花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

再興感染症

2018-08-25 | 医学あれこれ
毎年10月頃、独立行政法人国立病院、南京都病院の御主催で医師向け結核研修会が開催される。8月22日の新聞には、正岡子規の新たな句が収められた歳旦帳が初公開されるという記事が掲載されていた。子規は肺結核、脊椎カリエス(結核性脊椎炎)を発症し三十四歳で夭折した。明治から昭和に至る時代、かつては国民病とまでいわれた結核に罹患し志半ばで斃れた作家、詩人や俳人、芸術家は数知れない。
 結核は空気(飛沫核)感染を起こす伝染病である。飛沫核は咳やくしゃみで口から飛び散った水滴(飛沫)から水分が蒸発した小粒子(直径<5μm、1μmは0.001mm)で、軽いために長時間空気中を浮遊する。吸入された飛沫核は末梢の気道内で沈着し、飛沫核に濃厚暴露されて結核菌感染が成立すると、その後2年以内に発病する人は約6~7%、細胞性免疫で封じ込められた菌を休眠状態で抱えながら発病を免れ天寿を全うされるのが90%、宿主の免疫力が低下した時に、結核菌が休眠状態から再び増殖(内因性再燃)して発病(二次型結核)に至るのが3~4%である。結核の既感染率は年齢が上がるにつれて上昇し、高齢者の多くは気が付かないうちに感染し保菌者となっていると考えられる。そして結核の年代死亡層は、かつての青年層になりかわり、高齢者が占めるようになっている。近年、多剤併用療法から成る標準化学療法が確立され、結核の診断、予防と治療の取り組みは、宿痾と恐れられた時代に比べ隔世の感がある。しかし年次推移で新登録患者数、罹患率は減少傾向にあるも結核撲滅にはなお道遠く、毎年、集団感染の事例報告がなされている。時代のグローバル化に伴う感染者の地球内移動、有効薬剤が効かない多剤耐性結核、免疫抑制宿主における内因性再燃などの課題を含め、結核は克服された過去の病気ではなく、「再興感染症」(発症が一時期は減少し克服できると考えられたが、再び流行する傾向が出ている感染症)と現在位置づけられている。

臥して見る秋海棠の木末かな

秋海棠に鋏をあてること勿れ
   
              明治34年 正岡子規


大正十三年木版画