トロルお爺の”Satoyaman”林住記

生物生産緑地にて里山栗栄太が記す尻まくりワールド戯作帳

糸口は些細だ

2009-02-13 | 今はうたかた

Sn3d0427 たまたま飛び込んできた一句

『春寒し引き戸重たき母の家』 小川濤美子

で半世紀以上も昔のことが思い出されて胸が熱くなった。まだ学齢前のことだ。

母の実家はバスの終点から砂利道を一時間も歩いた山間にあった。

バスから降りて真っ暗な道を眠気を我慢して歩いたことを思い出した。

実家の玄関は黒く重い板戸で、入ると広い板の間があった。囲炉裏に大鍋がかかっていて食器を煮ていたのが不思議だった。

サイダーを初めて飲んだのは母の実家に違いない。泡の出るなんとおいしい水だったか。

台所の洗い物は板の間に引き入れた沢の水で済ましていた。きっと飲料水もそれだったろう。

夜は沢の水音がうるさかった。何よりも馬小屋の一角にあるむき出しの便所が怖かった。

馬は繋がれていたとはいえ、用足しに入ると顔を近づけてくるのだから。

「かいぼり」で捕まえた岩魚は大きかった。夕食の焼き岩魚を手付かずに残したら、朝食にまたでてきて閉口した。やっとの思いで食べた記憶がある。

帰路、駅の待合室でベンチに横になって睡魔と闘っていたとき、天井扇がゆっくり回っていたのが印象的だった。季節は夏だったのだろうが、妹や弟が一緒だった記憶はない。

母がなくなった後、「戸川の水が飲みたい」といっていたことを思い出して、水汲みに立ち寄ったことがあった。

既に昔の家は無く、石垣と屋敷前の祠だけが微かな記憶と合わさった。

遠い昔のことだ。

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