花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

鶴女房症候群とスタンバイ症候群

2017-01-24 | 日記・エッセイ

『團扇畫譜』収載画

己を振り返って《おばさん症候群》の三徴候(トリアス、trias)というものを考えたことがある。ちなみに医学的な「症候群」とは、明確な原因は不明ながら一群の共通した症状や所見を呈する病態群を称する。例えば内耳の内リンパ水腫を本態とする「メニエール病」という名前は、1867年にアダム・ポリッツァーがめまい、耳鳴、難聴の三主徴症状が揃った疾患で提唱した《メニエール症候群》に由来する。これに先んじた1861年、プロスペル・メニエールがめまい症状を示した患者の剖検で三半規管に出血を確認して内耳性めまいを報告したことを踏まえての命名である。なおめまいや耳鳴、難聴の症状があれば即メニエール病の診断が下せるかと申せばそうではない。メニエール病の診断基準にはバラニー学会における国際診断基準、本邦の厚労省前庭研究班、日本めまい平衡神経学会から発表されたものがあり、up to dateの研究成果に基づいて診断基準が更新されている。

さて冒頭の《おばさん症候群》に戻るが、「ため息」、「掛け声」、「独り言」が三大徴候である。「あああ、疲れたなあ。よっしゃあ、もうひと頑張りするで。」などと声に出した行動が観察されれば確実例の確定診断が下る。さらに提唱したい症候群として、自分の心身を犠牲にして羽を全て抜いてでも家族の為に美しい反物を織るという《鶴女房症候群》、また日夜たえず家族の為に行動できるように気を配り準備状態にある《スタンバイ症候群》が挙げられる。両症候群に共通する発症要因は、「なんとかしてあげたい」(私に出来ることはしてあげたい-----基本的に心優しいのである)、また「私がしなければならない」(誰が替わってしてくれるというの?!-----ここには諦めと怒りが込められている)という心情や事情である。これらを症候群として病的に捉えるには批判もあろうが、外来診療で問診票をもとにお話を伺っていると、多くの女性の患者さんの疾病経過や生活養生に少なからず影響を及ぼしているのではないかと考えさせられる心習い(心についた習慣、性癖)なのである。