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今日の筆洗

2022年12月15日 | Weblog
 <サンドバッグをわが叩(たた)くとき町中の不幸な青年よ 目を醒(さ)ませ>。ボクシングファンで、高校生のときにはジムにも通った劇作家、寺山修司の歌集にあった▼恵まれぬ人生を変えたいと拳一つで世に出ていく。そんな悲壮なボクサーの姿が浮かんでくる。練習に励む音で<町中の不幸な青年>たちをも鼓舞したいと思ったか。汗臭いジムの中で思い詰めたようにサンドバッグをたたく音を聞く▼沈着冷静。機械のように正確なパンチを繰り出し、相手にダメージを与えていく。歌のボクサーのような悲壮感や熱とは、このボクサーは無縁なのかもしれぬ。そんなものを必要としないほど強く、圧倒的なのである。井上尚弥選手▼プロボクシングのバンタム級四団体王座統一戦でバトラーを破り、ついに四本のベルトを手にした。四団体統一王者は日本初。われわれは史上最強の日本人ボクサーを今、目撃しているのだろう▼ガードを固め、前に出てこない相手に対しても焦りなどない。圧倒的な手数で相手を苦しめ、自らはパンチをもらわない。異名は「モンスター」だが、スマートで巧妙、感情さえ乱さぬモンスターである。だから、おそろしい▼スーパーバンタムに階級を上げる。新たな挑戦が始まる。地上波放送がなかったのが残念だが、これも時代の変化なのか。<町中の不幸な青年>に、あの試合を見てもらいたかったが。