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今日の筆洗

2022年12月20日 | Weblog

 アルゼンチンの作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『幻獣辞典』に同国に伝わる、ある怪物が出てくる。「チグレ・カピアンゴ」という。ジャガーに変身する人間のことだそうだ。思いのままにジャガーに姿を変えて人びとを驚かせる▼かの地から「チグレ・カピアンゴ」がやって来たのだろう。ジャガーのように疾走し、どん欲にゴールをもぎ取る。ワールドカップ(W杯)カタール大会の決勝戦。アルゼンチンがPK戦の末、フランスに勝利した。すごい試合だった。白熱した展開に思わず大声を上げた日本のファンも多いだろう▼ボルヘスが生きていたらオオカミ人間のたとえを嫌がったかもしれぬ。同国のサッカー熱は有名だが、この作家は例外で、サッカー嫌いだったそうだ。「サッカーは人気だ。愚かさというものは人気になる」。皮肉な言葉を残している▼ボルヘスの不安はサッカーの熱狂がナショナリズムに結びつきやすいことにあった。それを利用する政治への不信感もあった▼歓喜の声。涙を流す人もいる。ボルヘスの心配はよく分かるが、ブエノスアイレスからの映像に本日だけは脇に置かせてもらうことにする。経済危機に苦しむ同国である▼貧困率は40%台で推移する。三十六年ぶりの優勝、メッシの神がかったプレーが困難にある国民をどれほど励ますことか。その効用を「愚か」とは片付けられまいて。