花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

『風に立つ花 向かう花~花と舞台の日本的美』の世界│大和未生流の花

2017-01-09 | アート・文化


「表題を『風に立つ花 向かう花』としたのは、風は見えないものでありながら、確かに存在するものであるからである。その風は花を散らせるものでもあり、花を咲かせるものでもある。花はその風に向かい、そして立つ。そして向かう。本書で取り上げた花も、芸能も演劇も研究も常に風に向かって立ち、向かうものであるからである。」(p285-286)

『風に立つ花 向かう花~花と舞台の日本的美』(おうふう、2017)は、大和未生流御家元、須山章信法香斎先生が「心より心に伝ふる花」と題して平成十四年六月より月一回、奈良新聞に執筆なさった随筆の一端をおまとめになり、本年元旦に上梓なさった御本である。一月八日、奈良ホテルに於いて流派一門がうち揃い、各界からの御来賓の方々をお迎えして華やかに新年会が開催された折、大和未生創流百周年にあたる本年の記念として御来賓の皆様に御贈呈なさるとともに我々一同にも下されたのである。
 本書の其処彼処に散りばめられているのは、四季折々に巡り会われた花や人、日本の草木国土にお向けになる真摯で慈愛に満ちた御眼である。初代御家元の血脈を受け継がれて流派を統率なさるとともに、近世上方演劇の御専門領域における教育者、研究者として一筋に歩いてこられた須山御家元が、折に触れてものされた随筆という形で拝読する者に水先案内をして開陳して下さるのは、華道を一つの核としながらも実に広大で多彩な世界である。そして本書はどの章の節から読み進んでもまた必ず何処かの節に導かれる。それは本書が徹頭徹尾、日本の伝統文化やその底に脈々と息づく美意識や感性をゆるがせにはせぬという堅い御決意に貫かれているからであろう。
 冒頭は本書のあとがきに記された象徴的な御言葉である。風立ちぬ、いざ生きめやもではなく、生きているのだ、生きねばならぬである。その風を感じるだけにも終わらず、「その風に向かい、そして立つ。そして向かう。」という強い御意志なのである。