花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

理屈やない、人を感じなあかん

2019-04-14 | 日記・エッセイ


「おとうちゃんは、ただの菓子屋やさかい、難しいことはようわからんけどな、結局、相手は人さんや。相手はんがどないなお人で、どないな暮らしをしてきやはったか、人を感じな、ええ仕事できんのと違うか。理屈やない、人を感じな。」

「感じな」は、「感じなあかん」の省略であり、「感じなければならない」という意味である。テレビドラマ『巨悪は眠らせない 特捜検事の標的』の主人公、少壮気鋭の特捜検事、富永真一(玉木宏、敬称略、以下同文)の自宅を、ある夜、老舗の菓子匠「冨永」を営む父親、冨永一雄(田村亮)が、端正込めた生菓子を手土産に陣中見舞いに来訪する。大事な事件の時やさかい一服せなあかんと父親が差し入れた葛餅を、冨永は一口賞味して旨いなと日頃忘れていた笑顔を浮かべる。差し向かいで食べながら、思い悩む心底を吐露する息子に向かって、菓子職人一筋に生きてきた父が訥々と語りかけるのが冒頭のセリフである。
 目の前の物事の段取りを最優先すれば、有形、無形を問わず、確実に取りこぼすものがあると、医療とは関係のない私事で思い知る出来事が最近あった。日頃は何とも思わぬ鎧が重うなった胸中の時、不思議に何の気なしに開けた本の一節、あるいは偶々観たドラマや映画のワンシーンの中に、天啓の様に心に舞い降りてくる指針を与えられることがある。