漫画家アシスタント物語

漫画家アシスタントの馬鹿人生40年と、リタイア後のタイ移住生活。

漫画家アシスタント 第4章 その56

2007年06月28日 22時07分45秒 | 漫画
( この写真は、東京神田、神保町の交差点である。画面の中央やや左奥にS学館ビルと
 S英社ビルが並んでいる。 《 2007年6月 撮影 》 )
 
 
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
 
 
 
                その56
 
 
持ち込み原稿を新人担当の編集員がパラパラめくる音は、非常に重要である。 

持ち込み経験のある方なら、その音にどれほど神経を尖らせているかご存じの事
と思う・・・・・。
 
パラパラパラパラッ・・・と見られたらまず絶望的である。 しかし、パラッ・・
・・・パラッ・・・と一枚づつしっかり見てくれているようなら希望が持てる・・
・・・。さらに、見ている途中で原稿をめくる音がピタリと止まったり、繰り返
しページをめくる動きが出たりすれば・・・! リーチがかかった様なものであ
る。
 
私がS英社のヤングJ誌に、春の「 青年漫画大賞 」への応募作品として「 雨の
ドモ五郎 」を持ち込んだのは、1987年の冬でした・・・。 「 死亡少年 」の完
成からこの「 雨のドモ五郎 」完成までに4,5ヶ月がかかっていました。 構想
を練っていた頃が夏から秋にかけてでしたが、完成は翌年の冬になっていたわけ
です・・・。
 
ヤングJ誌の編集員K氏は私とほぼ同世代( 正確には私より一つ年下 )で、少
々太りぎみでしたが年齢より落ち着いた感じの穏和な人物でした・・・( 拙作
「 壁 」に出てくる樫村編集員のモデル )。
 
K氏は私の原稿「 雨のドモ五郎 」をパラリッ・・・パラリッ・・・と同じリズ
ムで読んでいきました・・・。表情一つ変えずに・・・・・。
 
読み終わってからの最初の一言が・・・・・・
 
 K氏 「 ラストはちょっと・・・甘いですね・・・・・ 」
 
クールな一言です。 この作品には以前にも書きましたように自信と手応えがあ
りましたから私は正直な話・・・・・ 
 
 『 この編集員は、何か感想を言わなきゃならないんで無理にこじつけて
  るんじゃないのか・・・!? 』
 
と、疑ったりしたものでした・・・・・ 

 K氏 「 現実はキビシイんだぜっていう終わり方のほうが良いんじゃない
     ですか? 」  
 
 私  「 ・・・・・・・・・ 」
 
私は黙っている・・・。 頭の中には・・・
 
 『 何をどう描き直すんだ・・・? 』
 
この終わり方以外には何もイメージがわきません!
 
 K氏 「 描き直しますか? 」

私は少しイライラしながら・・・
 
 私  「 これでいきます! 」
 
 K氏 「 そ・・・そうですか・・・。 分りました・・・。 お預かり
     します・・・。 」
 
この日から1ヶ月ほどで最終選考作品が決まります。 その間、私はある事をこ
のヤングJ誌で試してみるのです・・・・・。 それは・・・・・・
 
K談社でボツになった「 僕です! 」や「 死亡少年 」をS英社へ持ち込む事で
した。言ってみれば・・・リサイクル・・・。 ダメで元々のこずかい稼ぎへ!
 
しかし、本来ならば過去の作品を引っ張り出す事よりも「 雨のドモ五郎 」の次
の作品へ向けた構想を練るべきでしたが・・・・
 
この時すでに手持ちのカード( 自分の作品 )は底をついていたのです・・・・!
( 勿論、無価値な駄作はノートにいっぱいストックされていましたが・・・ )
「 雨のドモ五郎 」を越える次の作品が思い浮かばなかったのです・・・・・。 
 
今、考えてもゾッとしますが・・・「 雨のドモ五郎 」のあの「 手応え 」に匹敵
する様なストーリーの「 発想 」「 展開 」がないのです!
 
一度、ある程度の作品ができれば次はもっと良い作品が求められる・・・!( 至
極、当たり前の話! )その要求に応えられるのか? 
 
同じ様な作品ではなく、より優れた、より面白い作品が作れるのか? 最も深刻
な問題が夜の闇の様に静かに広がっていたわけです・・・・・ 

しかし、最も恐ろしいその現実に当時の私はまだ気付いてはいなかった・・・・・。 
いや・・・気付いていないフリをしていたのです・・・・・・。
 
人生の分かれ道・・・ とても重要なこの瞬間に・・・ 私は一仕事終えてのん
びりと一服する様に・・・まったく油断した・・・バカ丸出の・・・気楽さで・・
・レンタルビデオなんぞを見ながらハイライトをプカリプカリと吹かしていたの
です・・・・・
 
 
   
          「 漫画家アシスタント 第4章 その57 」 へつづく・・・



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漫画家アシスタント 第4章 その55

2007年06月21日 02時44分01秒 | 漫画家アシスタント
( この写真は、夜の東京護国寺、正面中央あたりに見えるのがK談社の窓明かりである。
 《 2007年6月 撮影 》 )
 
 
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
 
 
 
                その55
 
 
漫画家アシスタントの物語・・・「 雨のドモ五郎 」はそれまでに描いてきた作品と
は大きな違いがありました。 それは主人公への思い入れとストーリーの「 展開 」
です。 この作品は「 漫画大賞確実 」なんじゃないか・・・という確信じみた手応
えがありました。
 
今度こそ、K談社のヤングM誌で「 死亡少年 」入選。そしてこの「 雨のドモ五郎 」
はS英社ヤングJ誌で漫画大賞を・・・! 相変わらずの捕らぬタヌキの皮算用・・
・・・のままで終わるのか、どうか・・・・・。
 
 
さて、「 雨のドモ五郎 」にカリコリとペンを入れている頃に「 死亡少年 」の結果
が発表されました。
 
最終選考まで難なく勝ち残った「 死亡少年 」ですが・・・結果的には佳作も取れず
に終わりました・・・・・。 
 
 『 選考委員長のC・てつや先生は、そんなにオレの作品が嫌いなのだろうか・・
  ・・? 』
 
この時は、もうすっかりK談社への色気など無くしていた私は、あっさりと以降の
K談社への投稿を断念します。
 
発表のあった当日の深夜、ヤングM編集部へ直接出かけてボツ原稿を返却してもら
いに行きました・・・・・。
 
 『 よくも落としやがったなァ、コノヤロ~ッ! 』
 
 『 こんなクソ雑誌、頼まれたって二度と来るかァッ! 』
 
こんなセリフは勿論口にはしません。表情にさえ出さず。ニッコリ笑顔でボツ原稿
を受け取り、一礼。
 
この時、原稿を返却してくれた若い編集員が・・・
 
「 残念でしたねェ( 本当に残念そうに! )是非また持って来て下さい! 」と、や
さしく声をかけてくれたのですが・・・ その時の私の頭には、目の前の編集員と
副編集長のS氏がだぶりながらグルグルと回り・・・・・
 
『 K談社では絶対に描きたくねェッ! 』というムラムラした怒りで煮えくり返って
いましたから、穏和な編集員の態度に・・・なぜか後ろめたい様な・・・かえって
私の方が未練がましい様な・・・申し訳ない様な・・・なんとも哀しい気分に落ち
込んでヤングM編集部を後にしました。
 
そして20年・・・K談社とはご縁がありません。 
 
今は何とも思ってはいませんが、私なんぞがどう思おうと・・・大手出版社やその
編集員から見れば私の存在など、昨日出したゴミ袋の中の生ゴミほどの価値しかな
いんでしょうし・・・・・。
 
 
「 グワッキ 」「 AIZU2145 」「 僕です! 」「 死亡少年 」ことごとくボツになり、
いよいよ最後の作品に・・・・・。
 
「 雨のドモ五郎 」を持ってS英社へ・・・。 にぎやかな神保町の交差点から数
分歩いた所にS英社ビルがあります。 「 アラレちゃんビル 」だの「 キン肉マン
ビル 」だのと1980年代の全盛期にあっちこっちと新社屋を建て替えまくっていた
週刊漫画黄金期のあのS英社へ・・・・・。
 
週刊ヤングJ編集員K氏・・・・
 
ラストはちょっと・・・甘いですね・・・・・ 」
 
『 カチンッ 』( 頭の中で小さな音が・・・ )
 
 
 
   漫画家アシスタント物語、血の教訓
   
  『 結果を出せる人間でさえ利用されるだけで愛されはしない。 いわんや
 
   結果さえ出せない人間をや。 もし、貴方が愛される事を望むなら・・・

   ここに立ち入る事はお勧め出来ない。 』
 
 
   
          「 漫画家アシスタント 第4章 その56 」 へつづく・・・



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漫画家アシスタント 第4章 その54

2007年06月14日 03時15分28秒 | 漫画家アシスタント
( この写真は、東京豊島区要町から目白のJ・Aプロまで行く途中の住宅街である。20年前、
 毎日ここを寝不足のフラフラした頭で自転車をこいでいたのです。 《 2007年6月 撮影 》 )
 
 
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
 
 
 
                その54
 
 
漫画家アシスタントが中年になって、その長年の夢をかなえる物語・・・・。
 
熱い情熱とコツコツと描かれていく漫画原稿。その対極にある大手出版社と冷酷
な編集員。もし、この編集員がまったくデタラメな人間だったら・・・・・。
 
私はこの一年の持ち込み体験、特に「 死亡少年 」をK談社へ持ち込んだ時の経
験を元に一つの漫画作品を考えました・・・。 

翌年のデビュー作になる「 雨のドモ五郎 」です。
 
私はこの作品「 雨のドモ五郎 」を作る時に、それまで体験した事のない二つの
出来事があったのです。一つはキャラクターを作る時の技術的な事柄。もう一つ
はストーリーを作り出す時の苦しみから生まれる「 斬新な展開 」です。
 
K談社に持って行った「 死亡少年 」がどうなったかを書く前に、この二つの事
柄について書いておきたいと思います。
 
まずキャラクターを生み出す時の事柄です・・・・ ストーリーにそって、なん
となく作って、なんとなく描いていく・・・。思いつく髪型や顔つき、輪郭と目
鼻立ち「 こんなもんかな・・・ 」とストーリーの流れに乗せてゆく・・・。
 
これが普通のパターンだと思いますが、私はこの一連の流れと同時に机に向かっ
ていない日常生活の中で、今自分がいる状況に漫画の主人公がいたとしたら・・
・・・どうするだろうと意識的に想像しました。
 
例えば・・・私が食事中なら「 このラーメンを主人公ならどんな食べ方をするだ
ろう・・・ 」歩いている時なら「 この道を主人公ならどんな歩き方をするだろう
・・・ 」こんな風に時々主人公の行動を想像している内に、今まで経験した事が
ないほど主人公のイメージがリアリティーを持って頭の中に形作られていきまし
た。
 
キャラクターに血が流れ出した様な新鮮な気持ちがしたものでした・・・!
 
さて、次にストーリーを生み出す苦しみからの「 斬新な展開 」についてです・・
・・・。 主人公が編集員にほめられて有頂天になって長編の原稿を完成させま
す。 しかし、担当のその編集員がコワレていたのだとしたら・・・・・。 全
精力を傾けて作った長編作品がゴミくずになったとしたら・・・・・。
 
「 編集員が載せてくれると約束したのに! 」「 『長編大傑作』だったはずなの
に! 」それが全て絵空事だったら・・・・・。 私は主人公になったつもりでモ
ンモンとしました・・・・・。
 
いったいどうすれば良いのか・・・! 完全にキレて漫画を辞めてしまう・・・!
それから、どうするのか? いったいどうなってしまうのか? 本当に頭が熱く
なってベッドで布団をかぶって目をつぶったままうめく様にもがいていたのです
・・・・・。
 
その時でした・・・。 頭の中で・・・・・・
 
 「 トントントン 」
 
ドアを軽くたたく音が聞こえたのです・・・・。 ドアの外にはズブ濡れのコワ
レた編集員が誇らしく立っているのです!
 
 
 
          「 漫画家アシスタント 第4章 その55 」へつづく・・・



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漫画家アシスタント 第4章 その53

2007年06月07日 22時21分53秒 | 漫画家
( この写真は、夜の東京目白通りである。学習院前から目白駅方面に向かって写したものです。
 時間は夜8時、この辺には店舗が一軒もありません・・・淋しい通りなのです。 《 2007年6月 撮影 》 )
 
 
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
 
 
 
                その53
 

深夜の目白通り・・・自転車をこぎながらさっき貰ったS氏の名刺に印刷された
「 副編集長 」という肩書きを何度も思い出していました・・・・。
 
もう少し違った対応がとれなかっただろうか・・・・・。このままではヤングM
でのデビューはキビシイのではないか・・・・・。
 
今、描いている「 死亡少年 」がヤングMで高い評価を得れば私の勝ち。もし、
ボツになれば私の完全敗北・・・・・。そうなったら立ち直れるだろうか・・・・
 
犬のクソでも食べてしまった様な・・・胸の中にモヤモヤとした不快感を抱いた
ままノロノロと自転車を走らせました・・・。 
 
人類が滅亡してしまった様に人気のない静かな目白通りを一人で行く孤独感を今
でも忘れません・・・・・。 殺伐とした気分のまま夜道の様に暗い明日へペダ
ルをこぎつづけたのです・・・・・・・。
 
 
 「 ああ・・・あのS君か・・・知ってるよ。前は主婦雑誌にいたんだ・・・ 」
 
業界の関係者から聞いた言葉に私は驚きました・・・! 主婦雑誌をやっていた
人が漫画雑誌の副編集長を・・・?! いったいK談社は何を考えているのか・・
・・。漫画の「ま」の字も知らない人を副編集長に・・・・・・・・・! そう
いえば・・・同じ頃にJ先生がこんな事を言っていたのです・・・・
 
 「 若いの( 新人漫画編集員 )がよォ、2,3年してやっと仕事( 漫画の )が
  出来る様になったと思ったら、すぐ飛ばされるんだぜェ・・・・。もったい
  ねェよなァ・・・もうサラリーマン( お役所人事 )と同じだぜェ・・・・ 」
 
その後、私は何人もの編集員に会ってきましたがその中には・・・
 
 「 本当は文芸誌をやりたかったんですよねェ・・・漫画って興味なかったん
  ですよォ・・・ 」
 
などと言う人もいました・・・・・・。 
 
 
1986年夏・・・。 私は挑みかかる様な気持ちでK談社ヤングMへ「 死亡少年 」
を持ち込みます。S氏と会ってから2ヶ月ほど経っていました・・・・。
 
直接編集部へ行って、その場にいた編集員に原稿を渡して来るのですが、「 Cて
つや賞 」への応募作品として持って行っただけで、細かい感想などは聞きません
でした。
 
気分的には、一ヶ月後の発表を待つだけ・・・。そして、S英社の漫画賞に応募
するための作品「 雨のドモ五郎 」の構想に取りかかっていたのです・・・・・。
 
ヤングM編集部の若い編集員に「 死亡少年 」をあずけて帰る時にバッタリとS氏
に出会います・・・・。
 
S氏は私の「 死亡少年 」には、まったく興味を示す事もなく・・・山谷の日雇い
労働者を見る職安の受付係( と、言うよりも・・・薄笑いを浮かべた手配師 )の
様な目つきで・・・・・・
 
 『 バイトでアシスタントやらない? 稼げるよ! 』
 
もちろん私がJ先生のアシスタントであり、必死にデビューし独立しようとして
いる事を充分ご存じだったはずなのに・・・・・。
 
元主婦雑誌のヤングM副編集長にアシスタントのバイトを勧められた時・・・。
 
私は青年の心意気でヤングMに「 死亡少年 」を持って来た事が逆に「 虎の尾を
踏む 」結果になってしまった事を冷や汗をかきながら悟ったわけです・・・・・
 
 
 
          「 漫画家アシスタント 第4章 その54 」へつづく・・・



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