( この写真は、東京神田、神保町の交差点である。画面の中央やや左奥にS学館ビルと
S英社ビルが並んでいる。 《 2007年6月 撮影 》 )
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
その56
持ち込み原稿を新人担当の編集員がパラパラめくる音は、非常に重要である。
持ち込み経験のある方なら、その音にどれほど神経を尖らせているかご存じの事
と思う・・・・・。
パラパラパラパラッ・・・と見られたらまず絶望的である。 しかし、パラッ・・
・・・パラッ・・・と一枚づつしっかり見てくれているようなら希望が持てる・・
・・・。さらに、見ている途中で原稿をめくる音がピタリと止まったり、繰り返
しページをめくる動きが出たりすれば・・・! リーチがかかった様なものであ
る。
私がS英社のヤングJ誌に、春の「 青年漫画大賞 」への応募作品として「 雨の
ドモ五郎 」を持ち込んだのは、1987年の冬でした・・・。 「 死亡少年 」の完
成からこの「 雨のドモ五郎 」完成までに4,5ヶ月がかかっていました。 構想
を練っていた頃が夏から秋にかけてでしたが、完成は翌年の冬になっていたわけ
です・・・。
ヤングJ誌の編集員K氏は私とほぼ同世代( 正確には私より一つ年下 )で、少
々太りぎみでしたが年齢より落ち着いた感じの穏和な人物でした・・・( 拙作
「 壁 」に出てくる樫村編集員のモデル )。
K氏は私の原稿「 雨のドモ五郎 」をパラリッ・・・パラリッ・・・と同じリズ
ムで読んでいきました・・・。表情一つ変えずに・・・・・。
読み終わってからの最初の一言が・・・・・・
K氏 「 ラストはちょっと・・・甘いですね・・・・・ 」
クールな一言です。 この作品には以前にも書きましたように自信と手応えがあ
りましたから私は正直な話・・・・・
『 この編集員は、何か感想を言わなきゃならないんで無理にこじつけて
るんじゃないのか・・・!? 』
と、疑ったりしたものでした・・・・・
K氏 「 現実はキビシイんだぜっていう終わり方のほうが良いんじゃない
ですか? 」
私 「 ・・・・・・・・・ 」
私は黙っている・・・。 頭の中には・・・
『 何をどう描き直すんだ・・・? 』
この終わり方以外には何もイメージがわきません!
K氏 「 描き直しますか? 」
私は少しイライラしながら・・・
私 「 これでいきます! 」
K氏 「 そ・・・そうですか・・・。 分りました・・・。 お預かり
します・・・。 」
この日から1ヶ月ほどで最終選考作品が決まります。 その間、私はある事をこ
のヤングJ誌で試してみるのです・・・・・。 それは・・・・・・
K談社でボツになった「 僕です! 」や「 死亡少年 」をS英社へ持ち込む事で
した。言ってみれば・・・リサイクル・・・。 ダメで元々のこずかい稼ぎへ!
しかし、本来ならば過去の作品を引っ張り出す事よりも「 雨のドモ五郎 」の次
の作品へ向けた構想を練るべきでしたが・・・・
この時すでに手持ちのカード( 自分の作品 )は底をついていたのです・・・・!
( 勿論、無価値な駄作はノートにいっぱいストックされていましたが・・・ )
「 雨のドモ五郎 」を越える次の作品が思い浮かばなかったのです・・・・・。
今、考えてもゾッとしますが・・・「 雨のドモ五郎 」のあの「 手応え 」に匹敵
する様なストーリーの「 発想 」「 展開 」がないのです!
一度、ある程度の作品ができれば次はもっと良い作品が求められる・・・!( 至
極、当たり前の話! )その要求に応えられるのか?
同じ様な作品ではなく、より優れた、より面白い作品が作れるのか? 最も深刻
な問題が夜の闇の様に静かに広がっていたわけです・・・・・
しかし、最も恐ろしいその現実に当時の私はまだ気付いてはいなかった・・・・・。
いや・・・気付いていないフリをしていたのです・・・・・・。
人生の分かれ道・・・ とても重要なこの瞬間に・・・ 私は一仕事終えてのん
びりと一服する様に・・・まったく油断した・・・バカ丸出の・・・気楽さで・・
・レンタルビデオなんぞを見ながらハイライトをプカリプカリと吹かしていたの
です・・・・・
「 漫画家アシスタント 第4章 その57 」 へつづく・・・
★前の記事へ→ 「漫画家アシスタント第4章 その55」へ戻る 】
【 各章案内 】 「第1章 改訂版」 「第2章 改訂版」 「第3章 改訂版」
「第4章 その1」 「第5章 その1」 「第6章 その1」
「第7章 その1」 「第8章 その1」 「第9章 その1」
「諦めま章 その1」 「古い話で章 その1」
「もう終わりで章 その1」 「移住物語 こりゃタイ編 その1」
S英社ビルが並んでいる。 《 2007年6月 撮影 》 )
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その56
持ち込み原稿を新人担当の編集員がパラパラめくる音は、非常に重要である。
持ち込み経験のある方なら、その音にどれほど神経を尖らせているかご存じの事
と思う・・・・・。
パラパラパラパラッ・・・と見られたらまず絶望的である。 しかし、パラッ・・
・・・パラッ・・・と一枚づつしっかり見てくれているようなら希望が持てる・・
・・・。さらに、見ている途中で原稿をめくる音がピタリと止まったり、繰り返
しページをめくる動きが出たりすれば・・・! リーチがかかった様なものであ
る。
私がS英社のヤングJ誌に、春の「 青年漫画大賞 」への応募作品として「 雨の
ドモ五郎 」を持ち込んだのは、1987年の冬でした・・・。 「 死亡少年 」の完
成からこの「 雨のドモ五郎 」完成までに4,5ヶ月がかかっていました。 構想
を練っていた頃が夏から秋にかけてでしたが、完成は翌年の冬になっていたわけ
です・・・。
ヤングJ誌の編集員K氏は私とほぼ同世代( 正確には私より一つ年下 )で、少
々太りぎみでしたが年齢より落ち着いた感じの穏和な人物でした・・・( 拙作
「 壁 」に出てくる樫村編集員のモデル )。
K氏は私の原稿「 雨のドモ五郎 」をパラリッ・・・パラリッ・・・と同じリズ
ムで読んでいきました・・・。表情一つ変えずに・・・・・。
読み終わってからの最初の一言が・・・・・・
K氏 「 ラストはちょっと・・・甘いですね・・・・・ 」
クールな一言です。 この作品には以前にも書きましたように自信と手応えがあ
りましたから私は正直な話・・・・・
『 この編集員は、何か感想を言わなきゃならないんで無理にこじつけて
るんじゃないのか・・・!? 』
と、疑ったりしたものでした・・・・・
K氏 「 現実はキビシイんだぜっていう終わり方のほうが良いんじゃない
ですか? 」
私 「 ・・・・・・・・・ 」
私は黙っている・・・。 頭の中には・・・
『 何をどう描き直すんだ・・・? 』
この終わり方以外には何もイメージがわきません!
K氏 「 描き直しますか? 」
私は少しイライラしながら・・・
私 「 これでいきます! 」
K氏 「 そ・・・そうですか・・・。 分りました・・・。 お預かり
します・・・。 」
この日から1ヶ月ほどで最終選考作品が決まります。 その間、私はある事をこ
のヤングJ誌で試してみるのです・・・・・。 それは・・・・・・
K談社でボツになった「 僕です! 」や「 死亡少年 」をS英社へ持ち込む事で
した。言ってみれば・・・リサイクル・・・。 ダメで元々のこずかい稼ぎへ!
しかし、本来ならば過去の作品を引っ張り出す事よりも「 雨のドモ五郎 」の次
の作品へ向けた構想を練るべきでしたが・・・・
この時すでに手持ちのカード( 自分の作品 )は底をついていたのです・・・・!
( 勿論、無価値な駄作はノートにいっぱいストックされていましたが・・・ )
「 雨のドモ五郎 」を越える次の作品が思い浮かばなかったのです・・・・・。
今、考えてもゾッとしますが・・・「 雨のドモ五郎 」のあの「 手応え 」に匹敵
する様なストーリーの「 発想 」「 展開 」がないのです!
一度、ある程度の作品ができれば次はもっと良い作品が求められる・・・!( 至
極、当たり前の話! )その要求に応えられるのか?
同じ様な作品ではなく、より優れた、より面白い作品が作れるのか? 最も深刻
な問題が夜の闇の様に静かに広がっていたわけです・・・・・
しかし、最も恐ろしいその現実に当時の私はまだ気付いてはいなかった・・・・・。
いや・・・気付いていないフリをしていたのです・・・・・・。
人生の分かれ道・・・ とても重要なこの瞬間に・・・ 私は一仕事終えてのん
びりと一服する様に・・・まったく油断した・・・バカ丸出の・・・気楽さで・・
・レンタルビデオなんぞを見ながらハイライトをプカリプカリと吹かしていたの
です・・・・・
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