漫画家アシスタント物語

漫画家アシスタントの馬鹿人生40年と、リタイア後のタイ移住生活。

漫画家アシスタント 第9章 その20

2012年05月23日 07時38分38秒 | 漫画背景

 ( この写真は、私が講師として通う大学近くのコンビニです。毎朝、ここでおむすびを一つ買って行きます。
  何も食べずに講義をすると、途中でお腹がゴロゴロと鳴りだしてしまうので、必ず食べる様にしているので
  す・・・・・《 2012年5月、撮影 》 )
  
  
  【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】

 
 
                  その20  
 
  
    《 漫画家アシスタントが・・・印税を吸い取られる・・・!? 》
 
 
 「 良かったねェ~ッ! 」

T先生( ※参照 )は、初めての講義( ※参照 )に失敗して落ち込む私に笑顔でキッパリと言
ったのです。

私は一瞬、絶句するのですが・・・・・T先生は気にする風もなく・・・・・・

 「 それは、良い経験をしたよッ! 」

何かとても美味しいものでも食べた時みたいに・・・・・じっくりと味わう様にそう言っ
たのでした。

漫画原稿が没になった後で、どうすれば良いのか分からなくなる・・・・・そんな経験
をした時には、迷路にでも入り込んだ様な・・・・・そんな暗中模索が当たり前だった
のですが・・・・・・

今回の事は、失敗というものが改めて貴重なものなのだと知らされました・・・・・

その後は、しっかりと教材を揃え、資料の準備や確認に時間を割き、講義ノートの整理
や調整を授業の直前まで行なう様になりました・・・・・( 授業開始の1時間近く前には
登校 )

失敗経験が人を創るとは、よく言ったものです・・・・・その後、3年間、未熟ながらも
私が講師を続けていられるのは、この時の経験があったからかも知れません。

T先生は今年で大学を定年退職( 名誉教授に )し、私は今年で57歳になるのですが・・
・・・

会って話している間に、いつの間にか24歳の高校講師と16歳の高校生に戻ってしまってい
るのが不思議です。

ちなみに・・・・・

私は・・・・・今でも、授業の前はビクビクとトイレに入り、授業の後はガックリと疲労
感に包まれる・・・・・というのは今でも同じです・・・・・・

20歳前後の学生たちからすれば、50過ぎのオヤジなんぞ偉そぶって暑苦しいだけの存在か
も知れませんが・・・・・

その実態は、内心オドオド、緊張でビクビク・・・・・・迷子のオヤジといったところな
のです。


さて、話はここで急に変わるのですが・・・・・・・実際、学校の話は書きにくいので、
話題を変えたいと思います。


こうして、大学講師の仕事がスタートした頃・・・・・一つのオファーがありました。

それは、私が以前描いた「 覇王の船 」( ※参照 )という小林多喜二の「 蟹工船 」を原作
にした漫画作品を携帯用漫画として公開したいというものでした。( 会社の名前は忘れて
しまいました )

ネットを通じてデジタル書籍を販売したりする事がトレンドになり始めた頃の事です・・
・・・

もっとも、それから何年も経っているのに、まだネット書籍が主流にならないとは・・・
・・・・随分と日本も遅れてしまった様ですが・・・・・

私の「 覇王の船 」・・・・・何ンだか、地味な作品が選ばれて・・・・・申し訳ない様
な気もするのですが・・・・・

ありがたい事に本気で「 携帯漫画 」として編集、公開してくれると言うので、喜んで承
諾しました。

印税(?)としては、最初に2万円いただくだけなのですが・・・・・( 公開後に販売の
定量を超えると追加金がもらえますが、そんなに売れない )・・・・・それでも、私の
作品を選んでくれた事がホントに嬉しかったのです。

携帯漫画は、一コマ、一コマ、編集されているので小さな携帯画面でも意外と楽しく見や
すいものになっています。

私は、「 覇王の船 」が公開された時にすぐダウンロードしました。( 自分の作品をダウ
ンロードするのは恥ずかしいのですが )

料金は100円ほどでした・・・・・

 『 110ページの漫画が100円か・・・・・まあまあの値段かな・・・・・ 』

と、そんな事を思いながら、慣れぬダウンロードを2、3回繰り返したわけです。

ところが、その後送られて来たソフトバンクからの料金明細を見て愕然・・・・!

なんといつもより2万円も料金が多いのです!

そこで、早速ソフトバンクへ問い合わせると・・・・・

 「 パケット通信は料金が高めですので・・・・・ 」

 「 はあ? パ、パケットつ~し~ん? 」

漫画のダウンロード料金100円とは別に通信費がかかるなどとはまったく知らなかった
( 説明されていたのかも知れないが )のはうかつでした。

パケット通信は普通セット価格で定額を支払えば無料で使いたい放題なのですが、私は
セット契約していないので、最高額を支払うハメになったわけです。

こうして、「 覇王の船 」の印税2万円は、あっという間に・・・・・ホントにあっとい
う間に、ソフトバンクに吸い取られてしまいました。( く、悔しい! )

今でも、ソフトバンクやAUなどの携帯電話会社のコマーシャルを目にすると、ムカムカ
と不快感がわき上がって来るのを抑え切れないのです・・・・・。

 
 
        「 漫画家アシスタント 第9章 その21」( 6月1日頃公開 ) へつづく・・・・


             ★前の記事へ→ 「漫画家アシスタント第9章 その19」へ戻る 】


 
 
  【 ※参照 】
 ・T先生・・・・・私が高校(東京目黒)時代に古文や国語を教えてくれた当時24歳の若き恩
  師。学校外でも色々な事を相談・・・・・大変な迷惑だったと思われるが、今でも私に多
  くの示唆を与えてくれます。拙作文庫本「蟹工船・覇王の船」に解説文を書いていただ
  きました。現在は某大学名誉教授
 ・講義・・・・・・東京の繁華街にある美術系大学での最初の授業。私が「背景美術」の講
  義を担当。水曜日の朝1時限。(現在は、水曜から金曜まで各1時限)
 ・「覇王の船」・・・91年、ヤングジャンプの別冊に掲載。小林多喜二「蟹工船」を原作にし
  た100ページの文芸漫画作品。08年には「蟹工船ブーム」にのって単行化(10ページ
  追加して110ページになる)される。




 
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【 各章案内 】   「第1章 改訂版」  「第2章 改訂版」  「第3章 改訂版」
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「もう終わりで章 その1」 「移住物語 こりゃタイ編 その1」




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漫画家アシスタント 第9章 その19

2012年05月16日 01時58分01秒 | 漫画背景

 ( この写真は、前回紹介した飲食街です。中央に写っているのが私が時々利用するラーメン店です。ここ
  のラーメンは大した事ないのですが、餃子が大変美味しいのでいつも注文しております。私は、ニラと生
  姜の利いた餃子が好きなのです・・・・・《 2012年5月、撮影 》 )
  
  
  【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】

 
 
                  その19  
  
 
     《 漫画家アシスタントが・・・空虚感を爽快に・・・!? 》
 
 
授業( ※参照 )が始まってから30分・・・・・・

教壇に立ち尽くす私は考える・・・・

 『 何をすれば良いのだろうか・・・・? 』

この日のために作った課題( ※参照 )も講義ノート( ※参照 )も意味をなさない・・・・・・
・・・・本来必要だった「 授業内容 」( ※参照 )は手元にない・・・・・・・

実は、この講義の前日・・・・

 『 もし時間に余裕があれば・・・・ 』

・・・・そう思って作っておいた「 イラストアンケート 」があったのです。

それは、学生自身・・・・つまり・・・・

 『 自分が作ったキャラクターが今の自分に向かって語りかけるとしたら、どん
   な事を語りかけるだろうか・・・・ 』

・・・・というテーマの一コマ漫画を描いてもらうというものでした。( あくまでおまけの
つもりで作っておいたものです )

残りの授業時間・・・・1時間・・・・このイラストアンケートに当てよう・・・・もはや、
それしか打開策はない・・・・・・と。

予備に作っておいた一枚の「 アンケート 」がこんな形で役に立つとは思いもしませんでし
た。

授業は、最後までそのアンケート制作とそれに対して各学生との面談という形で進行し、
かろうじて終了のチャイムに救われたわけです。

この時の私の頭は、完全に空白( オーバーヒートで発煙中 )で・・・・・・これほどの疲
労感をかつて経験した事がありませんでした。

肉体的な疲れではなく、純粋に脳ミソだけの極度な疲労状態・・・・・・

まさに、頭が真っ白・・・・思考能力ゼロの抜け殻・・・・・・・・そんな感じでした。

生まれて初めての講義を終えて教室から出てエレベーターで教務課へ戻る時には・・・・
・・・・足を一歩踏み出すのがまるで鎖につながれた囚人の様な・・・・・・

・・・・ズル・・・・ズル・・・・

 『 疲れた・・・・心底、疲れた・・・・・ 』

・・・・ズル・・・・ズル・・・・

 『 もはや何も無い・・・・今の俺には何も無い・・・・空っぽだ・・・・・・! 』

たいして重くもないカバンがやたらと重い・・・・肩にかかるショルダーベルトがやけに
痛む・・・・・・

運動したわけでもないのに、息を荒げながら教務課へ入ると・・・・

開いたドアの正面には教務課の最高責任者である理事長(?)だか誰だか・・・・実は、い
まだによく分からないのですが・・・・とにかく偉い人が・・・・

私をニコニコと笑顔で迎えてくれるのです・・・・

初めての授業がどうだったのかと、気にしておられたのか・・・・どうなのか・・・・や
けに嬉しそうに・・・・・

 「 どうでしたァ? 」

この人物は、私よりも何歳か年上と思われる穏やかな方で・・・・映画の脇役でよく見か
けるタイプ・・・・大きな会社の中間管理職なんかがピッタリの人物。

私は、あまりの疲労感で返事も出来ない・・・・正直言って、返事もできない事で察して
欲しかったのですが・・・・・・

 「 若い学生たちからパワーを貰ったんじゃないですかァ~? 」

私は、頭の芯から白旗が上がっている・・・・・心の中で・・・・・

 『 パワーを貰うどころか、パワーを出し尽くしてこっちが死にそうですよ! 』

・・・・・全てを出し切ってしまって、もう何も絞り出せない状態・・・・・

そんな私には苦笑いするしかなく・・・・・・

ただ・・・・・・

今から考えると・・・・・不思議な事なのですが・・・・・・

あれほど苦しい授業に、心底疲れ果てたにもかかわらず・・・・不快感がまるでなかった
のです。

疲労感が心地よく・・・・何も無くなってしまたった空虚感が爽快ですらあったのです。

講師控え室で一人になった時に、自然と笑顔になる・・・・・・グッタリと倒れ込みたい・
・・・・肩で大きく息をしている・・・・・それなのに笑顔になっている・・・・・・

授業に失敗した自分への笑いなのか・・・・緊張から解き放たれた解放感なのか・・・・

今になって考えれば・・・・・・・

初めての授業に成功したとは言えないまでも、全精力を傾けた授業に・・・・・何とも表
現の仕様のない充実感を感じていたのだと思います・・・・・・

これは・・・・・・3~4ヶ月かけて漫画を一本完成させた・・・・27年前に体験したあの
気分と、とてもよく似ている・・・・・・!

・・・・・・・と・・・・これは、あくまで後になって考えた事ですが、実際、この時には
・・・・・・

ただ、授業が中途半端に終わってしまった事への罪悪感と敗北感でいっぱいでした・・・
・・・・・

数日間、この敗北感で落ち込んでいました・・・・・・

私は、以前講師依頼の件で相談した事のある大学のT先生( ※参照 )を訪ねました・・・・・

その時に、この日の事を話したのです・・・・・・

落ち込む私に向かって、先生は・・・・・

 
 
         「 漫画家アシスタント 第9章 その20 」( 5月20日頃公開 ) へつづく・・・・


              ★前の記事へ→ 「漫画家アシスタント第9章 その18」へ戻る 】

 
 
 
  【 ※参照 】
 ・講義・・・・・・東京の繁華街にある美術系大学での最初の授業。私が「背景美術」の講義
  を担当。水曜日の朝1時限。(現在は、水曜から金曜まで各1時限)
 ・課題・・・・・・学生にその日、描いてもらう練習用の背景画。
 ・講義ノート・・・・授業内容をまとめたもの。あいさつから課題配布や講義内容など、箇条
  書きにしたもの。これを確認しながら授業をすすめる。
 ・授業内容・・・その学期の授業全体をまとめた資料。各回の授業がどの様なもので、どの
  様な道具を必要とするか、また主要なテーマや簡単な講義内容なども記されている。
 ・T先生・・・・・私が高校(東京目黒)時代に古文や国語を教えてくれた当時24歳の若き恩師。
  学校外でも色々な事を相談・・・・・大変な迷惑だったと思われるが、今でも私に多くの示
  唆を与えてくれ某大学の文学教授。拙作文庫本「蟹工船・覇王の船」に解説文を書いていた
  だきました。



 
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漫画家アシスタント 第9章 その18

2012年05月04日 08時43分29秒 | 漫画家アシスタント

 ( この写真は、非常勤講師の仕事の後で時々立ち寄る飲食店街です。この街ではサラリーマンに愛され
  続け、戦後の闇市の時代から残る貴重な文化遺産です。お酒がダメな私は、ラーメンや餃子をよく食べ
  に来るのです・・・・・《 2012年3月、撮影 》 )
  
  
  【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】

 
 
                       その18  
  
 
         《 漫画家アシスタントが・・・首をくくりたくなる・・・!? 》
 
 
トイレの中で出ない小便を恨んでいても仕様がないので、虚しく手を洗うのですが・・・
・・・・そんな私に陰鬱な不安がまとわりつくのです・・・・・・・・

 『 ただの漫画家アシスタントが大学で講義( ※参照 )なんて出来るのか・・・? 』

引つる様に緊張する自分に対して・・・・・

 『 オレは30年以上もやってきたアシスタント( ※参照 )の経験がある・・・・そこ
   から技術をどれだけ伝承出来るか・・・それだけ考えればいいンだ・・・・ 』

・・・・・と気持ちを落ち着けようとするわけです・・・・・・

始業時間まで後・・・・・・5分・・・・・・

 「 学生たちの名簿はまだ用意できていません。2週間後位にこの科目を受講
   する学生が正式に決まりますので、それまで待って下さい。 」

教務課の説明を受けてもその意味がよく分からない・・・・・・

私は、ボード用のサインペンなどの入った箱と資料やプリント類を重ね持ち、大きなショ
ルダーバッグを肩に引っ掛けて、7階の教務課から4階の教室まで階段を降りて行きます・
・・・・・

ヒンヤリと静まり返った階段の踊り場で私は深呼吸・・・・・・唇がパサパサに乾いてい
る・・・・・・も・・・・・・もう一度トイレに行きたい・・・・・・

 『 何を考えているンだ・・・・・・教室へ行くしかない、やるしかない! 』

自分にムチを入れる様な気持ちで階段を一歩、一歩、降りて行きました・・・・・・

学生は、全員「 マンガコース 」を専攻する3年生。年齢的には19~20歳・・・・

20数人の学生が私に注目する・・・・・女子の方が圧倒的に多い・・・・・若い女性から
これほど注目を浴びるのは生まれて初めての経験・・・・・・・

笑い事ではない、まったく若い女性と接する機会のない中年オヤジが、20人以上の女子大
生の前で授業するのだ・・・・・

前にやった神奈川県の某大学での講義( アシスタントの苦労話を椅子に座ってするだけ )
とは全然違う・・・・・

全員がこちらを注視している・・・・・( まともに彼らを見られない )

教壇に立ち、教卓の上に資料やプリント、さらにバッグから筆記具などを出しているだけ
でも手がブルブルと震えてくる・・・・・

きっと足もガクガク震えていたかもしれません・・・・・

 キンコ~ン・・・・カンコ~ン・・・・・

明るい始業チャイムの音が鳴る・・・・・小さな妖精に笑われている様にも聞こえる・・
・・・

二人がけの長くて大きめのテーブルが横に3つ並び、それが手前から奥まで7~8列・・・
・・・・結構広い教室に私のオドオドした声が響きます・・・・・

 「 あ・・・・・え・・・・・お、お早うございます! 」

・・・・・ちょっと泣きそうな気分で・・・・・声が裏返りつつもかろうじて明瞭に発音・
・・・・

もう数年間大学で漫画の修練をしているだろうから・・・・すぐにでも背景画の課題に取
り組めるだろうし、なにより、私の事もきっと資料かなにかで読んでいるだろうと思って
いたので・・・・・

 「 私の事は、もう、資料かパンフで読んでいるかと思いますが・・・・・知ってい
   る人は・・・・・? 」

・・・・・と質問しても誰一人として手をあげない・・・・・

誰も、私の名前も素性も知らない・・・・・!

課題どころではなく、まず自己紹介を・・・・・・・・

 「 で・・・・・では、その・・・・・私は・・・・・漫画家のアシスタントを・・
   ・・さ、34年・・・・・・ 」

古い漫画家の名前を並べても、学生の多くはもはや知らない・・・・・それでも、貧乏ア
シスタント時代や、デビューした時の話からブログをはじめるまでの話など、大学で講師
をやるまでの経緯を汗を拭き拭き説明・・・・・・・・

15分ほどの自己紹介の後で背景の課題( 定規を使ったヨコ線や斜線 )を配り、それを、
原稿に描いてもらおうとした時でした・・・・・・・

せっせと課題のプリントを配る私に向かって学生たちが冷たい視線を送る・・・・・・

 『 何やってんの、この先生? 』

私は、ふと一番前の席にいる女子学生と目が合い・・・・・

 「 ・・・・・? 」

 「 先生、道具持って来てません 」

 「 え・・・・・? 道具持って来てないの? ペンも・・・・インクも? 」

私は彼女を困った様に見つめる・・・・すると『 知らないわよ! 』といった顔つきで・
・・・・

 「 今日は、講義だけだって・・・・・ 」

 「 ・・・・・はぁ~?! 」

私は、一瞬で自分が危機的な状況に置かれている事を悟ります・・・・・

全ての学生を見渡す様にしながら・・・・・

 「 今日、背景を描くための道具を持って来ている人は・・・・?」

誰一人として手をあげない・・・・・

 『 そうか・・・最初は講師の自己紹介や授業の説明をするだけなのか・・・・! 』

私は、この時に至って初めて自分が「 授業内容 」のプリントをコピーし忘れ、学生たち
にこれからの授業計画やその内容を解説する事も出来ないのに気が付きました。

授業の説明も出来ない・・・・・課題をやる事も出来ない・・・・・

授業開始20分・・・・・

無能な講師が教壇で首をくくりたくなった瞬間です・・・・・

もはや、課題はあきらめるしかない・・・・・

「 授業内容 」もない・・・・・

 『何も無いよ~ッ!』

 

        「 漫画家アシスタント 第9章 その19 」( 5月10日頃公開 ) へつづく・・・・


             ★前の記事へ→ 「漫画家アシスタント第9章 その17」へ戻る 】


 
 
  【 ※参照 】
 ・講義・・・・・・東京の繁華街にある美術系大学での授業。私が「背景美術」の講義を担
  当。水曜日の朝1時限。(現在は、水曜から金曜まで各1時限)
 ・アシスタント・・・・・1978年から務める漫画家J先生の仕事場。東京目白にあり、スタッ
  フは現在2人。連載は1誌。ちょっと淋しい今日この頃です。(バブル期には連載6誌、スタッ
  フ7人)




 
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