題名 : ベルリン空輸回廊「Air Bridge」<o:p></o:p>
著者 : ハモンド・イネス<o:p></o:p>
(国籍イギリス 1913年~1998年)<o:p></o:p>
初版 : 1951年<o:p></o:p>
電子書籍 : グーテンベルク21社<o:p></o:p>
<o:p></o:p>
あらすじ:<o:p></o:p>
1948年11月、元空軍パイロットのニール・フレイザーは、警察に追われ逃走中にメイベリーの廃れた飛行場に迷い込む。そこで元沿岸防備隊のパイロットだったビル・セイトンに出会う。ここからセイトンの悪夢のような計画の片棒を担がされていく。<o:p></o:p>
ニールはユダヤ人実業家の依頼でキャラハンという偽名でパレスチナのハイファに飛行機を運ぶという違法な仕事に手を染めていたが、ことが露見しあやうく逮捕されそうになって逃走した。国外脱出のためメイベリーの飛行場の格納庫に忍び込むと、チューダーという機種の飛行機があった。しかし1基のエンジンがまだ取り付けられていなかった。<o:p></o:p>
セイトンは1月にベルリン空輸作戦に参加するための飛行機を製作していた。あと1基エンジンが完成すれば飛行機は離陸できるのだが、資金的にも人手の面でも行き詰まっていた。セイトンはニールの正体を知り飛行機製作の経験を買って、警察に通報しない代わりにエンジン製作を手伝えとニールを脅迫し、ニールは協力することになる。 エンジンは低燃費で高性能な画期的なものになるはずだった。製作に携わるのはセイトンと、ニール、そして元航空機関士だった技術屋タビー・カーターの3人だ。タビーは人の良い正直者である。
そうした中でニールはエンジンの設計開発者がセイトンではなく、隣の農場に住むドイツ難民の娘エルゼの父親が設計したものであることを知る。セイトンは戦利品としてドイツから設計図と試作品を持ち帰り自分が設計したようにふるまっているのであった。エルゼはセイトンから亡き父親の業績を取り返すためにメイベリーに来ていたのだ。クリスマスに試験飛行が行われるが胴体着陸によって飛行機は大破してしまう。エンジンは使えるが機体がなくなってしまったのだ。<o:p></o:p>
タビーとニールはベルリン空輸作戦に参加するハーコート航空に機関士と機長として雇われメイベリーを去ることになる。ここでセイトンはニールを再び脅迫する。ベルリンからチューダー機を操縦してメイベリーに戻ってくるようにと。ソ連占領地区の上空で故障といって乗員をパラシュートで落下させ、飛行機はソ連占領地区に墜落したことにする。そしてメイベリーに持ってきたチューダー機に低燃費エンジンを取り付けてセイトンがベルリン空輸作戦に参加するという筋書きだ。<o:p></o:p>
セイトンに弱みを握られたニールは逆らうことができずに計画を実行するが、ひとつの誤算が生じる。タビーがニールを助けようと残っていたのである。タビーはセイトンの計画を知り怒って争っているうちに飛行機から落ちてしまう。四日後メイベリーでエンジンを付け替えたチューダー機は、ベルリン空輸作戦に参加すべく出発する。<o:p></o:p>
ニールはタビーの消息を調べるために、タビーが落ちた地点までセイトンに送らせる。付近の農家で介護されている重傷のタビーを発見したニールは、なんとしてでも助けようとする。しかしベルリンの基地にもどったニールに耳を傾ける人はいない。セイトンがニールの正体をばらしていたからだ。ニールはベルリンに戻っていたエルゼの助けを借りてタビーを助けに向かう。それを知ったセイトンは飛行機で先回りしてタビーを殺害してしまう。<o:p></o:p>
最後セイトンは自分のチューダー機で逃亡を図り、逃げ切れずに北海に墜落して果ててしまう。<o:p></o:p>
<o:p></o:p>
感想:<o:p></o:p>
ここには現代史の大きな三つの出来事が背景になっている。一つ目は第二次世界大戦である。ニールもセイトンもタビーも従軍した経験がある。それが考え方や行動に大きな影響を与えている。ニールはドイツの捕虜収容所から脱走してメッサーシュミットを乗っ取って帰還した英雄だ。警察に捕まりたくないという強い感情は捕虜収容所の体験から来ている。セイトンは低燃費エンジンを自分が完成させることがイギリスに対する忠誠心の証だと言ってはばからない。空に対する夢がニールにもセイトンにもある。しかし、戦争が終わってから何百人ものパイロットは職がなかった。飛行機に乗りたいと思ってもその仕事がなかった。<o:p></o:p>
二つ目はイスラエルの独立と第1次中東戦争の勃発である。1948年5月に起きた。ニールはイスラエルのために飛行機を運んでいた。<o:p></o:p>
三つ目は冷戦の始まりと、ソ連によるベルリン封鎖だ。そのベルリン封鎖に対抗して始まったベルリン空輸作戦は1948年6月から1949年5月までの1年間行われた。1分に1機の割合で飛行機がベルリンに生活物資を運んだ。民間機も多数参加した。<o:p></o:p>
戦争か戦争前夜の状態の中でしか多くのパイロットの夢と懐を満たすことはできなかった。戦勝国でも復員兵は就職難なのだ。<o:p></o:p>
この小説の中では飛行機があたかも自動車のように簡単に操作されている。しかも現代のジェット機とは違って離着陸も広い場所を取らない。だれでも操縦したくなる。いったん飛行機の操縦を覚えたパイロットにとってその特権を失うのは辛かったことだろう。<o:p></o:p>