22日(日)。昨日、東響オペラシティシリーズ第80回演奏会とキュッヒル・クァルテットのベートーヴェン・サイクルを聴きました。今日は東京オペラシティコンサートホールで聴いた東京交響楽団のオペラシティシリーズ第80回定期演奏会の模様について書きます。
プログラムは①バッハ/ウェーベルン「6声のリチェルカーレ」、②藤倉大「5人のソリストとオーケストラのための『Mina』、③ハイドン「交響曲第44番ホ短調”悲しみ”」、④ブラームス「交響曲第4番ホ短調」です 指揮は音楽監督ジョナサン・ノット。ソリストは、オーボエ=荒絵理子、フルート=相澤政宏、クラリネット=エマニュエル・ヌヴ―、ファゴット=福井蔵(以上、東響首席)、ハンマーダルシマー=ネイサン・デイヴィスというメンバーです
オケは左サイド奥にコントラバス、前に第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンという対向配置をとります。ノット・シフトのコンマスはグレブ・ニキティンです
1曲目の「6声のリチェルカーレ~『音楽の捧げもの』BWV.1079より」はバッハの作品をウェーベルンが編曲したものです 「リチェルカーレ」とはフーガのことです。フーガとは、NHKのど自慢のデュエット曲の定番、ザ・ピーナツの『恋のフーガ』を口ずさんでみれば分かりますね。「追いかけーて、追いかけ-て」、そう、同じメロディーが追いかけて出てくるあれです
どうもシェーンベルクとかウェーベルンとか、現代音楽は好きになれないのですが、この曲は良い曲だと思いました 素材が良ければ調理方法を問わず料理は美味いということでしょうか
2曲目の藤倉大「5人のソリストとオーケストラのための『Mina』は、今や世界的に活躍する藤倉大が第1子である娘Minaの誕生後初めて作曲した曲とのことで、その時感じたインスピレーションを音にしたものだそうです
5人のソリストが登場し、指揮者の前にスタンバイします 左からフルートの相澤、オーボエの荒、ファゴットの福井、クラリネットのヌヴ―、ハンマーダルシマー(弦をバチで叩く楽器)のデイヴィスという配置です。「あらっ」と思ったのは、青地に白の花模様を配したお洒落なドレス姿の荒絵理子です あなた、張り込みましたね
曲は、瞬間瞬間で表情を変える赤ん坊の急激な変化を音にしていくもので、最初はソリストだけで演奏されます 途中からオケが加わり音に厚みを加えます。中間部ではフルートの相澤がバス・フルートに持ち替えて美しいメロディーを奏でますが、その間、他の4人は小さな打楽器(解説には「フィンガー・シンバル」とあった)などを鳴らしています。ここは赤ん坊をあやしているところでしょうか。面白い曲でした
前半最後の曲はハイドンの「交響曲第44番ホ短調”悲しみ”」です。この曲は1770年から72年にかけて作曲され、1760年後半から1772年にかけての『疾風怒濤』時代を代表する短調の名曲です ハイドンは100曲以上交響曲を書きましたが、短調は11曲だけです。そのうち6曲が『疾風怒涛』の時期に集中的に書かれています
オケは総勢33人程度の小編成です。ノットは指揮棒なしで登場します。彼がタクトを振らず手で指揮をするのは珍しいことです。古典派の曲ならではのことでしょう
ノットの合図で第1楽章の演奏に入りますが、まさに短調の魅力そのものの曲想です 聴いていてモーツアルトの短調を思い起こしました。ハイドンはモーツアルトの先陣を切っている、と再認識せざるを得ません 第2楽章のメヌエットを経て第3楽章のアダージョに移りますが、どちらかというと、このアダージョの方がメヌエットのような優雅な感じを受けました そして第4楽章のフィナーレを迎えますが、再び『疾風怒濤』の短調が胸に迫ります。やはり、ハイドンは文句なしに「交響曲の父」に相応しい人物です
休憩後はブラームスの「交響曲第4番ホ短調」です。奇しくも前日、ハーディング+新日本フィルで聴いたばかりの曲。図らずも聴き比べとなりました オケが拡大しフル・オーケストラで演奏します。今度はノットは指揮棒を携えて登場します
全曲を通して、同じ曲を聴いているのに印象がまったく違います 演奏自体というよりも音の響き方と言った方が良いかも知れません。会場の違い、座席の位置の違いによるところが大きいと思います
トりフォニーホールは約1800席、聴いたのは1階18列3番と、左ブロックの端に近い席。これに対しオペラシティコンサートホールは約1630席、聴いたのは1階19列21番と、センターブロックの右端の席です。ステージからの距離はほとんど同じにもかかわらず、総じていえば、トりフォニーの方が”音が遠い”、オペラシティの方が”音が近い”という印象がありました。同じシューボックス型のコンサートホールでも収容人数170席の差は大きいのかも知れません。
ハーディングとノットとの指揮で気が付いたのは、共通点としては①冷静な指揮ぶり②”対向配置”をとることが挙げられます 一方、ヴィオラ、第2ヴァイオリンへの”気遣い”の点で違いが見られました。弦の最高音程セクションである第1ヴァイオリンと最低音程セクションであるコントラバスとチェロが指揮者の左サイドに位置している関係で、指揮者としては必然的に左を向いて指揮することが多くなります それがそのまま素直に出ていたのがハーディングです。必要最低限の時だけ身体を右に向けますが、ほとんど左を向いたまま指揮をしていました。これに対しノットは、基本的には左を向いて指揮をすることが多いのですが、右のヴィオラと第2ヴァイオリンへの指示の時は必ず顔を向け、気配りを見せていました
同じ曲を違う指揮者やオーケストラで聴くときは、演奏それ自体はもちろんのことですが、こうした指揮者の動きに目を向けるとコンサートもより面白くなります
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