漫画家アシスタント物語

漫画家アシスタントの馬鹿人生40年と、リタイア後のタイ移住生活。

漫画家アシスタント 第7章 その12

2009年11月29日 16時27分16秒 | 漫画背景
( この漫画は、前回、前々回、前々々回に引き続き・・・私が描いた『A○○○』の一部分です。 
 場面は、主人公の母親が男の脳ミソを食べるシーンです。この様な絵は、お嫌いな方も多いか
 と思いますが・・・これっきりですのでご容赦下さい。《 1993年頃、作画 》 )  
  
  
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
 
 
 
                その12
 
 
 
友人のオーさん( ※参照 )が描く事になった単行本のテーマは・・・代用監獄。
 
「 代用監獄 」とは、警察の留置場の事です。
 
それが・・・自白偏重の裁判システムをバックに警察署内での長期間の取り調
べが冤罪を生むとして問題になってから随分と長い歳月が経ちます・・・。
 
この社会問題を扱った本を漫画化したのが「 ○画代用監獄 」( ※参照 )で原作は、
○野功氏。そして、作画はイラストや挿絵を仕事にしていた私の友人オーさんだ
ったのです。
 
私は、この本のスクリーントーンの削りなどを少しだけ手伝っていたのですが・
・・・・この単行本が出版された経緯に大変興味がありました。
 
それは、この本が原作者によってその企画がS出版社( ※参照 )に持ち込まれた
からです。 つまり、漫画原稿を漫画出版社に持ち込むのではなく、私が任意に
選んだ本をその本の出版社に「 漫画化企画 」として持ち込む事だって可能なの
ではないか・・・と。

漫画出版社と関係なく、私の漫画を世に出すチャンスがあるのだ・・・と・・・
・・・・そう目論んだのです・・・。
 
以前、このS出版社から出ていた某精神病院を告発した本が、私は好きだったの
で・・・
 
 『 ひょっとして・・・この本を俺の手で漫画化する事も・・・・ 』
 
・・・と、考えた私は、オーさんの紹介という形でS出版社へ原作となる本を持
って出かけたのです・・・
 
それにしても・・・見ず知らずの・・・どこの馬の骨とも知らぬ奴が突然現れて、
漫画の単行本を描かせてくれと言って実現するのかどうか・・・
 
半信半疑ながら・・・私は電話で「 書籍漫画化 」の企画を簡単に説明して、とり
あえずアポを取りました・・・・・
 
  
ここから始まる「物語」は、「第6章」と同じ様にその内容や人物、場所、時間な
どを若干、変更してあります。
 
読まれる方は、これが事実なのか虚構なのか判断に戸惑うかと思いますが・・・
・・・・仮に演出や虚構であっても、実際に起きた出来事から極端に違う事が書
かれているわけではありません・・・
 
ただ、「第6章」の様に登場人物に取材して書いた訳ではありません。まったく、
私個人の立場から主観的に書かれていますので・・・地雷を踏むように実在の人
物からクレームを受ける可能性はかなり高いと思います・・・・
 
では・・・・・ゆっくりと・・・・・・・地雷原へ・・・・・・・・
 
  
1992年12月。さいたま市に住む私( 38歳 )は埼京線の北戸田駅からS出版のあ
る千代田区御茶ノ水へ向かいました。
 
JR線の御茶ノ水駅から順天堂大学病院の脇を通って本郷の方へ数分歩くとビルの
谷間に、小さなS出版の本社ビルがあるのです・・・ホントに小さいビルなので
通り過ぎてしまいそうな程でした・・・。
 
社内で紹介された編集員のМ氏は、その後数年間に渡って、私の漫画制作を見守っ
てくれる事になる人物です。
  
М編集員は小さな椅子にガシャリと腰かけます。おびえた様に背中を丸める私とは
対照的に、体育会系のガッシリした大柄な人でしたが、優しく静かな物腰と人の良
さそうな笑顔を見せくれます・・・。ですから私は、緊張する事も無く要件を切り
だす事が出来ました。
 
 「 この本を漫画化したいと・・・ 」
 
すると、待ちきれない様に・・・М編集員が・・・
 
 「 実は、うち( 当社 )でも本の漫画化をシリーズにしたいと考えて
   いたところなんです 」
 
 「 ・・・! 」
 
これは、いい感触だ! 何か巧く行きそうだ! ・・・最初だけはいつも調子の良
い私です。
 
 「 あの『 劇画○用監獄 』を漫画化シリーズの第1弾として、次の
   企画をどうしようかと考えていたところなんです 」
 
まるで計った様なタイミングの良さ!
 
そこに、М編集員の上司であるメガネの編集局長(?)が・・・
 
 「 あの本( 精神病院を告発した本 )なら、漫画にしたら売れますよォ
   ・・・きっと! 」
 
そう黒ぶちのメガネの奥にある小さな目が嬉しそうに笑っている!
 
私たちは、金脈でも発見した山師の様に・・・・
 
話が盛り上がっていきました・・・・
 
 
 
            「 漫画家アシスタント 第7章 その13 」 へつづく・・・


               ★前の記事へ→ 「漫画家アシスタント第7章 その11」へ戻る 】

 
  
 
【 ※参照 】
 ・オーさん・・・・・・仮名:大村亮、関西出身、イラストレーター・・・でも漫画
  家に憧れてもいた人物。実際、児童学習誌などに解説漫画を掲載。93年
  当時、36歳。
 ・「○画代用監獄」・・・・・・・・警察署の留置施設での人権侵害をSF仕立ての
  劇画にして、分かりやすく解説された社会問題劇画。93年2月出版。週
  刊連載6誌という逸話もある。現在は2誌に連載中。93年当時、50歳。
 ・S出版社・・・・・・・・社会問題、思想書籍などを中心に扱う左派系で有名な
  出版社。(正確には出版社ではありませんが、このブログでは仮名使用) 
 

 
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          「諦めま章 その1」   「古い話で章 その1」
          
「もう終わりで章 その1」 「移住物語 こりゃタイ編 その1」




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漫画家アシスタント 第7章 その11

2009年11月22日 22時36分46秒 | 漫画
( この漫画は、前回、前々回に引き続き・・・私が描いた『A○○○』の一部分です。無重力状態
 で死体が浮いているシーンなのですが・・・この様に、あちらこちらで、キャラクターが逆さま
 になったりしているので、読者にとっては・・・かなり・・・見ずらいのではないかと・・・・
 《 1993年頃、作画 》 )  
  
  
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】

 
 
 
 
                その11
 
 
 
 「 おめィ~はよォ~・・・・・何、考ェ~てンだァ~? 」
 
J先生( ※参照 )は・・・まるで、風船から空気が漏れ出る様な・・・しぼむ様な
声でそう言うと・・・
 
 「 わからねィ~ぜ! これィッ! 」
 
と、テーブルの上の原稿をアゴで差しながら私の顔を窺います・・・・。
 
私は、黙ったまま・・・考え続けます・・・・・
 
 『 そうか・・・・セリフもナレーションも無い上に・・・意味不明の逆さま
  のキャラがフワフワ浮いてるんじゃ・・・・・ 』
 
自分でも制作中に、作品に無理がある事を心の片隅で感じていながら、それでも
制作を続行した( 推敲しなかった )愚かさを・・・今、J先生の前で小さくなりな
がら実感していたのです・・・・・・
 
自分で傑作だと思っている作品が、理解さえされないで机の上でゴミ化して行く
・・・・・
 
あれほど夢中になって描いた一本の漫画作品( ※参照 )が・・・衝撃的で格調高い
大叙事詩のつもりだった劇画作品が・・・26枚のただの紙の分子へと還元されて
行く・・・・・・
 
私には・・・もう、それを描き直す元気も気力もありませんでした・・・・・何
ンだか・・・・・つまらないTVドラマでも眺めている様な気分で、ソファに腰か
けていたのです・・・・。
 
J先生は・・・ガックリと肩を落とし、ドロンとした目でテーブルの原稿を見て
いる私に向かって・・・
 
 「 俺ィはよォ~・・・おめィ~に『 A 』( ※参照 )の続きを描いて欲し
  かったンだよなァ~・・・・ 」
 
 「 ・・・・・・・! 」
 
そんな事言われたら、飛び上がって喜ぶほど光栄な事なのですが・・・すでに矢
折れ、力尽きた私は、自分の重たい頭を持ち上げてJ先生の顔をジッと見つめる
事しか出来ませんでした・・・・
 
 『 そんな・・・続きだなて・・・無理に決まってますよ・・・・! 』
 
私がそんな風に弱気になっている事を、その表情から読み取っていたJ先生は・・
・・・クルーザーの船長の様に別の話題へと舵を切るのです・・・・
 
 「 ヤッてるかァ・・・女と? 」
 
 
さて・・・この話は、ここまで。
 
これからが・・・・・・この「 第7章 」の本題なのです・・・
 
 
この当時、私の友人のイラストレーターであるオーさん( ※下段参照。
《 第5章その11に登場 》 )が一冊の描き下ろし単行本を出すのですが、
その事から刺激されて一つのアプローチを考えたのです。
 
それは、出版社へ描いた「 漫画原稿 」を持ち込むのではなく・・・漫画の「 描
き下ろし単行本の企画 」を持ち込むというアプローチでした・・・
 
しかし、その結果・・・私が漫画制作のペンを折る事になろうとは・・・・想像
さえしませんでした・・・・・
 
これから書きますその話が・・・
 
このブログへのコメント欄に、幾人かの読者から要望されていた・・・例の・・
・・・「 私が漫画を描かなくなった理由 」・・・・・なのであります・・・・・。
 
 
 
            「 漫画家アシスタント 第7章 その12 」 へつづく・・・


               ★前の記事へ→ 「漫画家アシスタント第7章 その10」へ戻る 】

 
  
 
【 ※参照 】
 ・J先生・・・・・・・・有名漫画家、1966年、23歳で売れっ子作家に。70年には
  週刊連載6誌という逸話もある。現在は2誌に連載中。93年当時、50歳。
 ・一本の漫画作品・・・私がJ先生の代表作をリメークしたSF飢餓大作。未完。
 ・『 A 』・・・・・・J先生作、1970年に発表(半年ほどの週刊連載)。飢餓、人
  肉食、殺戮など壮絶なシーンに当時の漫画界を騒がせた。PTAなどか
  ら倫理上の問題ありとして、一部地域にて雑誌の発売が禁止になった
  問題作。
 ・オーさん・・・・・・仮名:大村亮、関西出身、イラストレーター・・・でも漫画
  家に憧れてもいた人物。実際、児童学習誌などに解説漫画を掲載。36歳、
  93年当時。
 
 

 
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漫画家アシスタント 第7章 その10

2009年11月15日 02時20分15秒 | 漫画家アシスタント
( この漫画は、前回に引き続き・・・私が描いた『A○○○』の一部分です。主人公のアップ
 なのですが、主人公自体はまだ物語に登場しません。まず、その母親が暴れまくるシー
 ンが続きます。《 1993年頃、作画 》 )  
  
  
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
 
 
 
               その10
 
 
 
漫画家アシスタントが師事するその先生の作品をリメークさせてもらうなど
という事は、少ないどころか・・・とても稀なケースだとは思いますが・・・
・・・( 他の漫画家の事はよく知りませんが・・・ )
 
とにかく私にとっては、これ程のチャンスはありませんでした。こ~ゆ~のを
「 棚からボタ餅 」と言うのかもしれません。
 
根っからのJ先生( ※参照 )のファンからすれば、邪道と思われたり、少なくと
も不快に思われるかもしれない事は充分覚悟した上で・・・私は絵コンテから
キャラクターの下描きに入りました。
 
タイトルは・・・
 
 「 A○○○ 」
 
サブタイトルは・・・
 
 「 J・A作『 A 』( ※参照 )再現! 」
 
タイトルページから突然、主人公のアップ( 上の画像 )そして・・・真っ暗な宇
宙空間に浮かぶ巨大な宇宙船・・・
 
破壊されたコックピットにはミイラの様に枯れた船員がユラユラと浮いている
・・・・・
 
第1回分で26ページ・・・全ページ、ナレーションもセリフも一言もなし、殺
戮の擬音がわずかにあるだけ・・・。そして、26ページの半分以上が見開き大
ゴマ。飢餓と殺戮と・・・脳ミソを鷲づかみにして貪る女・・・
 
渾身の一撃・・・そんな気合で『 A○○○ 』を描きました。何と言ってもJ先生
に恥をかかせるわけにはいきません。
 
この宇宙船は居住ユニットが回転する事で重力を発生させています。それ以外の
場所には重力がないので、死体や機材が浮いている状態です。
 
私はそれらを綿密に描いたつもりでしたが・・・それは裏目に出てしまいます・
・・・・
 
無重力状態のためにキャラクターが逆さまになったり、手前のキャラクターの奥
に逆立ちしたキャラクターや横になって浮かぶキャラクターが解説も無く各コマ
を埋めている・・・そうした構成が読み手を混乱させてしまうのです。( 方向感
や位置感覚が不安定! )
 
その上、もっと基本的な事が欠けていました・・・・・・
 
いつ、どこで、なぜ・・・・・この主要な疑問にまったく答えずに無理やり物語
をスタートしても、付いて来てくれる読者があるとは思えず・・・。
 
しかし、例の如く・・・見開きページのスペクタクル感に自己満足しながら、私
は机に向かいつつ・・・
 
 「 こりゃ~サイコーの漫画になる! 漫画史に残るかもしれない! 」
 
勇壮なクラシック音楽が流れ・・・迫力の大画面がスペクタクル劇画を盛り上げ
る・・・・。 深夜、原稿に向かう私は・・・こんな感じで一人、悦に入ってい
たのです。
 
そんな私を・・・
 
 『 馬鹿だなァ・・・ 』
 
皆さんは、そう思うかもしれませんが・・・・・・実は・・・本当にそうなので
すから・・・・・これは、もう・・・哀しいほどの馬鹿としか言い様がありませ
ん。
 
こうして・・・下描きを完成させ、その原稿を持って真っ先にJ先生に見てもら
いに・・・・・
 
先生は静かに・・・読み終えた原稿を手に持ったまま・・・・
 
これも、また例の如く・・・無表情な・・・低い声で・・・
 
 「 何だ~これィ? 」
 
・・・「 何だ 」と言われても・・・何とも答え様のない私。
 
 『 たぶん・・・漫画だと思うんですが・・・ 』
 
などと冗談の一つも言えるわけでなく・・・・・
 
しばし・・・沈黙・・・・・・・・・・・・・
 
冷蔵庫に閉じ込められている様な気分の中で・・・・・・結局、私に出来た事は
・・・・・
 
ただ・・・先生に・・・憐みを乞う( お慈悲を乞う )様な眼を向ける事だけだ
ったのです・・・・・・・
 
 
 
            「 漫画家アシスタント 第7章 その11 」 へつづく・・・


               ★前の記事へ→ 「漫画家アシスタント第7章 その9」へ戻る 】

 
  
 
【 ※参照 】
 ・J先生・・・・・・・・有名漫画家、1966年、23歳で売れっ子作家に。70年には
  週刊連載6誌という逸話もある。現在は2誌に連載中。93年当時、50歳。
 ・『 A 』・・・・・・J先生作、1970年に発表(半年ほどの週刊連載)。飢餓、人
  肉食、殺戮など壮絶なシーンに当時の漫画界を騒がせた。PTAなどか
  ら倫理上の問題ありとして、一部地域にて雑誌の発売が禁止になった
  問題作。
 
 

 
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漫画家アシスタント 第7章 その9

2009年11月08日 01時44分37秒 | 漫画家志望
( この漫画は、私が描いた『A○○○』の一部です。オモチでも食べている様に見えますが・・・・
 ・・・実は人間のお肉です。ブログにアップする段階でキワドイ部分は切り落としてあります。
 《 1993年頃、作画 》 )  
  
  
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
 
 
 
                   その9
 
 
 
 「 おめィ・・・『 A 』( ※参照 )を描いてみな・・・ 」
 
突然・・・J先生( ※参照 )から、そんな事を言われたのに・・・あわてたり、困惑
したりする事も無く、ただ・・・光栄でもったいない様な・・・・それでいて意識は
意外なほど冷静で・・・・・。
 
ほんの一瞬で・・・私は作品のイメージを自分の心の奥深くへと沁み込ませます・・
・・・
 
普通だったら・・・

 「 先生、そんな事、無理に決まってますよ! 」
 
とか、
 
 「 冗談は勘弁して下さい! 」
 
・・・そう言って、遠慮するところかもしれませんが・・・
 
私は、あっさりと・・・
 
 「 はい・・・ 」
 
私が簡単にこう返事ができたのは、J先生の『 A 』をそのまま描くつもりなど毛頭
なかったからです。
 
現代風にアレンジする・・・つまり新しい( 自分なりの )『 A 』を作るという事です
・・・・・。
 
ただ、物語の舞台は「 飢餓 」という極限状況ですから、それを現代の日本を舞台と
して設定する事には無理があります。 すぐ思いつくのがアフリカの紛争地やアジア
の災害被災地・・・。しかし、ドキュメンタリーを描くわけではなく・・・・。
 
そこで、私が考えたのが・・・・・SF。 宇宙に浮かぶ巨大なコロニー宇宙船( 数
100人規模の星間移民船 )に起きる飢餓状況を設定してみました。
 
大きな移民船の指令室に極小隕石が激突・・・移民船はコントロールを失います。そ
して、食糧生産が止まりわずかな食べ物を奪い合うために、壮絶な殺し合いが始まり
ました・・・・。 
 
争いの果てに・・・生き残った者が数人・・・その中に一人の女がいました・・・そ
の女が一人の子供を産み落とすのです・・・食料のまったく無い移民船の中で・・・
・・・人間の肉以外は・・・・・。( この辺りから物語がスタートします )
 
その後、他の宇宙船に救助されるのですが・・・その時には・・・・・。( ここまで
を連載用に構想しました )
 
私は夢中で絵コンテを描き上げ、原稿にキャラクターの下書きを始めたのです・・・。
 
 
それにしても・・・なぜ、J先生は自分の代表作を私の様な者に譲るのか・・・

J先生が、そんなにも弟子を愛してくれていたのか・・・?
 
それとも・・・『 どの程度の力で、オレの作品を利用するか 』と試しているのか・・
・・・?
 
でも・・・やっぱり・・・『 おめィ~は才能が無ィ~からオレのお古でも使ってろ 』
( どうせダメに決まってる )とサジを投げているのか・・・?
 
その真意はいまだに分かりません。( いや、・・・たぶん、サジ投げかなぁ・・・ )
 
しかし、当時の私は・・・
 
 「 冗談なのかな・・・試されてるのかな・・・・ 」
 
などと、ボンヤリとした頭で・・・ただ机に向かったのです・・・
 
それでも、不思議と・・・頭の中には自分なりのイメージがどんどん起動するのです・
・・・・・
 
こうした恐ろしげな漫画になると、なぜか馬力が出る哀しい性格・・・・・。
 
SF物( 漫画でも映画でも )には、よく宇宙空間で空気が無いのに「 ドカン 」とか「 グ
ワ~ン 」とか擬音がしたり、爆発の時に火が出たり、ちゃちな宇宙船なのに重力があっ
たり・・・私は、そうした「演出」とは違う、よりリアルな表現にこだわりたかったの
です。
 
なにせ、設定が設定ですので・・・いい加減には描けません・・・しかし・・・この「硬
さ」が後に致命的な欠陥を発生させます・・・・・( 欠陥は、これだけじゃありませんが・
・・・! )
 
 
 
            「 漫画家アシスタント 第7章 その10 」 へつづく・・・


               ★前の記事へ→ 「漫画家アシスタント第7章 その8」へ戻る 】

 
  
 
【 ※参照 】
 ・『 A 』・・・・・・J先生作、1970年に発表(半年ほどの週刊連載)。飢餓、人
  肉食、殺戮など壮絶なシーンに当時の漫画界を騒がせた。PTAなどか
  ら倫理上の問題ありとして、一部地域にて雑誌の発売が禁止になった
  問題作。
 ・J先生・・・・・・・・有名漫画家、1966年、23歳で売れっ子作家に。70年には
  週刊連載6誌という逸話もある。現在は2誌に連載中。93年当時、50歳。

 
 

 
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漫画家アシスタント 第7章 その8

2009年11月01日 17時14分09秒 | 漫画家アシスタント
( この写真は、東京目白にある某マンションの7階から撮影したものです。 ちなみに、画面右手
 に写っているドアがJプロのドアです。 写真は目白駅方面を写しています。 スッキリしない天
 気が数日続いたのですが、久しぶりの秋晴れです・・・。《 2009年10月、撮影 》 )  
  
  
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
 
 
 
                その8
 
 

ギャグ漫画がボツで、タイ人女性との恋愛物の構想も当時の世相( 密入国、
不法就労、偽装結婚 )を反映してか、編集員には・・・
 
 「 外人の女と恋愛ィ? ・・・そんなもん信用できますかァ? 」
 
この言葉に・・・すっかり白けてシナリオ化を断念。 そして「 第5章その28
~39 」にも書きましたタイで知り合った佐々木氏( ※参照 )が、家族に殺さ
れる話をモチーフにして絵コンテを描いた時に、J先生( ※参照 )を担当する
S学館の編集員が・・・
 
 「 あまり良くないですね・・・そんな深刻な話にしなくてもいいんじゃ
  ないですか・・・? 」
 
確かに・・・その通りなのです・・・「 深刻 」であるから面白いのではない
・・・!

しかし、この編集員氏は自信を完全に失っている私に・・・
 
 「 J先生の『 H雲 』( ※参照 )なんかはスゴイですよね・・・日常の
  何気ない事を・・・ 」
 
私はナメクジが塩でもぬられる気分の中で、どんどんやる気を無くしていくの
です・・・それは、自信を無くした人間の典型的な姿と言えます・・・
  
 「 本当にスゴイですよJ先生は・・・ 」
 
 「 ・・・あ・・・はあ・・・・・・・・・ 」
 
 「 『 H雲 』みたいにですね・・・ 」
 
 「 ・・・はい・・・はあ・・・・・・ 」
 
 「 J先生の様な・・・ですね・・・・・・ 」
 
 「 ・・・はぁ・・・・・・ 」
 
何が辛いと言って、所詮、敵わぬ雲の上の人と比較される事ほどしんどい事も
ありません・・・。
 
私程度の人間が描こうとする漫画の構想など、こうした批評の前では・・・子
供の積み木の様に崩れてしまいます。
 
そんな暗く陰気な日々を送っていた1993年の春・・・
 
J先生から私に、思いもしなかった様な提案がありました。 
 
今、ここでそれを書くのは・・・ちょっと唐突過ぎる( 信じてはもらえない )と
思いますので、その前に・・・
 
以前、似た様な事がJプロの先輩アシスタントにも起こったので・・・まず、
その話からちょっと書かせていただきたいと思います・・・・・
 
その先輩( ※参照 )が週刊誌に連載を持っていた頃に、ストーリー作りに苦しみ、
その事をJ先生に相談すると・・・
 
 「 おめィ・・・『 雲 』使ってもいいからよ・・・ 」
 
・・・と、あの「 H雲 」のストーリーを借用する事を許してくれたのです・・
・・・いや、そうする事を奨めてさえくれたのです!
 
今では、この先輩の出した単行本は絶版されていて読む事が出来ませんが・・
・・・その中の数編は、注意して読めばすぐにJ先生の作品をモチーフにしてい
ると分かると思います。
 
さて・・・そろそろ・・・私の話に戻りますが・・・・・・・
 
連戦連敗・・・まるで元気のない・・・しょぼくれた「 中年 」になっている私
( 当時、38歳 )は、猫背をさらに老人の様に丸めながらソファーに身を沈めてい
ました・・・
 
私の正面に座るJ先生は、表情一つ変えずに・・・
 
 「 おめィ・・・『 A 』を描いてみな・・・ 」
 
『 A 』はJ先生の代表作中の代表作・・・それも・・・あの有名な問題作( 平安
朝、飢餓の中で人を喰う話 )です・・・・・( 私には、そのタイトルをここで書く
勇気さえありません )
 
 「 カップラーメンを作ってみな・・・ 」
 
みたいな・・・そんな軽い感じに聞こえました・・・・・
 
私は・・・なぜか・・・反射的に・・・
 
これも軽く・・・
 
 「 はい・・・ 」
 
 
 
            「 漫画家アシスタント 第7章 その9 」 へつづく・・・


               ★前の記事へ→ 「漫画家アシスタント第7章 その7」へ戻る 】

 
  

【 ※参照 】
 ・佐々木氏・・・・・・・・タイ旅行が好きな零細企業の社長。かなりひどい酒乱と
  家族への暴力が原因して、91年に妻と子供らによって絞殺される。
 ・J先生・・・・・・・・有名漫画家、1966年、23歳で売れっ子作家に。70年には
  週刊連載6誌という逸話もある。現在は2誌に連載中。93年当時、50歳。
 ・『H雲』・・・・・・1973年から現在までBコミックオリジナルに連載中の時代
  劇漫画。実写TVドラマ化、舞台化、劇場アニメ化・・・超長寿作品。
 ・先輩・・・・・・・・・・Jプロに1969年に入り、73年に独立して漫画家に。その後、
  職を転々と変える。そして、務めていたソープランドの男子従業員の世界
  を漫画に描いてカムバックする。
 
 


 
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「もう終わりで章 その1」 「移住物語 こりゃタイ編 その1」




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