の所へ行く時の
事は生涯忘れる事が出来ないキタさんが、この朝の事を覚えていないのです。
 
なぜなら・・・普通の人が「 普通の朝 」をいちいち覚えていないのと同じ様
に・・・キタさんは、5年間の肩の荷を降ろし、やっと「 普通の朝 」を手に入
れたからではないか・・・と、私は思うのです。
 
ところが・・・・J先生を担当する会計事務所が、キタさんの事をまったく信
用していませんでした・・・!
 
 
 
            「 漫画家アシスタント 第5章 その52 」 へつづく・・・



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漫画家アシスタント 第5章 その50

2008年07月17日 19時34分25秒 | アシスタント
( この写真は、先日訪れたTBS(東京、赤坂、写真中央奥)です。丸ノ内線「赤坂見附駅」から
 「一ッ木通り」を歩いて突き当りの「交差点」を右に・・・しばらく歩いていくと行くと「TBS
 放送局」が見えてきます。ここまで歩いただけで汗びっしょりでした・・・!《 2008年度7月
 撮影 》 )
  

【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
 
 
   
               その50
 
 
1982年、秋。 キタさん( 仮称、当時30歳、Jプロ勤続12年目、私を含
むサラ金トリオの一角。 )がJ先生に電話をかけた時、受話器の向こう
の先生は、キタさんがカード賭博で借金を作ったのかと誤解していたので
す。
 
そして、J先生は、独り言でもつぶやく様に・・・こう言いました・・・
 
 「 貸せないねィ・・・! 」
 
金額も、借金の事情も聞かずにキッパリとJ先生は言いました。 しかし
・・・・・・
 
 「 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 」
 
黙り込んだキタさんのただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、J先生は・・・
 
 「 今すぐ、来い! 」
 
キタさんは、急いでもと来た道を戻ります。西武池袋線の椎名町駅から、暗
い夜道を目白通りに向かって路地を抜けて行きます・・・。
 
私は最近、キタさんにこんな事を聞きました・・・
 
 「 今さっき出てきた仕事場へ戻る時の心境はどんなだったんで
   すか・・・? メチャクチャ落ち込んでいたんですか・・・? 
   すごく先生が怖かったんじゃないですか・・・? 」
 
 「 いやぁ・・・楽だった・・・・・ 」
 
 「 ・・・?! 」
 
 「 もう、先生に一度話してしまったら・・・・・まな板のコイの心境
   よ。先生には怒られるだろうけど、もう全てまかせよう・・・・
   って・・・・ 」
 
深夜11時から0時になろうとしていた頃、キタさんは目白通り沿い、Jプロ
の入っているマンションのエントランスをくぐって行きます・・・。
 
マンションの7階、目白通りの夜景をバックにJプロのドアを開けて中へ・・
・・・。
 
はじめにアシスタントの仕事場を通り、奥にあるJ先生の部屋へ・・・その
部屋はドアのない6畳ほどの広さで、J先生のデスク、本立て、そして応接
セット・・・少し、ゴチャゴチャした印象を受けます。
 
その応接セットの一人用の大きなソファにJ先生は腰掛け・・・ブランデー
をグイグイと飲んでいるわけです。 いつもなら、先生の前には、2人掛け
用のソファに編集員が座っているのですが・・・今は勿論、誰もいません。
 
 「 先生・・・・・すいません・・・・・・ 」
 
頭を下げながらキタさんは焼ける鉄板の上を歩く様にJ先生の部屋へ入って
行きます・・・。 音一つしない、静かな部屋の中には酔ったJ先生とキタ
さんの二人だけです・・・
 
 「 ・・・うゥ・・・・・・ 」 
 
入って来たキタさんを槍で突き通す様な目で一べつしたJ先生は・・・
 
 「 それでィ・・・? 」
 
2人掛けソファのスミに腰かけて、うつむいているキタさんに静かに問いかけ
ます・・・
 
先生は、はじめトランプ博打で負けた借金だと思っていたのですが、それが、
実は・・・サラ金と信販会社などのカードローンによる多重債務、総額500万
円(現在の貨幣価値で約1000万円)と聞いた時には、さすがに眼を丸くした
事と思います。
 
 「 な・・・何ンでィ・・・! 何ンでィ、そんなに借りたんだよォ!? 」
 
 「 ・・・・・・・・・・・・ 」
 
首をひねるキタさん・・・
 
 「 自分でもよく分からないんです・・・・・ 」
 
J先生も首をひねりながら・・・
 
 「 博打じゃねィ~のかよォ・・・ 」
 
 「 ・・・はい・・・違います・・・・・ 」
 
 「 ・・・・・・これィか? 」
 
J先生は酒を飲む仕草をする・・・
 
 「 ち・・・違います・・・・・ 」
 
 「 んじゃ・・・これィか? 」
 
J先生は右手の小指を立てる・・・
 
 「 ・・・違います、先生! 」
 
 「 じゃあ、何ンだァッ!? 」
 
 「 それが・・・・・・ 」
 
 「 ・・・ん・・・・・・? 」
 
 「 分からないんです・・・・・ 」
 
 
 
            「 漫画家アシスタント 第5章 その51 」 へつづく・・・



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漫画家アシスタント 第5章 その49

2008年07月10日 22時30分43秒 | 漫画家
( この写真は、Jプロ仕事場にある本立てと整理棚ですが・・・・その本立ての前に雑然と置か
  れているダンボール箱の中にJ先生の生原稿や、新しい単行本が詰まっています。この様に放
  置されているダンボール箱があちらこちらにゴロゴロしているのです。 《 2008年度6月撮影 》 )
   
 
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
  
 
   
               その49
 
 
もらった給料のほとんどが現金自動支払機に吸い取られ、機械から出てくる
カードとペラペラの小さなサラ金の明細書を受け取る・・・
 
 『 俺の人生は何ンなんだよ・・・・・毎日、借金の事で頭がいっぱい
   でさァ・・・! 』
 
Jプロの先輩アシスタントのキタさん( 仮称、当時30歳、Jプロ勤続12年目、
私を含むサラ金トリオの一角。 )は500万円の借金・・・サラ金2社、信販系
カードローン多数、それぞれ利息40%~30%・・・その借金に押しつぶされ
そうになった経緯については、これまでに書かせていただきました・・・・・。
 
 「 親にも友人にも借りた金は、必ず返してきたんだ・・・ 」
 
キタさんは、遠くを見つめる様に古い過去を思い出してくれました・・・・。
 
 「 ただ、一度だけ・・・中学生の時に友人から借りた2000円を返
   せなかったんだ・・・ 」
 
 「 何に使ったんですか、そのお金? 」
 
 「 もう、忘れちゃったけど・・・そのお金を返せずじまいになって
   しまった事だけは、心残りだなァ・・・ 」
 
 「 ・・・・・・・・・ 」
 
 「 それだけだよ、返さなかった借金なんて、それ一度きりなん
   だ・・・! 」
 
1982年、秋。毎月、転がり落ちる雪だるまの様に大きくなる借金を、ついに
支えきれなくなったキタさんは覚悟を決めてJ先生に相談しようとしますが、
電話一本するにも何度もためらい・・・決心してから1週間の間、悶々と悩み
続けるわけです。
 
Jプロでは、この当時「 ○ンクのカーテン 」や「 ○んじんさん 」そして「 H
雲 」を連載していました。キタさんの孤独や苦しみなど、想像もしなかった
他のスタッフ・・・。 そして、みんな真面目にやっているだろうと自分の作
品に命をかけているJ先生・・・・・。
 
キタさんは、その日の仕事が終わって夜の道を目白通りから西武池袋線の椎名
町駅に向かって他のスタッフと一緒に帰ります・・・・・。
 
 「 んじゃァ、キタさん! 」
 
 「 あ・・・ああ・・・じゃな・・・ 」
 
 「 キタさん、じゃね! 」
 
 「 あ・・・ああ・・・ 」
 
スタッフたちと別れてひとり歩くキタさん・・・・・。 街灯の下で自分の影
を見つめながら・・・
 
 『 仕様がない・・・・・・もうダメだ・・・・・・ 』
 
暗い路地をうつむいて歩き続けるキタさん。夜の冷たい秋風を背に・・・絶望
的な気持ちで重たい足を運びます・・・・・・
 
この時の、暗い・・・真っ暗な・・・泥の様に重い秋の夜をキタさんは今でも
忘れられないと言います・・・・・・。
 
 『 J先生に・・・電話・・・・を・・・・・・ 』
 
角を曲がり、酒屋の横にある公衆電話・・・。キタさんはその前に立ち止まり
ます・・・・。
 
 『 今度こそ・・・ 』
 
受話器を取り、ダイヤルを回す・・・( 当時は赤いダイヤル式電話 )
 
 ルルル・・・  ルルル・・・  ルルル・・・ ルルル・・・
 
キタさんは、もうヘトヘトに疲れていた・・・。もう受話器から逃げる元気もな
い・・・・・
 
 ルル・・・カチャ!
 
 「 ・・・・・・うゥ・・・・・・? 」(「グゥ」に聞こえるほど低い声)
 
 「 せ・・・先生・・・ 」
 
 「 誰ィ? 」
 
キタさんは、心臓をゲロする様な思いで一気に吐き出します・・・
 
 「 キタですゥ。 先生、金を貸して下さい! ・・・カードで借金しま
   した・・・! 」
 
 「 カード・・・? トランプでィ負けたのか? 」
 
 
 
            「 漫画家アシスタント物語 第5章 その50 」 へつづく・・・



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 ★ 08年、7月13日(日)TBSラジオ『安住紳一郎の日曜天国』にゲスト
   出演! ・・・信じられない様なホントの話です。 13日、11時頃の
   『ゲストdeダバダ』のコーナー(生放送!)だそうですが・・・正直、
   大変おびえております!(汗、汗、汗)

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漫画家アシスタント 第5章 その48

2008年07月04日 21時42分46秒 | 漫画家アシスタント
( この写真は、Jプロに溜まったゴミの山です。 一か月以上、ゴミ出しが出来ないでいる
  と・・・この様な有り様になります。 ゴミを出せる日が週一回なのでタイミングを逃す
  と大変です。衛生上も大変良くないのですが・・・Jプロでは、誰一人として気にもと
  めません。《 2008年度6月撮影 》 )
 
 
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               その48
 
 
漫画家アシスタントの給料は高い・・・とは言えませんが食べていけない
ほど安いわけでもありません。 サラリーマンの平均賃金に比べて、その
60%位を今も昔も同じ様な比率でいただいている様です。
 
1982年、秋風に冬の到来を予感させる様な薄ら寒さが身にしみる日々・・
・・・。 給料日に月給袋を受け取っても寂しさだけしか感じない多重債務
者であるキタさん( 仮称、当時30歳、Jプロ勤続12年目、私を含むサラ金
トリオの一角。 )。
 
 『 右から左へ・・・目の前を流れて行くだけ・・・ 』
 
自分の給料が自分の手に入らずに借金の利息払いのために現金自動支払機に
吸い込まれて行く・・・・・
 
 『 何ンのために生きているのか・・・・ 』
 
そう、問わずにはいられない・・・
 
 『 誰のために仕事をしているのか・・・・ 』
 
もう、何年も自分の給料を受け取ったという実感を持てない日々がつづいて
いる・・・・・。 まるで収入のない奴隷の様に・・・・ただ毎日働き、利息
を支払い続けるだけ・・・。 元本と同額かそれ以上の利息を払っているのに、
借金は増え続けるだけなのだ・・・・・。
 
月給袋をもらってニコニコしている後輩アシスタントを見る時、いつも針を
飲み込む様に傷つくのだ・・・・・。
 
 『 何ンのために生きているのか・・・・ 』
 
借金500万円、毎月の利息の支払い15万円。 しかし、手取り給料はボーナス
分を含めても月20万円ほど・・・。 どうしても毎月5万円、6万円と赤字にな
る・・・。
 
その赤字を新たな借り入れで補てんしなくてはならない。 そのため、毎月末
には新しい借入先を探したり、借入限度額の増額を求めたり・・・と、金策に
走らなければならない・・・・。
 
しかし、すでにそれにも限界が来ていた・・・。 どうあがいても怪物の様に
借金が増え続け、毎日、利息の計算に頭を痛め、息を吸えばため息となり、食
事をすれば味気なく、歩けば猫背で、目はうつろ・・・。 パジャマを着せれ
ば、まさに重篤な病人の様・・・!
 
借金、利息、返済、借金、利息、返済、借金、利息・・・・・・毎日、毎日、
毎日・・・「 借金 」の事で頭の中がいっぱいだ・・・!
 
 『 ダメだァ・・・・もう、ダメだァ・・・・・・ 』
 
キタさんは、J先生に相談するしかないとあきらめる・・・どんなに怒られて
も・・・仕様がない・・・と・・・。
 
 「 そりゃ、怖かったよォ! 本当に怒られるのが怖かったもんなァ・・・ 」
 
今、キタさんは当時を思い出しながら苦笑します。
 
J先生に相談するしかないと考えても、すぐにJ先生に相談する事は出来なか
ったそうです。 2万、3万の借金ならともかく、500万円( 今の貨幣価値で1000
万円ほど )の借金となると事は重大です。
 
いったい年収の2倍もの借金を会社の社長に相談したら、どういう事になるで
しょうか・・・?  「はい、はい」と言って、助けてくれる社長様がこの世の
中に一人でもいるでしょうか・・・?!
 
キタさんには、両親がありませんでした。 頼りになる親戚もなかったのです。
まさに天涯孤独・・・。  一人で借金の重さに毎日耐えていました。
 
しかし、ついに・・・その重さの余り膝を屈っしてしまうのです・・・・・
 
 『 もう・・・J先生しかいない・・・・・先生しか・・・・・・・・・ 』
 
公衆電話の受話器を取って、先生に電話をかけます・・・・
 
 ルルル・・・、ルルル・・・
 
呼び出し音が聞こえます・・・
 
 ルルル・・・、ルルル・・・
 
キタさんの心臓はバクバクです・・・!
 
 ルルル・・・
 
まだ、呼び出し音が・・・
 
 ガチャリッ!
 
キタさんは受話器を戻してしまいます。
 
 『 ダメだァ・・・先生には言えない・・・・・・ 』
 
 
 
            「 漫画家アシスタント 第5章 その49 」 へつづく・・・



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              今回は、下の「 お知らせ 2 」も併せてご覧下さい!
 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ お知らせ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 ★ 拙ブログ「漫画家アシスタント物語」(第1~4章収録)が書籍化!
   全326ページ。第1章の一部漫画化! 秘蔵未公開写真19点、描き下ろ
   しイラスト18点を含む画像総数148点! デビュー漫画「雨のドモ五郎」
   を完全収録! 《ネット通販を見る》
 
 
 ★ 拙作、文庫本『 劇画 蟹工船 覇王の船 』
    ( 劇画「覇王の船」 + 小説「蟹工船」の二本立て! )が発売中!
 
  ○ 送料がかかってしまいますが・・・ 《アマゾンのネット通販》
 
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~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ お知らせ 2 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 ★ 08年、7月13日(日)TBSラジオ『安住紳一郎の日曜天国』にゲスト出演!
   信じられない様なホントの話です。
  
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【 各章案内 】   「第1章 改訂版」  「第2章 改訂版」  「第3章 改訂版」
          「第4章 その1」  「第5章 その1」  「第6章 その1」
          「第7章 その1」  「第8章 その1」  「第9章 その1」
          「諦めま章 その1」   「古い話で章 その1」
          
「もう終わりで章 その1」 「移住物語 こりゃタイ編 その1」




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