花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

華│花便り

2020-06-28 | アート・文化
 見ているこちらは、胸打たれ、どうにもこうにも放っておけないときがある。それは、もはや話の筋を説明するためだけにそこにいるという役者であることを超えて、そこにその女優がいるというだけで、その女優から目が放せなくなってしまう。そういういわば実存的な女優というものがいる。演劇というものは、観客と役者が、その場所、その時間を共有する芸術である。
 それまで観客が生きていた時間と、その役者がその場所で演じている時間とが、観客の想像力の中で、渾然一体と宥和するとき、役者は、その観客に、いま、この場所で、役者がどういう風に生きているかを訴えなければならない。それはかつてその役者が生きてきた昔の時間を再現することだけではない。その場所で、役者が、ここにこうして生きている感じ、息づかい、匂いが観客に漂ってこないといけない。


(大下英治著「太地喜和子伝説」, p140, 河出書房新社, 2000)