霜降(10月24日)は、二十四節気の第18番目の節気である。さらなる冷気によって露が霜となり降り始めるとされる節気である。霜葉は二月の花よりも紅なりとも歌われた通り、野山は彩られて全山紅葉の錦秋の秋を迎える。霜は実際には、月落ち烏啼いて霜天に満つと詠まれた様に寒空より降り来たるのではなく、大気と接触している物体の表面温度が霜点より低下した時、空気中の水蒸気が昇華して結晶となるために起こる現象である。秋の霜と申せば、日本の検察官記章の意匠の呼び名は「秋霜烈日」である。かたや陽の灼熱の夏、こなた陰の粛殺の秋に属し、対照的な陰陽の象徴である。烈日と同じく天空より降り来るとされた秋霜は、ともに地上の人為に歪められることなく、天の理に従う峻厳で無私公正な職務を表わすにふさわしい。
この時期の養生において注意せねばならないのは、秋特有の乾燥、次いでは晩秋の気温がさらに低下する時期の寒冷気候、さらに萬物が枯れ行く粛殺の景象である。すなわち気を引き締めるべき対象のキーワードは、秋燥、秋寒、悲秋である。三番目の粛殺の気に対しては、、10月3日の《二十四節気の養生》のブログ記事、『秋の養生│秋のように生きる』で触れた「使志安寧, 以緩秋刑」の心構えが必要となる。
そして霜降をすぎればいよいよ冬の到来である。秋の凉燥から冬の寒冷への通過点にある霜降においては、「補冬不如補霜降」を念頭に置いて、改めて秋の補(忘れてはならないのは養陰潤肺、その他虚証の種類に応じた補を行う)を心がけねばならない。秋そして霜降は、来る冬の養生の基礎をつくるべき重要な時節なのである。
秋山に 霜降り覆ひ 木の葉散り 年は行くとも 我れ忘れめや 万葉集 巻第十 柿本朝臣人麻呂