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今日の筆洗

2023年10月26日 | Weblog

 英国ミステリーのアガサ・クリスティはどんな場所で数々の作品を執筆したか。答えは「どこででも」らしい▼自伝によると、「わたしは書くために引きこもる部屋とか、自分の部屋とか、特定の場所を持っていなかった」。寝室用洗面台のテーブル、食事の合間の食堂のテーブルが執筆のお気に入りだったというから、どこででも集中できる人だったのだろう▼クリスティは特別で、物書きには誰にも邪魔されることなく、自分の世界に没頭できる場所が必要なものだろう。川端康成、三島由紀夫、池波正太郎、山口瞳…。数々の作家、文化人の「部屋」となった東京・神田駿河台の山の上ホテルが老朽化のため、来年2月から当面の間、休館するそうだ▼開業は1954年。出版社にほど近い立地と、落ち着いた雰囲気が作家たちに愛されたのだろう。作家先生からインタビューの場所として指定され、何度となく、お邪魔したことがあるが、昭和の文壇を支えたホテルの歴史を前になんとなく、縮こまったものだ▼「山の上ホテルへ引きこもり、読み続ける」。池波さんの『銀座日記』を読むと何度もホテルの名が出てくる。仕事場としてばかりではなくホテルのパーラーやバーでのなにげない会話によって心をほぐしていた様子がうかがえる▼アールデコ調のあの建物はどうなるのだろう。客室35の東京名所の行方が気になる。