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今日の筆洗

2023年10月19日 | Weblog
まだ字の読めない子どもが同じ絵本ばかりを読んでと親にせがむということがよくある。子どもには「ふつうのこと」だと児童文学者で東京子ども図書館を設立した松岡享子さんが『子どもと本』に書いていた▼松岡さんに2年近く『ぐりとぐら』をせがんだ子もいたそうだ。子どもには読んでもらうたびに新しい発見がある。だから夢中になる。そういう本との出会いは幸せなことで親御さんにはまたかと思っても付き合ってあげてと教えている▼この絵本も「もう一回、読んで」の一冊だろう。『ぐるんぱのようちえん』(絵・堀内誠一、福音館書店)。作者で絵本作家の西内ミナミさんが亡くなった。85歳。『ぐるんぱ』の出版は1966年。幅広い世代を楽しませた▼「しょんぼり しょんぼり」…。絵本の一文を思い出す人もいるか。ひとりぼっちのゾウのぐるんぱは町で自分に合った仕事を探すのだが、体の大きさのせいで失敗ばかり▼ビスケット屋さん、靴屋さん…。どこでも「もうけっこう」と断られてしまう。断られるたびに文中の「しょんぼり」の数が増えていくのがつらい▼その分、ようちえんで子どもを楽しませる仕事にめぐりあえたぐるんぱの喜びがこちらに伝わってくる。今、読み返しても「もう一回」となりそうだ。読み聞かせ活動にも熱心だった子どもたちの「恩人」の訃報に「しょんぼり」となる。
 
 

 


今日の筆洗

2023年10月18日 | Weblog
 ミッキーマウスは世界中で愛されるキャラクターだが、英語で「ミッキーマウス仕事(JOB)」と誰かに言われたとすれば、それは決してほめ言葉ではない。手を抜いた仕事のことをいうそうだ。「やっつけ仕事」に近い▼語源は分からぬが、初期作品『蒸気船ウィリー』(1928年)の冒頭シーンが浮かぶ。あの船乗りのミッキーさん、口笛を吹きながら舵輪(だりん)をいいかげんに操っていたっけ▼その会社にとってミッキーは大功労者だが、「ミッキーマウス仕事」ではなく、子どもと大人がともに楽しめる娯楽づくりに真剣に向き合ってきたのだろう。世界最大級のエンターテインメント企業となった米ウォルト・ディズニー。16日で、創業100年を迎えた▼映画、テーマパーク、映像配信。カリフォルニアの小さなスタジオから出発した100年の旅路は娯楽の世界を支配する「王国」にまでたどりついた。これほどの夢物語は得意のアニメでもそうそうは描けまい▼ピクサー、マーベル、「スター・ウォーズ」のルーカスフィルム、20世紀フォックスなど競合相手を次々と手中に収め、築き上げた「王国」だが、先行きには怪しい雲も見える。急激な事業拡大や配信事業の不振が経営の足を引っ張る▼耳を翼に、空を飛ぶ「ダンボ」だって、あまりに体が重くなれば…。次の100年も高く飛び続けることをファンは願うが。
 
 

 


今日の筆洗

2023年10月17日 | Weblog

「モーリス持てばスーパースターも夢じゃない」。ご存じなのはおそらく、今、還暦前後の方か。古いギターのCMで、40年以上も前、ラジオの深夜放送の合間によく流れていたっけ▼ギターでスーパースターに-。そんなばかなと思いつつ、CMに刺激され、ギターを買い求めた方もきっといる。そんな時代だった▼訃報が寂しい。その人も確か、モーリスのギターをお使いだった。シンガー・ソングライターの谷村新司さんが亡くなった。74歳は早すぎる▼名盤「アリスV」(1976年)を聴き返す。1曲目の「今はもうだれも」から音がほとばしっている。弾(はじ)けている。内省的で、やや沈鬱(ちんうつ)な当時の「4畳半フォーク」の時代から離れ、より大きな世界へと飛び出そうとする宣言のような音がある▼3曲目が「雪の音」。芝居を演じるかのように、情感を込めた谷村さんの歌唱。その後の「昴(すばる)」にもつながる叙情性に加え、米フォークロックにはない、どこか懐かしい日本の味と「涙」がある。強さと優しさをあわせ持った歌声だった。2曲目の「遠くで汽笛を聞きながら」。谷村さんが何度も歌詞を書き直し、完成したと聞く。自分の「謡」を探し求めて、もがき続けた谷村さんの若き日を思う▼本物の「スーパースター」が「昴」へと旅立った。<あなたの声が遠ざかる…>。「帰らざる日々」の歌詞がファンにはつらい。


今日の筆洗

2023年10月16日 | Weblog
俳優のオーソン・ウェルズが映画関係者の集まるパーティーでこんな場面を目撃した。マリリン・モンローのまわりに大勢の男が集まっている▼1人の男がモンローの服を突然破ったという。ひどい話だが、びっくりするのはモンローの反応の方か。その屈辱にもモンローは笑ったというのである。許したわけではない。笑うことで怒りを封じ込めたように見えたという▼笑うしかなかったのだろう。ライバル俳優のひしめくハリウッド。その中にあって役を勝ち取らねばならない。悪質な行為とはいえ、騒ぎ立ててお偉いさんの興を損ねたくない。モンローの怒りに震えた笑顔を想像する。その顔はハリウッドのおぞましい歴史のシンボルだろう▼かつてのハリウッドほどではないと信じるが、現在の日本でも、この手の不愉快なハラスメントがかくも起きているのか。政府が閣議決定した2023年版の「過労死等防止対策白書」によると俳優や声優らの2割超がセクハラ被害の経験があると回答した。小さな数字ではない▼「性的関係を迫られた」「必要以上に体を触られた」。セクハラを許さぬ時代にあって、若い俳優の立場の弱さにつけ込み、無体を働く者がいる現実が情けない▼映画、演劇、ドラマ。華やかな夢を売る世界の裏側にひそむ悪夢を追い払いたい。セクハラに心で泣きながら、笑顔の芝居。どんなにつらいか。
 
 

 


今日の筆洗

2023年10月14日 | Weblog
16世紀、神学者マルティン・ルターは、買えば罪が許されるというカトリック教会の贖宥状(しょくゆうじょう)(免罪符)を批判した。教科書に載る宗教改革の始まりで、キリスト教の分派にも至る▼ルターは訴えた。「財産を使いきれないほどもっているのでなければ、その人は必要なものを家で蓄えておくべきであって、贖宥のために浪費すべきではない、とキリスト者は教えられるべきである」「贖宥を買うのは自由であって命令ではない、とキリスト者は教えられるべきである」(深井智朗訳『九五箇条の提題』)▼古今東西にあり、時に歴史も変えた宗教とお金の問題。重要な審理が日本で始まることになった▼献金被害が長く続いたとして旧統一教会の解散命令を政府が裁判所に請求した。請求が通ると、信仰は続けられるが、教団は宗教法人格を失い、税優遇がなくなる▼生活苦で教育費捻出さえ難しかったのに、親族の遺産を含め2億円近くを両親が献金したという30代女性が新聞紙上で請求を歓迎していた。これからは信教の自由を守りつつ、誰かを不幸にすること顕著な場合は社会として放置しない-。宗教との向き合い方が転機を迎えたのかもしれない▼ルターは問題提起後に論争が起こると、さらに多くの著作を書いた。考えを人々に伝えるためという。宗教のあり方を考えねばならぬのは、現代を生きる私たちも同じであろう。
 
 

 


今日の筆洗

2023年10月13日 | Weblog
「hā」とはニュージーランド先住民が使うマオリ語で「呼吸」の意味だそうだ。「kā」は「喚起する」とか「火を付ける」。二つの言葉を合わせ「hākā」▼ラグビーのニュージーランド代表が試合前に披露する、おたけびの儀式(ウォークライ)の「ハカ」のことである。ワールドカップで見るオールブラックスの「ハカ」に不思議な魅力と興奮を覚える人も多かろう▼有名なハカの一つ「カマテ(死)」。その内容が深い。<私は死ぬ、私の死が近い。それでも私は生きる。私は生きる>。そんなニュアンスらしい。死をもおそれぬ勇敢さ、己を犠牲にしても仲間を助けるラグビーの心にも重なるところがあるか▼「カマテ」を己の限界という意味に置き換えれば今大会の日本代表、ベスト8こそかなわなかったが、己の限界に迫り、死力を尽くした。その奮闘に拍手を送る▼大会前、同じD組のサモアはもちろん、格下のチリ戦も危ないと心配性は覚悟した。それほど調子は悪かったが、本大会では見違えるほど良くなった。スクラムはより強く、あれほど入らなかった松田力也のキックが決まる。それぞれが己の限界まで鍛え上げ、それを試合で発揮した。なんら恥じることはない。その限界を広げていけばいつか必ず強豪の列に並び立てると信じる▼さあ4年後。今大会では目立たなかった若手の成長を楽しみに待つ。
 
 

 


今日の筆洗

2023年10月12日 | Weblog
大リーグの大谷さんとこの若者について書くことは小欄、正直、気が重い。前人未到、歴史的快挙…。いかに賛辞を重ねようとその人や、成し遂げた偉業の大きさを十分に伝える自信がない。若者とは将棋の藤井聡太さん▼本日は書かねばなるまい。第71期王座戦を制し、「前人未到」の八冠を達成した。「快挙」である。笑われても不十分な賛辞しか浮かばない▼藤井さんの話をためらう理由はそれだけではない。強すぎるのである。無論、ご本人は人知れぬ努力と研究を重ねて、高き山を征服したのではあるが、傍目(はため)には、なにやら藤井さんがひょいひょいと頂点に駆け上がったように見えてしまうところもある▼強すぎてドラマがない、少なくとも見えない。人間ならスランプや将棋への迷いに苦しむ日があっても不思議ではないだろう。が、藤井さんには挫折はおろか、心の乱れさえ見えぬ。見えるのはただただ強いその人が脇目も振らず、栄光の道を静かに歩む姿のみである▼恋に将棋を忘れ、あるいは燃え尽き、そこから再びはい上がる青年のドラマは藤井さんには決して起きまい。落ち着いた棋風と勝利への強い意志がその道を迷わせぬ▼ドラマが起こるとすれば、新たな強力な好敵手の登場か。「八冠」はその人にとって偉業であってもライバルたちには屈辱だろう。打倒、藤井に奮起せよ。物語の新展開に期待する。
 
 

 


今日の筆洗

2023年10月11日 | Weblog

<土曜日の公園。人々は踊っている。笑っている。アイスクリーム売りがイタリアの歌を口ずさんでいる>-▼シカゴの代表曲『サタデイ・イン・ザ・パーク』(1972年)は土曜日の陽気で穏やかな雰囲気を歌っている。ニューヨーク、セントラルパークの光景だそうだ▼<人々は話している。心から笑っている。ギター弾きがみんなのために歌っている>。イスラエルでの出来事に胸が詰まる。いつもと変わらぬはずの穏やかな土曜日。それが一瞬にして奪われた。7日土曜の朝。イスラム主義組織ハマスがイスラエルへの攻撃を始めた。数千発のロケット弾を撃ち込み、イスラエルに侵入した武装集団が市民を殺害し、あるいは人質として連れ去った▼野外音楽フェス会場では攻撃後、少なくとも260人の遺体が見つかった。なにもなければ踊り、笑い、歌っていた罪もない市民が殺された▼ハマス奇襲の背景が見えぬ。サウジアラビアとイスラエルの接近などパレスチナ解放というアラブの大義が置き去りにされつつあることへの焦りなのか。なれど、知恵と言葉だけが解決の道に近づける。暴力の先には解決はなく、待つのは報復であることがなぜ分からなかったか▼イスラエルは宣戦を布告し、戦争となった。互いの市民が既に犠牲になっている。双方の自制を強く願う。踊り、笑い、歌う市民の穏やかな日々が遠い。


今日の筆洗

2023年10月07日 | Weblog
 コメどころ東北は長く冷害と闘ってきた。憎むべき敵は夏に太平洋側に吹く東寄りの風「やませ」である▼オホーツク海高気圧から流れ込む冷たく、湿気のある風は稲作に悪影響を及ぼし、凶作風、餓死風とも呼ばれる。かつて困窮した農家の娘たちが売られたことはよく知られる▼戦前から青森で、低温に強い品種開発に取り組んだ研究者に田中稔がいる。藤坂という名の地で、水田に冷水を入れイネを育てるなどの試行錯誤を何年も続けて「藤坂5号」を開発した。広く普及し、昭和28年の冷害でも藤坂5号は穂を実らせた。田中は総理大臣表彰を受けたという▼新潟、福井県が開発に携わった人気品種「コシヒカリ」も低温に強く、東北でも生産されているが、今後は暑さに強い品種の開発ニーズが高まるかもしれぬ。今年の記録的猛暑によって米の粒が白濁する高温障害が東北、北陸、北関東などでみられると伝えられた▼コメの等級が下がって価格が安くなりそうで、農家には痛手である。宮城の農家が地元紙の河北新報で「1等米が少ないのは本当に残念。毎年の暑さにどう対策を講じればいいのか」と嘆いていた▼かつて田中は、作況の視察に各地を訪れた。夜の宿でやませが吹いているのを耳にし、同行の部下に「イネが泣いているのがわかりますか」と語りかけたという。暑さに泣く時代が来ると想像しただろうか。
 
 

 


今日の筆洗

2023年10月06日 | Weblog
子どものころ、発表が待ち遠しかったのは新学年のクラス替え。手書きの名簿が張り出されると自分や友達の名を探し一喜一憂した▼ベネッセ教育総合研究所のサイトで元教師がクラス替えの手法を語っている。リーダーシップがある、運動が得意といった長所が同じ子の偏在を避け、いじめなどの問題があれば考慮するという▼一昨年、愛知の中学で新クラスの編成が事前に生徒に漏れ、騒ぎになった。学校用アプリに教員側がクラス分けを書き込んだところ、生徒もアクセスできる状態だった。アプリが絡むクラス替え情報の漏洩(ろうえい)は今年、宮城の中学でもあった▼今年のノーベル化学賞受賞者の事前漏洩もネット時代だから起きたことか。発表前に受賞者3人の名前が誤って一部メディアにメール送信され、報道された▼メディアは情報が真正と思えば報じるのだろうが、事前報道に心乱れた人もいたようだ。受賞者の一人は決定の連絡を受けるまで寝ており、騒ぎを知らなかったというが、候補と目された日本人研究者の周囲は「フェイクニュースだと信じたい」と動揺。正式発表で再び、落胆したようで気の毒だった▼先の元教師によると、クラス替えで落ち込み、前向きな気持ちになるのが5月ごろになる子もいる。悲喜の分かれる情報こそ扱いは厳重にということか。何かと先に書きたがる新聞社の人間が言うのも何だが。