漫画家アシスタントの馬鹿人生40年と、リタイア後のタイ移住生活。
( この写真は、仕事場のドア前から撮影した目白通りのイチョウ並木です。 写真の中央遠くに見えるのが
池袋サンシャインビルです。 撮影から3週間経った今では、イチョウもすっかり冬支度をして魚の骨の様に
なっています・・・・《 2013年、12月、撮影 》 )
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
その9
《 漫画家アシスタントが・・・・原稿のシワをのばす・・・・!? 》
「 先生、自転車を買って下さい 」
一日に4回、J先生( ※参照 )の仕事場まで往復するのに40分以上かけることの無駄に気づいてい
た倉さん( ※参照 )は、先生に進言します。
「 おお・・・・・そうか・・・・・・・ 」
すんなりと先生はOKしてくれるだけではく・・・・・
「 いい考えじゃねィ~か! 」
・・・・・と、褒めてくれさえしました。
そして、しばらく・・・・・優しく・・・・・でもにらむ様に・・・・・先生は黙って倉さんを
見つめながら・・・・・・
「 おめィ~は、N( 先輩アシスタント )の事を考えてたんだろ・・・・・? 」
J先生は、見透かした様に言うわけです。
Nというのは、最近、仕事場を辞めた先輩アシスタントで、長髪で痩せていて、いつもアパート
でプロレスごっこをした時に、皆から技をかけられていた先輩です。
「 おめィ~は、Nの事を考えて、ずっと今まで遠慮して黙ってたんだろう・・・・・? 」
「 ・・・・・・・・??? 」
突然、辞めた先輩のNさんの話が出てきたので、何のことやらサッパリ意味が分からない倉さん
は、一瞬、固まりますが・・・・・・・・
先生は、そんな事には気付かずに・・・・・・・
「 Nは、自転車に乗れなかったから、おめィ~は、Nの気持ちを気遣って今まで( N先
輩が辞めるまで )言うのを我慢してたんだろう・・・・・?」
「 ・・・・・・・・ 」( まだ固まっている )
「 おめィ~は思いやるりがあるなァ・・・・・ 」
J先生は口元にかすかな優しさを見せながら倉さんを見つめています・・・・・・・・
しかし、この時、倉さんはN先輩の事など何も考えてはいませんでした。
まったく、N先輩の事など頭にはなかったわけで、遠慮だの、気遣いだの思いやりだの・・・・
・・・そんな気持ちはこれっぽちもなかったのです。
しかし・・・・・・・・
「 おめィ~はイイ奴だなァ・・・・・! 」
・・・・・と、J先生に褒められると・・・・・・・
・・・・・つい・・・・・・・・
「 はァ・・・・・いや・・・・・そんなァ・・・・・・ 」
・・・・・などと、謙遜でもしている様な照れたそぶりを見せる倉さんだったわけです。
こうして自転車を買ってもらって、毎日、4回、先生の仕事場( 新宿区中落合 )まで原稿運びをす
る事になったのですが・・・・・・・・
ある日、数枚の原稿を先生から受け取り、それを自分たちの仕事場( 豊島区千早町 )へ運ぶ時に、
原稿の入った袋を前輪にからませてしまう失敗をやらかしてしまいます。
B4( ヨコ25㎝×タテ36㎝ )の茶封筒ごと前輪のスポークにからまってグシャグシャッと音を立てた
のであわててブレーキを踏みますが・・・・・・・・
原稿はグチャグチャになっています・・・・・慎重にスポークからはずして、膝にすり付ける様
にシワを伸ばしてもどうにもなりません・・・・・・・・
血の気が引く様な寒気を感じるのに、嫌~な汗で全身がグッショリと濡れる・・・・・・・
とにかく、そのまま急いでアシスタントの仕事場へ向かいます・・・・・・・・・
「 何だぁこりゃ? 」
「 どうしたんだよ、これ? 」
先輩たちが茫然としている中、倉さんが経緯を説明します。
「 急に強い風に吹かれちゃって・・・・・・ 」
幸いに原稿が大きく破れているわけではないので、小さな破れ目にはセロテープを張って補正、
後は、グシャグシャになった原稿のシワのばし・・・・・
しばらく、全員でシワのばしをして、形だけは整えます・・・・・・・・
それに、背景を入れて仕上げれば、何とか完成にこぎつけたわけです。
これが、完成原稿をグシャグシャにしたら大変だったのですが、まだ、仕上げの前だったので、
助かったそうです。
「 いや~~、あん時は、ヤバかったよ~~Yちゃん( 私 )! 」
・・・・と、倉さんは笑います。
「 漫画家アシスタント 古い話で章 お正月休み 」( 1月1日以降公開 ) へつづく・・・・
★前の記事へ→ 「漫画家アシスタント古い話で章 その8」へ戻る 】
【 ※参照 】
・J先生・・・・・・・・有名漫画家、1966年、23歳で売れっ子作家に。70年には週刊誌同時連
載6誌という逸話もある。現在は1誌に連載中。2013年現在、70歳。1969年当時は26歳。
・倉さん・・・・・・・・北九州の小倉生まれ。14歳の時に広島へ転居。1969年に17歳でJ先生
に弟子入り後、52歳までアシスタントを務めた。現在61歳、東京練馬区石神井在住。
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した作品・・・ 「 雨のドモ五郎 」
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【 各章案内 】 「第1章 改訂版」 「第2章 改訂版」 「第3章 改訂版」
「第4章 その1」 「第5章 その1」 「第6章 その1」
「第7章 その1」 「第8章 その1」 「第9章 その1」
「諦めま章 その1」 「古い話で章 その1」
「もう終わりで章 その1」 「移住物語 こりゃタイ編 その1」
( この写真は、目白通りのイチョウ並木を撮影したものです。落ち葉を掃除する事を考えると憂鬱ですが、こ
の上をただ歩くだけなら、最高にロマンチックな気分になります。 写真中央に少しだけ仕事場のあるマンシ
ョンの一部が写っています・・・・《 2013年、12月、撮影 》 )
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
その8
《 漫画家アシスタントが・・・・先生と二人で寿司屋に行く・・・・!? 》
アシスタント( ※参照 )が豊島区千早町にあるアパートで、最後のページを仕上げると、その原稿
を持って新宿区中落合にあるJ先生( ※参照 )の仕事場へ運ぶのが倉さん( ※参照 )の仕事でした。
毎日、アシスタントのアパートと先生の仕事場を何度も往復するのですが、テクテク歩いて往復4,
50分かかるので大変だったそうです。
ただ、一つだけ嬉しい事があって・・・・・・・・・それは、この仕上がった最後の原稿用紙を
先生に届けると・・・・・
「 コーヒーでも飲むか? 」
・・・・・・などと誘われる事があるからです。
たまには・・・・・・
「 一杯やるか? 」
・・・・・・とか、
「 すしでも食うか? 」
・・・・・・などと誘ってくれる事があります。
その事が、とても嬉しかったそうです。
仕事場近くの喫茶店やすし店で軽くお喋りしながら先生と差し向かいで話せる事の喜びをどう表
現したらよいか分かりませんが・・・・・・
今でも練馬区石神井町に暮らす倉さんは・・・・
「 個人的に先生とサシで喋った時間は、俺が一番長いと思うよ 」
・・・・・・と、自慢するのです。嬉しそうに話す倉さんの顔に全てが表れている感じです。( 40
年以上も前の事なのに、ホントに嬉しそうです )
ただ・・・・・・・・
「 どんな話をしたか教えて下さい! 」
きっと、禅問答の様な難しい話や漫画制作の秘訣でも教わったのではないかと期待すると・・・・
「 ん~~~~ 」
・・・・・・と、考え込んで・・・・・・・・・
「 あんまり~覚えてね~ンだよな~~ 」
それでも、ガッカリしている私を憐れむように・・・・・
「 よく小説や映画の話をしてくれたよ 」
J先生は、小説や映画をよく覚えていて、その中の登場人物やセリフについて詳しく解説してくれ
たそうです。
「 小説を読めよ~、『 人生劇場 』なんか凄いぞォ・・・・・それに、世界文学もいっぱい
読んで勉強しろよ! 」
などと、本といえば漫画本しか読んだことのなかった倉さんに小説や映画に触れる事の大切さを
説いたわけです。
もちろん、こうして先生と仕事の後で話せる事は、他のスタッフも知っていますから、時には・
・・・・
「 今日は、俺が原稿を届けるよ! 」
・・・・・・と、先輩アシスタントが名乗りを上げる事があったそうですが・・・・・
「 いや、これは俺の仕事ですから 」
・・・・と、キッパリ断って、誰にもこの完成原稿の配達を譲らなかったそうです。
他のアシスタントにとっては羨ましい話だったと思いますが・・・・・・・・あくまで、この原
稿運びを誰にも譲らないあたりが、後輩とはいえ、倉さんもしっかりしています。
それでも、毎日、アパートと先生の仕事場を4回報復するのは大変です。
歩くよりも自転車を使った方が効率が良いのではないか・・・・・そう考えた倉さんが先生に進
言して自転車を買ってもらうのですが・・・・・
その自転車の車輪に原稿がからまってグシャグシャになる・・・・・・話は次回に・・・・・!
「 漫画家アシスタント 古い話で章 その9 」( 12月20日以降公開 ) へつづく・・・・
★前の記事へ→ 「漫画家アシスタント古い話で章 その7」へ戻る 】
【 ※参照 】
・アシスタント・・・・1969年当時は、総勢3名が在籍。豊島区千早町のアパートで共同生活
をしていた。Jプロでは、「○ロリンマン」「○らふきドンドン」などを連載していた時代。
「○ゲバ」や「○シュラ」などでJ先生が大ブレイクする直前。
・J先生・・・・・・・・有名漫画家、1966年、23歳で売れっ子作家に。70年には週刊誌同時連
載6誌という逸話もある。現在は1誌に連載中。2013年現在、70歳。1969年当時は26歳。
・倉さん・・・・・・・・北九州の小倉生まれ。14歳の時に広島へ転居。1969年に17歳でJ先生
に弟子入り後、52歳までアシスタントを務めた。現在61歳、東京練馬区石神井在住。
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中です・・・ 特別寄稿「 親不孝通り 」 第40話お父さん
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「諦めま章 その1」 「古い話で章 その1」
「もう終わりで章 その1」 「移住物語 こりゃタイ編 その1」
( この写真は、豊島区椎名町の住宅街を撮影したものです。千早町からJ先生の仕事場がある中落合までこんな
感じの風景の中を倉さんは、歩いて原稿を運んでいました。写真を撮影しながら思ったのですが・・・・・当時
の古い町並みも新しい住宅やマンションで随分と変わってしまいました・・・・・《 2013年、11月、撮影 》 )
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その7
《 漫画家アシスタントが・・・・電話番をする・・・・!? 》
倉さんは、毎日、アシスタントが仕上げた原稿を先生の仕事場へと運ぶために、豊島区の千早町
から、新宿区の中落合までテクテク徒歩で往復していました。
完成原稿を先生に渡し、先生からキャラクターの入った原稿を受け取って、先輩アシスタントが
待っている千早町のアパートへ向かうのですが、まだ、先生が人物を入れている途中のために、
先生の仕事部屋の隣で待機している事がよくあるわけです。
朝、一番に先生の仕事場を訪ねるのは倉さんで、編集部からの電話などの応対も自然と倉さんが
やっていました。
たまに、朝10時に電話を受け取った時など・・・・・・・
「 週刊○○の者ですが・・・・先生の仕事はどうでしょうか? 」( 締め切りを心配する編集員 )
「 あ・・・・・はい・・・・・・・・まだ、先生来てないです 」
「 えええっ・・・・まだぁ? しょ、しょ~がね~~なぁ~~~ 」
などといった会話が朝からあったりしたそうです。
ある時、変な電話がありました・・・・・・・
「 アキウマ君、いますか? 」
倉さんは、聞いた事のない名前に『 間違い電話かな? 』と思いつつ・・・・・・・
「 え・・・・・? ・・・・アキ・・・・・・ウ・・・マ・・・・? 」
「 アキウマ君、いますか? 」
隣の部屋で仕事をするJ先生が、電話口で戸惑っている倉さんに顔を向ける・・・・・・・・
「 先生、アキウマ君って言ってますけど? 」
「 あ、俺ィだ 」
後で分かるのですが、この電話は、J先生の師匠にあたるM拳次先生( 1960年代に少年○ガジンな
どで活躍、氏の代表作はテレビドラマ化されて話題に、1970年頃に渡米 )だったのです。
M先生は、アシスタント時代から顔の長かったJ先生の事を「 アキウマ君 」と呼んでいたわけで
す。
それにしても、弟子がすっかり売れっ子の有名人になっていても、青年時代の愛嬌のあるあだ名
で呼ぶあたりがいかにもM先生らしいところなのかも知れません。
ただ、この当時のM先生は、日本の漫画界を去ってアメリカで一コマ漫画で初歩からスタートす
るという「 冒険 」をした時期で、J先生とM先生が呑気な会話をしていたとは思えませんが・・
・・・今となっては、その内容は分かりませんのです・・・・・・・・・・。
「 漫画家アシスタント 古い話で章 その8 」( 12月10日以降公開 ) へつづく・・・・
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