題名 : 百年の呪い
新・古着屋総兵衛影始末2巻
著者 : 佐伯泰英
出版年月 : 2011年10月
出版 : 新潮文庫
定価 : ¥590(税別)
あらすじ:
徳川家康の命で表の貌は江戸の古着商を束ねる「古着問屋大黒屋」、裏の貌は影の旗本として徳川幕府を守る密命を負った鳶沢一族は、幕府開闢200年にして最大の危機を迎える。
徳川家康の命により、鳶沢一族は幕閣の中の一員である「影」の指令に従い、協力して影の任務を遂行してきた。しかし、100年前に6代目大黒屋総兵衛こと鳶沢総兵衛勝頼が交趾(ベトナム、ハノイ地方)から戻ってから「影」からの指示も連絡も途絶えていた。
大黒屋総兵衛勝臣こと、鳶沢総兵衛勝臣が10代目のお披露目をした日に100年ぶりに「影」からの呼び出しが来る。「影」は顔を見せることはないが、御簾の中から6代目の行動をなじり、10代目の出自を問い詰める。異国の血を引く者ではないかと。10代目大黒屋総兵衛勝臣はあくまでも交趾の出身であることを隠し否定する。「影」は10代目総兵衛勝臣の言葉を信じることなく姿を消す。
当代の「影」が11代将軍の寵愛深い御側衆7000石の旗本、本郷丹後守康秀であることを突き止めた10代目総兵衛勝臣は、その「影」が鳶沢一族の抹殺を狙っていることも同時に知る。「影」との戦いが始まる。
10代目総兵衛勝臣の頭痛がきっかけで大黒屋の周囲に張り巡らされた闇四神の呪いが、今坂一族の唐人ト師の手によって暴かれる。そして、それは久能山の背後の拝領地鳶沢村にも及んでいる。大黒屋を囲む黒稲荷社からは、柳沢吉保の手による呪いの書が回収される。「向後100年満願成就の日まで鳶沢一族への恨みありて闇四神を配す。」
呪いの大本である六義園で今も継続している闇祈祷を一掃しなければならない。六義園は100年間使用してはならないという家訓により柳沢家では使用していない。その鬱蒼とした森の一角で100年近く闇祈祷が続けられている。その使用されていない六義園に御側衆の権力にものを言わせて「影」が入り、闇祈祷の者たちに生贄として若い娘を与え、かれらと手を結ぶ。それを知った鳶沢一族は大晦日に闇祈祷の現場を襲撃し闇祈祷を封印する。
年が明け、100年近く鳶沢一族を覆っていた暗雲が晴れる。古着の街、富沢町では古着大市が催され、大盛況のうちに終わる。しかし「影」こと本郷丹後守康秀は健在で、闇祈祷の一味の風水師李黑もまだ捕らえられていない。「影」の手先になっている悪辣な同心も大黒屋を狙っている。「影」の大黒屋潰しの狙いもまだわからない。
100年の呪いはまだ6年残っている。
感想:
様々な文化的背景を持つ、海から渡ってきた、爽やかな青年、10代目大黒屋総兵衛勝臣と、文化文政期の退廃を体現するような「影」本郷丹後守康秀の対比があざやかだ。
柳沢吉保は100年経っても敵役として登場するが、その子孫には著者の好意的な視線が向けられている。治世に優れた名君が多く、幕閣にも野心を持たないという潔さが柳沢家の中にはあるからであろう。
また、綿花の栽培や木綿の商品生産と流通についても含蓄の深い小説である。
以下はその一部である。
「江戸中期から木綿生産と綿布織りの技術が目覚ましく進歩したにもかかわらず、原料の供給が追い付かぬ状況がつづいた。『早くモンメンを着せたい、着たい』というのが当時の母親の願いであり、子の夢だった。つまりモンメンは、『晴着』だったのだ。それに木綿は麻に比べてはるかに保温効率がよく、また家内副業として成り立ち、商品性が強く、経済を左右する産物であった。」