大リーグの大谷さんとこの若者について書くことは小欄、正直、気が重い。前人未到、歴史的快挙…。いかに賛辞を重ねようとその人や、成し遂げた偉業の大きさを十分に伝える自信がない。若者とは将棋の藤井聡太さん▼本日は書かねばなるまい。第71期王座戦を制し、「前人未到」の八冠を達成した。「快挙」である。笑われても不十分な賛辞しか浮かばない▼藤井さんの話をためらう理由はそれだけではない。強すぎるのである。無論、ご本人は人知れぬ努力と研究を重ねて、高き山を征服したのではあるが、傍目(はため)には、なにやら藤井さんがひょいひょいと頂点に駆け上がったように見えてしまうところもある▼強すぎてドラマがない、少なくとも見えない。人間ならスランプや将棋への迷いに苦しむ日があっても不思議ではないだろう。が、藤井さんには挫折はおろか、心の乱れさえ見えぬ。見えるのはただただ強いその人が脇目も振らず、栄光の道を静かに歩む姿のみである▼恋に将棋を忘れ、あるいは燃え尽き、そこから再びはい上がる青年のドラマは藤井さんには決して起きまい。落ち着いた棋風と勝利への強い意志がその道を迷わせぬ▼ドラマが起こるとすれば、新たな強力な好敵手の登場か。「八冠」はその人にとって偉業であってもライバルたちには屈辱だろう。打倒、藤井に奮起せよ。物語の新展開に期待する。
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