訶梨勒 足利義政好写 宗徳作 書院柱飾り
「訶梨勒・訶黎勒」(かりろく)、「訶子」(かし)は、モモタマナ属、シクンシ科の落葉大高木、ミロバランノキ、学名Terminalia chebula Retz.のの成熟果実である。収渋薬に分類され、性は苦、酸、澁、平、帰経は肺経、大腸経、胃経である。効能は澁腸止瀉(大腸よりの便の遺漏を防いで下痢を止める)、斂肺利咽(肺気を収斂して降気し止咳する、咽頭の調子を整え嗄声を改善する)であり、用いる疾患、病態は久瀉久痢、脱肛、喘咳痰嗽、久咳失音である。訶梨勒(訶子)を含む方剤にはその名を冠した訶黎(梨)勒丸、訶黎(梨)勒散がある。これらは『太平恵民和剤局方』、『太平聖恵方』、『金匱要略』、『脾胃論』、『聖済総録』、『普済方』、『医心方』等に広く収載され枚挙に暇がない。訶梨勒単味あるいは主薬の訶梨勒以外の生薬の種類が異なるものなど、同じ方剤名であっても配合にはかなりの部分で差異がある。
訶子│「中草薬彩色図譜」, 376-377
鑑真大和上とともに来日した唐僧の弟子、思託(したく)は、大和上示寂後に『大唐伝戒師僧名記大和上鑑真伝』三巻を記した。この大著を元に大和上十七回忌にあたり一巻にまとめられた伝記が、淡海真人三船撰述の『唐大和上東征伝』である。大和上は渡日にあたり仏教典籍を含む多数の文物や薬物を持参されている。惜しむらく不首尾に帰した第二回渡航の際の品目として、『唐大和上東征伝』には「訶梨勒」を含む以下の薬物が挙げられている。
「麝香廿剤、沈香、甲香、甘松香、龍腦香、膽唐香、安息香、棧香、零陵香、青木香、薫陸香。都有六百餘斤。又有畢鉢、訶棃勒、胡椒、阿魏、石蜜、蔗糖等五百餘斤、蜂蜜十斛、甘蔗八十束。」(「宝暦十二年版本 唐大和上東征伝」, p25)
呵梨勒丸(訶梨勒丸)│影印版「国宝 半井家本医心方」第一巻, p330-331
参考資料:
蔵中進編:和泉書院影印叢刊12「宝暦十二年版本 唐大和上東征伝」, 和泉書院, 1979
唐招提寺戒学院鑑真大和上頌徳会編:「唐招提寺論叢」, 桑名文星堂, 1944
徐国鈞, 王強編著:中草薬彩色図譜, 福建科学技術出版社, 2006
鳥越泰義著:平凡社新書「正倉院薬物の世界 日本の薬の源流を探る」, 平凡社, 2005
安藤更生著:人物叢書「鑑真」, 日本歴史学会, 1989
影印版「国宝 半井家本医心方」全九冊, オリエント出版社, 1991
中医臨床必読叢書「太平恵民和剤局方」, 人民衛生出版, 2007
「聖済総録」上下冊, 人民衛生出版, 2013