( この写真は、リョウさんの暮らした東京豊島区椎名町の下宿前です・・・。この風景は、当時
(20年前)の面影をそのまま残しています。《 2008年11月、撮影 》 )
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
その15
漫画家アシスタントが渡された原稿の背景を入れる時に、指定された背景
をどう描いたら良いかまったく想起出来ないとしたら・・・・・
いつも描いている町並みや部屋の中、空や海など、意識しなくても頭に浮
かぶ風景が何も浮かばない・・・・
そこにあるのは、ただ真っ白な背景だけ。そして、J先生が描いた人物だ
けが、ジッとこちらを見ている・・・・・
主人公のミニスカートの金髪美女が・・・おしりを向けながら振り返って
いる・・・
真っ白な背景の中で、その金髪美女は口をとがらせながらリョウさん( 仮
名:内海遼一、岡山県出身、Jプロ勤続14年目、88年当時33歳 )に微笑み
かける・・・・
『 どうしたの? 』
その絵には、セリフがないのに・・・・そう問いかけられている気がする
・・・・
『 どうしたの? 』
『 何も・・・わからない・・・・ 』
描くべき背景も思い浮かばない・・・・・ただ白い背景が白いままでそこ
にあるのだ・・・・。
自分の頭が空中に浮いている様に・・・・そこから先には、何もないのだ
・・・・・
アシスタントをやっていて、もし自分がそんな状態になったら・・・・き
っとパニックに陥ると思います。
しかし、リョウさんは表面上まったく平静でした・・・・。
仕事場を早退しても、まだ自分の不調を単なる「 疲れが出ただけ 」だと考
えていたのです。描くべき背景が浮かばなくても意識が淀んでいる事もない
・・・いや、それどころか意識は明晰でさえあるのです・・・。
リョウさんは自転車をこいで椎名町の下宿へ戻ります。そして、すぐに布団
を敷いて横になります・・・
『 ちょっと、疲れたかな・・・・ 』
その程度の気分でした。明日にはきっと元気になって仕事が出来るだろう・・
・・・と。しかし、横になっても眠れる訳でもありません。つねに、龍馬暗
殺の謎について考えていたのです・・・・。
この頃から、リョウさんは人並な食欲を無くして、まともな食事を摂れなくな
ります・・・。いつもは自炊で野菜炒めや寄せ鍋などを作って食べていたので
すが・・・
『 別に食いたくもないし、作らなくてもいいか・・・・ 』
・・・と、果物やスナック菓子など、ごく軽いモノですませていました。
仕事を早退して横になったり、本を読んだり・・・そうしているうちに夜も更
けてきます・・・。
『 もう、仕事(Jプロの)は終わったかな・・・ 』
そんな事を考えている時・・・
トントン・・・
アシスタントの大黒柱であるカンさん( 仮名:菅原浩二、神戸市出身、Jプロ
勤続19年目、88年当時、35歳 )が訪ねて来ました。 手土産に「 助六寿司 」を
持って見舞いに来てくれたのです。
普段、欠勤したり遅刻したりする事もないリョウさんが、初めて早退したので
心配して来てくれたのでした。
「 リョウちゃん、大丈夫かァ? 」
「 ・・・うん・・・ちょっと調子が悪くて・・・・ 」
「 医者は・・・? 」
「 いやァ・・・ちょっと疲れが出ただけだと・・・少し休めば・・・ 」
何の問題もない・・・深刻な会話も、恐ろしい出来事を予想させる様な事も・・
・・・何もありませんでした。
二人の会話はごく自然で、いたって日常的で、ほとんど記憶にも残らない程あ
りふれたものでした・・・・。
「 リョウちゃん、無理しないでゆっくり休みなよ・・・ 」
「 うん・・・ありがとう。大丈夫だから・・・すまんね、これ・・・ 」
リョウさんは、もらった「 助六寿司 」を示しながら、部屋を出て行くカンさ
んを見送ります。
「 じゃ~ね~、リョウちゃん、お大事に・・・、おやすみ~・・・ 」
「 ありがとう・・・おやすみ・・・ 」
この日から、プッツリとリョウさんの消息が途絶え・・・・・
「 漫画家アシスタント 第6章 その16 」 へつづく・・・
★前の記事へ→ 「漫画家アシスタント第6章 その14」へ戻る 】
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ お知らせ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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全326ページ。第1章の一部漫画化! 秘蔵未公開写真19点、描き下ろ
しイラスト18点を含む画像総数148点! デビュー漫画「雨のドモ五郎」
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( 劇画「覇王の船」 + 小説「蟹工船」の二本立て! )が発売中!
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【 各章案内 】 「第1章 改訂版」 「第2章 改訂版」 「第3章 改訂版」
「第4章 その1」 「第5章 その1」 「第6章 その1」
「第7章 その1」 「第8章 その1」 「第9章 その1」
「諦めま章 その1」 「古い話で章 その1」
「もう終わりで章 その1」 「移住物語 こりゃタイ編 その1」
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をどう描いたら良いかまったく想起出来ないとしたら・・・・・
いつも描いている町並みや部屋の中、空や海など、意識しなくても頭に浮
かぶ風景が何も浮かばない・・・・
そこにあるのは、ただ真っ白な背景だけ。そして、J先生が描いた人物だ
けが、ジッとこちらを見ている・・・・・
主人公のミニスカートの金髪美女が・・・おしりを向けながら振り返って
いる・・・
真っ白な背景の中で、その金髪美女は口をとがらせながらリョウさん( 仮
名:内海遼一、岡山県出身、Jプロ勤続14年目、88年当時33歳 )に微笑み
かける・・・・
『 どうしたの? 』
その絵には、セリフがないのに・・・・そう問いかけられている気がする
・・・・
『 どうしたの? 』
『 何も・・・わからない・・・・ 』
描くべき背景も思い浮かばない・・・・・ただ白い背景が白いままでそこ
にあるのだ・・・・。
自分の頭が空中に浮いている様に・・・・そこから先には、何もないのだ
・・・・・
アシスタントをやっていて、もし自分がそんな状態になったら・・・・き
っとパニックに陥ると思います。
しかし、リョウさんは表面上まったく平静でした・・・・。
仕事場を早退しても、まだ自分の不調を単なる「 疲れが出ただけ 」だと考
えていたのです。描くべき背景が浮かばなくても意識が淀んでいる事もない
・・・いや、それどころか意識は明晰でさえあるのです・・・。
リョウさんは自転車をこいで椎名町の下宿へ戻ります。そして、すぐに布団
を敷いて横になります・・・
『 ちょっと、疲れたかな・・・・ 』
その程度の気分でした。明日にはきっと元気になって仕事が出来るだろう・・
・・・と。しかし、横になっても眠れる訳でもありません。つねに、龍馬暗
殺の謎について考えていたのです・・・・。
この頃から、リョウさんは人並な食欲を無くして、まともな食事を摂れなくな
ります・・・。いつもは自炊で野菜炒めや寄せ鍋などを作って食べていたので
すが・・・
『 別に食いたくもないし、作らなくてもいいか・・・・ 』
・・・と、果物やスナック菓子など、ごく軽いモノですませていました。
仕事を早退して横になったり、本を読んだり・・・そうしているうちに夜も更
けてきます・・・。
『 もう、仕事(Jプロの)は終わったかな・・・ 』
そんな事を考えている時・・・
トントン・・・
アシスタントの大黒柱であるカンさん( 仮名:菅原浩二、神戸市出身、Jプロ
勤続19年目、88年当時、35歳 )が訪ねて来ました。 手土産に「 助六寿司 」を
持って見舞いに来てくれたのです。
普段、欠勤したり遅刻したりする事もないリョウさんが、初めて早退したので
心配して来てくれたのでした。
「 リョウちゃん、大丈夫かァ? 」
「 ・・・うん・・・ちょっと調子が悪くて・・・・ 」
「 医者は・・・? 」
「 いやァ・・・ちょっと疲れが出ただけだと・・・少し休めば・・・ 」
何の問題もない・・・深刻な会話も、恐ろしい出来事を予想させる様な事も・・
・・・何もありませんでした。
二人の会話はごく自然で、いたって日常的で、ほとんど記憶にも残らない程あ
りふれたものでした・・・・。
「 リョウちゃん、無理しないでゆっくり休みなよ・・・ 」
「 うん・・・ありがとう。大丈夫だから・・・すまんね、これ・・・ 」
リョウさんは、もらった「 助六寿司 」を示しながら、部屋を出て行くカンさ
んを見送ります。
「 じゃ~ね~、リョウちゃん、お大事に・・・、おやすみ~・・・ 」
「 ありがとう・・・おやすみ・・・ 」
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