13日(月)。わが家に来てから今日で1932日目を迎え、動画初登場のモコタロです
顔を洗って出直すところです
昨日、NHKホールでNHK交響楽団第1930回定期演奏会(1月Aプロ・2日目)を聴きました プログラムはマーラー「交響曲第2番ハ短調”復活”」です 演奏はソプラノ=マリソル・モンタルヴォ、メゾ・ソプラノ= 藤村実穂子、合唱=新国立劇場合唱団、管弦楽=NHK交響楽団、指揮=クリストフ・エッシェンバッハです
指揮をとるエッシェンバッハは1940年、ドイツのブレスラウに生まれ、ピアニストとして1962年のミュンヘンのARD国際音楽コンクールで最高位(1位なしの2位)入賞を果たし、1965年のクララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールで優勝しました その後、ジョージ・セルやヘルベルト・フォン・カラヤンの支援のもと、30代半ばから指揮活動に重心を移していきました フィラデルフィア管、パリ管、ワシントン・ナショナル響などの音楽監督を歴任し、2019年秋にベルリン・コンツェルトハウス管の音楽監督に就任しました
マリソル・モンタルヴォはアメリカ出身のソプラノですが、今回はハンナ・エリーザベト・ミュラーの降板に伴い 急きょ代わりに歌うことになりました エッシェンバッハとはウィーン・フィルやパリ管など数多くのオケで共演しているとのことです
藤村実穂子は言うまでもなく、ワーグナー音楽の聖地で開催される「バイロイト音楽祭」で主役級の役柄で9年連続出演するなど、日本を代表する世界的なメゾ・ソプラノ歌手です
「交響曲第2番ハ短調”復活”」はグスタフ・マーラー(1860-1911)が1888年から1894年にかけて作曲(1903年改訂)したソプラノとメゾ・ソプラノ独唱、合唱を伴う交響曲です
マーラーは第1交響曲を完成直後の1888年に1楽章形式の交響的作品を作曲し、「葬礼」と名付けました 後に彼はこれを、第2交響曲の第1楽章とします そして、1893年から1894年までに第2楽章~第5楽章を作曲します。この間 5年間の空白期間がありますが、マーラーが非常に尊敬していた指揮者・ピアニストのハンス・フォン・ビューローの前で試奏したところ、酷評されたことが原因であると考えられています マーラーは1901年、ある友人に「私が彼に『葬礼』を弾いて聴かせると、彼はナーヴァスに驚愕の色を表し、『トリスタン』でさえ私の作品に比べればハイドンの交響曲のようなものだと言い、まるで狂人のように振る舞った」と報告しています そんなビューローが1894年2月に死去します。マーラーが第2交響曲の第3楽章を書き上げた後のことでした マーラーはその葬儀に参列しましたが、その時に流れてきたオルガンと合唱によるクロブシュトックの詩に基づく「復活」を聴き、「電光のように私を打ち、すべてがはっきりと私の魂の前に現れた」と大きな感銘を受け、同じ詩によるコラールを第5楽章で用いました ベートーヴェンの「第九」を意識し、交響曲の最終楽章に合唱を入れることに逡巡していたマーラーは、自作を酷評した音楽家の葬儀で 図らずも 救いを見い出したことになります
マーラーは、さらに第4楽章に歌曲「子供の魔法の角笛」から「魚に説教するパドヴァの聖アントニウス」と「原光」を転用ました
第1楽章「アレグロ・マエストーソ」、第2楽章「アンダンテ・モデラート」、第3楽章「スケルツォ:穏やかに流れるような動きで」、第4楽章「『原光』極めて荘重に しかし素朴に」、第5楽章「スケルツォのテンポで」の5楽章から成ります
新国立劇場合唱団の男女混声コーラス約85名が入場し配置に着き、次いでオケの面々が入場します 左奥にコントラバス、前に左から第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンという対向配置をとります 右奥にはハープが2台スタンバイします。コンマスは伊藤亮太郎です
スキンヘッドがトレードマークのエッシェンバッハが登場し、第1楽章に入ります 冒頭、チェロが集中力に満ちた力強い演奏を展開します 凄い音だと思って よく見ると、首席チェロ・藤森亮一の隣に日本フィルのソロ・チェロ奏者、辻本玲がスタンバイしています。凄いわけです エッシェンバッハは曲想に応じてクラリネットとオーボエにベルアップ奏法を求め、直線的に音を会場に届けようとします しかし、第1楽章から第3楽章までは、全体的に普通の演奏の域を脱していません 第3楽章終盤の演奏中にソリストの二人が舞台右袖から入場し舞台中央のティンパニの後方にスタンバイします これは間を置かずスムーズに第4楽章に移行するための措置です メゾ・ソプラノ藤村実穂子が『原光』冒頭の「赤く可愛いバラよ!」をドイツ語で歌い出した時、私は感動で背筋が寒くなるのを感じました 彼女はそういう力を持っています また、彼女の歌に寄り沿って演奏されるオーボエ(坪池泉美?)が素晴らしいパフォーマンスを展開しました 最初は座ったまま歌っていた合唱団は、中盤から立って歌いましたが、新国立劇場合唱団はいつ聴いても素晴らしいと思います 世界に通用するコーラスはこの新国立劇場合唱団とバッハ・コレギウム・ジャパン合唱団の2団体だと思います
間を置かずに第5楽章の冒頭「最後の審判」がオケの総奏で開始されます その後、舞台裏のバンダ(金管と打楽器のよる別動隊)が加わり、舞台上のオケと舞台裏のバンダとの対話が交わされますが、とくにフルートとバンダの息の長い対話が素晴らしかったです そして、オケ、ソリスト、合唱 総動員によるフィナーレは「これがマーラーだ」という大きな感動とともに閉じられました
カーテンコールが何度も繰り返されたこの日の公演は、人間の声が入った後半の楽章が圧倒的に良かったと思います それはマーラーが意図していたことであったかも知れません