うたのすけの日常

日々の単なる日記等

うたのすけの日常 山田風太郎の「戦中派不戦日記」を読む223

2010-09-18 05:07:48 | 日記

いよいよ授業再開か<o:p></o:p>

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十一月一日() 快晴<o:p></o:p>

 午前十時より第一教室にて緒方校長の話しあり。学校民主化を叫ぶ論旨、あまりにもげんきんにしてひっかかるところあれど、またあまりに熱烈痛快なるがゆえに、みな笑う。<o:p></o:p>

 曰く「教授内容はドイツ医学より米国医学に切り替えるべし。従って外国語はドイツ語より英語を重んず。出来るなら教授数名をただちにアメリカに派遣致したし。この際進んでアメリカの懐に入るにしかず」<o:p></o:p>

 また校地の買収拡張計画、図書館、標本室拡大計画、血清学教室、病因学教室、公衆衛生学教室の拡張計画等につづき、曰く「戦争中は実に不本意なること多かりき。配属将校なるものが諸君の及落にまでくちばしを入れたるは余の心外千万なるところなりしも、当時は万やむを得ざりしなり。彼らに対し、その酷使するところとなりし諸君の恨み深かるべきも、彼らはもと教養なき野蛮人なり、諸君とは育ちがちがうなりと思いて、たとえ彼らが本校の事務員となれる姿を見るもこれを問題とすることなかれ。戦争中の責任はことごとくわが負うところなり。<o:p></o:p>

 これより軍国主義は一切払拭す。軍隊のごとく徒に大声を発し、機械人形のごとくピンシャンするのはエヌルギーの大損にして、ふつうの態度をとりて充分つとまる話なり。<o:p></o:p>

 見よ、アメリカはそれでいって、しかも戦に勝ちしにあらずや。上官にも或る場合を除けば敬礼せず、上下悉く愉快に笑えり。それがほんとうにして、日本のごとく敬礼一つ忘れたるがため重営倉に叩き込むがごときは愚劣野蛮の骨頂なり。話せばわかるなり。話せばわかるといいし犬養首相を問答無用と射殺し、議会で黙れとどなりつける軍人は、無知蒙昧の標本なり。人間の思想と感情は自由なものにして、これを腕力で押さえつけんとするは僭越の極みなり。爾今、挙手の敬礼など一切止むべし」<o:p></o:p>

 曰く「よく遊びよく学ぶ。まず遊んでしかるのち勉学と考えてよろし。これより出席のごときは一切諸君の自由とす。授業時間以外は学校に笛太鼓がプカプカドンドン鳴りているとも一向に構わず」<o:p></o:p>

 曰く「ただ目下諸君の住と食は問題なるも、宇都宮より通学する学生もありときく。しかし学校としては、諸君の私生活まで援助する資力もなければ、義務も感ぜず。何とかして東京に居を探し、もぐり込み、歯をくいしばっても辛抱せられたし。それの不可能なる人は当分休学するか地方の医専にでも転学せられよ。お気の毒ながら学校としてはかくいうよりほかはなし」<o:p></o:p>

 (実にあっけらかんとした演説です。悲しい現実でしょうけど思わず笑ってしまいます。)<o:p></o:p>

 校長の演説をきいていると、何だか敗戦をうれしがっているようなり。ただし、校長も情けない情けないを連発す。

 日本人は頭が悪いから仕方がない。余はこの頭の貧弱なる国民に生まれたることは恥辱と思う。余も卑屈と怒るか知らねども、当分日本はどうしたって米国に頼らねば生きてゆけざるなり。こう考えるは賢明にして、決して卑屈にあらずと思う。さて、一般に教養ある日本人が、終戦以来の連合軍司令部に心中喝采を叫ぶがごとく見ゆるは考うべき問題なり。余のごときは、その命令が適切なればなるほど、それだけ癪に障ることおびただし。されど…だんだんとかかる新教育に馴致されゆくこととなるべし。実に残念無念なり。<o:p></o:p>


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6 コメント

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Unknown (みどり)
2010-09-18 21:32:35
 『ただ目下諸君の住と食は問題なるも、宇都宮より通学する学生もありときく。しかし学校としては、諸君の私生活まで援助する資力もなければ、義務も感ぜず』
お金のない人は学び続けることが出来なかったのでしょうね。
 今も同じ様な感じです。
医学生の授業料調べたのですが、一位は帝京大学医学部6年間で4900万円以上、私がお世話になりました聖マリアンナ医科大は16位でしたか、3900万円で(安い方です。と・・・ありました)
特待生制度がある学校もあるようですが、余程の秀才かお金持ちでなければ、医学は学べないのですね。
多くの志しある青年の命を奪った戦争も厭ですが、何処までも続く教育格差や差別、なんとか是正したいものです。
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Unknown (志村 建世)
2010-09-18 21:56:43
この時代の「自発的民主化」の空気がわかって、非常に面白く感じます。医学界まで、ドイツからアメリカへが流行だったとは、少し意外でした。
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Unknown (うたのすけ)
2010-09-19 05:55:15
みどりさんへ。
お早うございます。
医学部に限らず、親の所得による教育格差は深刻ですね。
育英資金で卒業しても不況の折り、返済不能に陥り苦しむ若者が急増しております。
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Unknown (うたのすけ)
2010-09-19 06:02:24
志村さんへ。
お早うございます。
医学界のことは分かりませんが、医学といえばどうしても昔はドイツですよね。現在はアメリカの医学が先端をいっているのでしょうか。
日本医学が世界をリードしているような気がしております。
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Unknown (深山あかね)
2010-09-21 09:30:51
 おはようございます。 
 久しぶりに立ち寄らせていただきました。 
 連歌はいつも読ませていただいています。

 先日大阪方面で医学部受験生の塾で生物の講師をしている実家の姪っ子に何年かぶりに会いました。受講生はすべてお医者さんの子弟だそうです。「早くから英才教育を強いられているせいで、まったく勉強する気がないんだから何年経っても受からないよ。」とぼやいていました。

 志を持つ人が学べる世の中になると良いですね。
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Unknown (うたのすけ)
2010-09-21 10:38:53
 深山あかねさんへ。
 今日は。
 
 卒業時の成績順位を、医師免許に明記する制度は如何でしょう。
 もちろん受付に掲示することを義務化します。
 
 藪医者が 竹の子育て 順送り
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