花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

新型コロナウイルス感染症COVID-19と自然免疫・獲得免疫

2020-05-10 | 医学あれこれ
S. Felsensteina, et al.: Review Article COVID-19: Immunology and treatment options. Clin. Immunol.215, 2020.

本論文はオンライン速報版の、新型コロナウイルス感染症COVID-19における免疫機構と治療戦略についての総説である。SARS-CoV2感染者の80%が無症候か中等症に止まり20%が重症化する、これらの疾病予後を左右する因子の全容はいまだ解明されていない。本論文では、SARS-CoV2とRNA配列における相同性(SARS-CoV80%、MERS-CoV20%と一致)を示す既出のコロナウイルス感染症に関する報告を踏まえ、SARS-CoV2の多岐にわたる免疫回避戦略についての詳細な検討が記されている。英語論文はオープンアクセスで全文DL可能である。
 本稿では基本骨格となる「第4章 COVID-19の免疫病理学」(4.Immune pathology of COVID-19)」の章に焦点をしぼり忠実な概訳を心掛けた。本章には気道粘膜上皮、および感染/未感染マクロファージにおける細胞内シグナル伝達、SARS-CoV2による免疫回避機構を明瞭に図式化したシェーマが添えられ、続く第5章《治療》では分子レベルでの治療薬の作用部位が同じく明示されている。現状で有望視される各種治療薬の作用を学ぶ上で、本論文が御提示になった最新知見の理解が必須である。

それにしても免疫学の飛躍的進歩、炎症概念の変遷は、学部教養課程の生物学講義で初めてcentral dogmaを学んだ世代の町医者にはしみじみと隔世の感がある。

4.1. SARS-CoV2感染と免疫回避の機構(Mechanisms of infection and immune evasion)
SARS-CoV2、SARS-CoVの受容体であるアンギオテンシン変換酵素Ⅱ(Angiotensin-converting enzyme 2;ACE2)は殆ど全身の臓器組織に存在する。呼吸器系では肺サーファクタント分泌を担うⅡ型肺胞上皮細胞(type 2 alveolar cell)、繊毛細胞、粘液分泌性の杯細胞・ゴブレット細胞、消化管系では腸上皮細胞、さらに心筋細胞、血管内皮細胞にも存在しCOVID-19の心血管系合併症に繋がる。SARS-CoVでは免疫細胞(単球、マクロファージ、T細胞)の感染が認められているが、SARS-CoV2における感染の程度は確定されていない。単球、マクロファージには低レベルの遍在性ではないACE発現がありSARS-CoV2の侵入門戸となり得るが、ADE以外の受容体および/または免疫複合体を含む貪食機構の関与も示唆されている。

自然および獲得免疫応答の活性化、プライミング(先行する刺激への暴露が後続反応に影響する効果)の目的は病原体排除と組織修復にある。ウイルス感染における排除機構はI型インターフェロン(typeI interferon;T1IFN)に深く依存する。第一段階は、ウイルス由来のRNAなど病原体関連分子パターン(pattern associated molelular patterns;PAMPs)を異物として認識することから始まる。検知する受容体が自然免疫センサー、パターン認識受容体(pattern recognition receptors;PRRs)である。SARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV2などのRNAウイルスに対するPRRsには、エンドソームのToll様受容体(Toll-like receptor;TLR3/7)、および/または細胞質内のRIG-I(retinoic acid-inducible gene-I)、MDA5(melanoma differentiation-associated protein 5)がある。TLR3/7の活性化により転写因子NFκBが核内に移行、RIG-1/MDA5の活性化はインターフェロン制御節因子3(Interferon regulatory factor 3;IRF3)活性化をもたらす。これらの反応はIRF3活性化を介するT1IFN産生誘導、およびNFκB活性化を介する自然免疫応答の炎症性サイトカイン(innate pro-inflammatory cytokine)、インターロイキン-1/6(IL-1/6)および腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor;TNF-α)産生誘導のトリガーとなる。
 T1IFNおよびこれらのサイトカインは自動増幅(auto-amplification)で発現レベルが上昇する。すなわちT1IFNはインターフェロンα受容体(Interferon-alpha/beta receptor;IFNAR)を活性化し、シグナル伝達兼転写活性化因子ファミリー転写因子1/2(Signal Transduction and Activator of Transcription ;STAT)のリン酸化/活性化に至る。そしてIL-1、IL-6、TNF受容体の活性化はNFκBを介する炎症性サイトカインの発現を促進する。

しかし一定のSARS-CoV、MERSCoV感染患者において(SARS-CoV2感染においても)、ウイルスは防御機構を抑制、免疫システムの監視を回避し、重篤で予後不良な病態を導く。例えばSARS-CoV感染では、RNAセンサー(RIG-I、MDA5)のユビキチン化反応(ubiquitination)、構造劣化(degradation)にかかわり不活性化する。この反応はミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達蛋白(mitochondrial antiviral-signaling protein;MAVS) (IRF3の活性化、核内移動に必須の役割を果たす)の活性化を抑制する。さらにSARS-CoVは(SARS-CoV2も同様の機序で)TNF受容体関連因子3/6(TNF receptor-associated factors;TRAF)を抑制する。このTRAF3/6は、TLR3/7および/またはRIG-I、MDA-5を介するIRF3/7誘導活性化の中心である。また新型コロナウイルスはSTATのリン酸化抑制よってもT1IFNのシグナル伝達過程に拮抗する。総括すればSARS-CoV2感染上皮細胞における、そしてある程度は感染単球/マクロファージにおいても生じる自然免疫応答の抑制は、早期の抗ウイルス反応機構の開始を妨げてウイルスの増殖を寛容する方向に進む。 

そして感染の後期、感染細胞死によりウイルス粒子、各種の細胞内因子が細胞外に放出される。これらはトリガーとなりPRRsによる認識を経て自然免疫機構が活性化、炎症性サイトカインが発現誘導され、後天性免疫細胞がウイルス感染防御の舞台に登場する。後天性免疫機構ではTリンパ球が中心的役割を担い、CD4+ T 細胞由来のサイトカイン、CD8+ T 細胞による細胞障害、 B 細胞活性化から抗体産生が誘導される。新型コロナウイルスはT細胞のアポトーシス(自発的細胞死、後述)を誘導しこれらの免疫機構の回避を起こす。なおリンパ球減少は、肺組織へリクルート(遊走誘導され局所浸潤する)され“サイトカインストーム”進行での過剰な免疫応答の引き金となる、未感染の自然免疫担当細胞がもたらす炎症性サイトカインの発現誘導によっても生じ得る。

*Ⅱ型肺胞上皮細胞:肺胞上皮細胞には、ガス交換にを担うⅠ型細胞(扁平肺胞細胞、肺胞表面の95%を占める)と肺サーファクタントを産生するⅡ型細胞(大肺胞細胞)がある。肺サーファクタント(pulmonary surfactant)は糖脂質から成る表面活性物質で、表面張力を低下させ肺胞虚脱を防ぐ作用を発揮する。さらにⅡ型細胞は組織幹細胞として、肺胞上皮の維持・再生、肺組織修復にも働く。
*アンギオテンシン変換酵素2(ACE2):レニン・アンギオテンシン(Ang)・アルドステロン(RAA)系は神経・内分泌系に作用し電解質および水代謝調節に関与し循環動態を制御する体内システムである。ACE2はAngI→Ang-(1-9)、AngⅡ→Ang-(1-7)に変換を行う細胞膜に結合する変換酵素である。可溶性ACE2が低レベルで血液中にも存在する。
*自然免疫、獲得免疫:免疫系は先天的に備わる自然免疫、生後に獲得する獲得免疫に分かれる。自然免疫は、病原体や外来抗原に対し後述のパターン認識受容体(PRRs)を介し、病原体や外来抗原侵入を感知し迅速な初期免疫反応を誘導する。マクロファージ、好中球、樹状細胞などが担当細胞である。獲得免疫は、病原体を特異的に認識し記憶することにより、再び同じ病原体に曝露された時に効率よく排除する。担当細胞はリンパ球のT細胞、B細胞である。
*病原体関連分子パターン(PAMPs)、パターン認識受容体(PRRs): PAMPsは自己には存在しない特定のグループの病原体に共通した様々な構成分子構造、分子パターンである。PAMPsを認識して病原体侵入を感知するPRMsは自然免疫系のセンサーで、細胞膜に存在する膜貫通型のTLSs(刺激を受けない状態では小胞体に局在し、刺激によりエンドゾーム内に移行してリガンド分子を認識する)と、細胞質内に存在する細胞質型のRIG-I、MDA5がある。受容体とこれに結合するリガンド分子が同時に多くの部位で結合(すなわちパターン認識)することにより、強い結合親和性とこれに続くシグナル伝達を起こすことができる。
*I型インターフェロン(T1IFN)、インターフェロン受容体(IFNAR)、シグナル伝達兼転写活性化因子(STAT):T1IFNはウイルス感染で誘導されるサイトカインでIFN-α/βを含めた総称。T1IFNが受容体IFNARに結合、JAK(Janus kinase)-STAT経路が活性化され、STATが核内に移行し、インターフェロン誘導性遺伝子の転写誘導が行われて抗ウイルス応答が活性化される。ちなみにⅡ型インターフェロン(INF-γ)は免疫細胞により分泌されマクロファージを活性化する。
*インターフェロン制御節因子3/7(IRF-3/7): T1IFN遺伝子のプロモーター領域に結合し転写誘導を担う転写因子。
*TNF受容体関連因子3/6(TRAF-3/6):腫瘍壊死因子(TNF)はサイトカインの一種で腫瘍や病原体排除を担う生理作用を発揮する。狭義にはTNF-α、TNF-β、LT-βの3種類がある。TNF-αは固形癌に対し出血性壊死を生じるサイトカインとして1975年に発見された。TRAFはTNF受容体のシグナル伝達を促進する細胞内蛋白である。
*CD4+ T 細胞、CD8+ T細胞:CD4、CD8はリンパ球、T細胞の細胞表面マーカーで、T細胞はCD4のみを発現するヘルパーT 細胞(CD4+ CD8-)とCD8のみを発現するキラー T細胞(CD4-CD8+)に分かれる。骨髄由来の前駆細胞は胸腺で分化誘導された後に体循環に入り、抗原にまだ暴露されていないナイーブT細胞は、二次リンパ組織で抗原と遭遇して活性化されエフェクターT細胞に分化する。エフェクターCD4+ T細胞はTh1/2/17細胞の3亜群に分類され、ヘルパーT細胞としてB細胞を活性化し抗体産生に関わる。エフェクターCD8+ T細胞は細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte; CTL)とも呼ばれ、宿主には異物であるウイルス感染細胞、癌細胞などを攻撃。破壊する。
*ミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS):ミトコンドリア外膜上の膜蛋白である。細胞質内のPRRs であるRIG-1、MDA5からの情報はMAVSに伝達され、転写因子IRF-3/7、NF-κBの活性化に至る。


4.2. 過剰な炎症反応とサイトカインストーム(Hyperinflammation and cytokine storm)
SARS、MERSと同様に、COVID-19の予後に関わる鍵として過剰な炎症反応(hyper-inflammation)が挙げられる。免疫回避の機構とは一見相反するが、T1IFN、IL-1β/6、TNF-αの発現増加を含む亢進した自然免疫活性化が、COVID-19、MERS、SARSにおける罹患率、死亡率を決定する中心的な役割を果たす。その背景は血管内皮細胞障害、ウイルス増殖でもたらされる細胞死の誘導である。ウイルスが惹起する炎症性の細胞死、ネクローシス(Necrosis)あるいはパイロトーシス(Pyroptosis)は炎症性サイトカインを発現誘導し、未感染の免疫細胞のリクルートを促し活性化する。抗ウイルス反応およびT1IFN発現抑制を介した、呼吸上皮におけるウイルスの免疫機構の回避はウイルス量の増加を促進する。すなわち以上から導かれる仮説として、未感染の単球/マクロファージおよび好中球の感染病巣へのリクルートが強力で同時に制御不能な炎症性反応を惹起し、罹患率、死亡率を左右する組織障害、全身性の炎症反応を招来する。

臓器障害、予後不良に係る次なる因子になるのが、コロナウイルスに対する早期の中和抗体産生による抗体依存性感染増強現象(antibody-dependent enhancement;ADE)である。ウイルス粒子と抗体が結合した免疫複合体はFcγ受容体 (FcγR)を介して細胞内に取り込まれる。その結果、新たに感染した抗原提示細胞を含む免疫細胞の中で、長期にわたりウイルス複製が可能となり、ARDSなどの臓器・組織障害となる免疫複合体を介した炎症性反応が生じる。事実、COVID-19患者における血管炎性病変、血管閉塞・梗塞が報告され、病理組織学的に免疫複合体を介する血管炎、血管周囲の単球・リンパ球浸潤、血管壁の肥厚、限局性出血が認められる。

全身的な自己免疫性/炎症性病態において、制御不能な免疫反応の招来は自然免疫機構に止まらない。炎症性サイトカイン発現と核抗原提示(細胞および組織障害の産物である)の結果、獲得免疫が活性化され、第二波炎症の引き金となる(感染の7-10日後に悪化する患者の病態がこれに該当する)。獲得免疫細胞、すなわちT細胞は、ARDSおよび/またはサイトカインストームを合併したCOVID-19患者の肺組織に認められ、これらの炎症は疾病後期に惹起された可能性がある。同様の炎症性所見はインフルエンザ、他のウイルス感染症でも報告がある。サイトカインストームを来す重篤なCOVID-19患者はリンパ球減少(lymphopenia)を呈し時にリンパ組織の委縮が観察される。これらの病的所見は原発性・二次性血球貪食性リンパ組織球症(Hemophagocytic lymphohistiocytosis;HLH)、関連するサイトカインストーム、細胞死とリンパ組織の細胞数減少に至る病態に一致するものである。

*アポトーシス、パイロトーシス:アポトーシスは不要となった細胞を除去するために誘導される分子機構で、遺伝学的にプログラム/制御された細胞死(cell death)である。ネクローシス(壊死)が細胞内容物の放出により炎症反応を惹起するのに対し、アポトーシスでは細胞内容物が露出しない。パイロトーシスのパイロ(Pyro)は火・熱を意味し、炎症誘導性のアポトーシスを称する。
*血球貪食性リンパ組織球症(HLH):遺伝子異常による原発性、他疾患に続発する二次性に大別され、乳児、幼児にみられる免疫機能障害を来たす疾患。骨髄、リンパ節などにおけるマクロファージ、組織九による血球貪食を特徴とし、発熱、肝脾腫、汎血球減少を来す。


4.3. 個々のリスクと予後に影響を与える宿主因子(Host factors affecting individual risk and outcomes)
COVID-19の予後は年齢と関連があり、小児はSARS-CoV2感染に抵抗性があり重篤な症状や合併症を来しにくく、一般に小児がウイルス感染症を起こしやすい事実とは対照的である。75%以上の小児は4歳以前に季節性のコロナウイルスの暴露を受ける。季節性コロナウイルスとの交叉免疫性の範囲は限局的であるが、加齢と共に減衰するウイルス抗体価が年配者のSARS-CoV2に対する免疫反応を低下させている可能性がある。そしてリコール効果はSARS回復期患者における季節性コロナウイルス抗体価上昇としても確認される。デング熱のようなウイルス疾患ではADEを介して免疫細胞への感染、T1IFN反応の抑制、IL-6、TNF-α発現が促進される。年配者の様な、季節性コロナウイルス曝露の既往があるが抗体価低下がある様な個体においては、広範囲な抗体産生のリコール応答は免疫複合体の沈着を来し、免疫複合体性血管炎を含む炎症・組織障害を促進する可能性が指摘される。

さらに病態と年齢との関係では、麻疹ワクチン、BCG(Bacille de Calmette et Guérin、カルメット・ゲラン桿菌の略)などの生ワクチン(live vaccination)の問題が指摘される。ワクチンは自然免疫の誘導を介する標的疾患の予防効果の枠を超えて、非特異的効果(non-specific heterologous effects)の防御反応を発揮する。例えばBCG接種は黄色ブドウ球菌、カンジダに対する免疫反応に際してIL-1β、TNF-αを増加させ、これらの感染症における乳幼児の死亡率低下に寄与する。しかしながら標的ではない抗原に対する異種免疫反応は炎症性の合併症をもたらす。しばしば成人で暴露を受けたことがない抗原に特異的なメモリーT細胞が認められ(バーチャルメモリーT細胞)、交差反応性メモリーT細胞は“高親和性”クローン選択を介しT細胞応答を狭小化する。メモリーT細胞のレパトア制限(limited memory T cell repertoires)は免疫老化(Immune senescence、Immunosenescence)の特徴であり、ウイルス性肝炎、伝染性単核球症など他のウイルス感染症における疾病の進行、T細胞が介する組織障害に関連する。

またSARS-CoV2の受容体となるACE2の発現パターンは、細胞組織(呼吸上皮VS免疫細胞)さらに個人(男性VS女性、小児VS成人)における易感染性の差異に影響する。ACE2の発現は小児、若年女性に最も多く年齢に従い減少し、糖尿病、高血圧症などの慢性疾患患者ではさらに低値を示す。ACE2はウイルス侵入を促進する一方、感染・炎症を制御して組織を修復する役割をも有する。すなわちACE2はACE2/Ang-(1-7)/MASシステムを形成しAngⅡの炎症性反応に拮抗する。すなわちAngⅡから変換されたAng-(1-7)は血管収縮を防ぎ、白血球遊走、サイトカイン発現および組織線維化機転を調節する。SARS-CoV2関連粒子とAngⅡとの結合競合において、ACE2の発現が“高値”であれば生体に有利である(ウイルス分子がACE2受容体を乗っ取りACE2の下方制御(down regulation)が進行するが、ACE2発現が多ければACE2→Ang-(1-7)の変換活性低下、AngⅡ上昇およびAng-(1-7)低下傾向が緩和されて炎症反応の惹起に歯止めがかかる)。小児、若年者、特に若年女性においてACE2発現が比較的高値であることがCOVID-19さらに合併症のリスクから保護されている機序を示唆する。

以上を総括すると、SARS-CoV2の様な新型コロナウイルスは自然免疫機構における早期のT1IFN反応を抑制する。その結果、ウイルス増殖制御が頓挫し、遅延ししかも増強したサイトカイン反応が後期に惹起される。早期にウイルス増殖の制御・排除が可能であれば、年配者、糖尿病、代謝性疾患を有する患者の疾病リスクを低下させることができる。健康な小児や若年者は感染早期に効果的にウイルス負荷を制御し、重篤で生命予後にかかわる合併症を招来しないことが示唆される。最後に早期の抗体産生は、生存可能なウイルスの結合、免疫細胞への取り込みを経てウイルス増殖が増加し、免疫複合体が関与する病態を惹起し、明らかな危険因子をもたない若年における病理機転をもたらす可能性が示唆される。

*レパトア:可変領域が示す多様性を意味する。すなわちレパトアが偏向、狭小化すると抗原認識の多様性が失われる。異なった特異性を持つT細胞受容体(T cell receptor;TCR)により特徴づけられるT細胞集団をTCRレパトアと称する。
*免疫老化:エフェクターT細胞の一部はメモリーT細胞として長期に生存する。加齢とともに胸腺が委縮し新たなナイーブT細胞の供給が低下する。老化個体はこれに対し既存のT細胞を増殖させてT細胞数の恒常性維持を計る。TCRレパトアが減少し特定の抗原に対するT細胞がクローナルに増殖すると、他抗原に対するT細胞応答が制限され多様性が低下し、全体として免疫力低下につながる。老化による免疫系の変化はT細胞機能低下が最も大でナイーブT細胞低下とTCRレパトア減少が指摘されている。免疫老化は高齢者の自己防衛機能を低下させ感染抵抗性を減弱する一方で、様々な加齢関連疾患における慢性進行性炎症の亢進にかかわる(炎症老化、Inflamm-aging、Inflamm-ageing)。COVID-19における高齢者の重症化率高値も例外ではない。