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今日の筆洗

2020年05月27日 | Weblog

 英国のある女性議員が当時のチャーチル首相を批判してこう言ったそうだ。「私があなたの妻なら、きっとコーヒーに毒をいれるわ」。チャーチルは答えた。「万が一、あなたが私の妻ということなら私はそのコーヒーを飲むだろう」。女性議員の悔しそうな顔が浮かぶ▼米国作家ラッセル・ラインズの悪口を優雅に受け止める方法を池澤夏樹さんがエッセーで紹介していた。最も優雅なのは無視。無視できない場合は最初の悪口を上回る悪口。それもできない場合は笑い飛ばせ。チャーチルのは二番目か▼どこの誰かが分かった相手との言い合いなら、この対処法も有効だろうが、SNSでの匿名による誹謗(ひぼう)中傷の「洪水」には無力だろう。耐えきれなかったか。若い女子プロレスラーが亡くなった。SNSでの悪意ある言葉を苦にしていたという▼無視しろと言われても気になるだろう。下手に言い返せば、事態はさらに悪化する。笑い飛ばせる状況ではなく、チャーチルも青ざめる▼有名人に限らぬ。誰もがこうしたネット上のリンチの対象になり得る時代である。高市総務相が発信者の特定を容易にする制度改正を検討すると表明したが、まずは、ネットの誹謗中傷の恐ろしさを認識したい▼匿名で人を傷つけ、追い込む。臆病で、卑劣なやり方にチャーチルが使った別の悪口を連想する。「羊の皮をかぶった羊」である。

関連キーワード チャーチル


今日の筆洗

2020年05月26日 | Weblog

 作家の内田百〓が戦争中に飲んだ合成酒はうまかったと書いていた。「燈火管制(とうかかんせい)の遮蔽(しゃへい)した薄暗い電気の下で、ちびちび飲んだ時のうまさ(略)、灘や伊丹の銘酒と異なるところはないと思つた」▼うまいと思った理由は社会心理学でいう「合理化」によるものかもしれぬ。やっと手に入れた酒。うまいにちがいない。そう思って飲めば合成酒も銘酒になろう。手に入らぬブドウを見上げ、酸っぱいはずだと思い込むイソップのキツネの逆であろう▼緊急事態宣言下の不自由な生活に適応するための「合理化」が過ぎたせいか。解除は喜ばしいが、その不自由な生活と別れるのがどういうわけか少々寂しいところもある▼確かに窮屈だった。人との交際は限られ、仕事や買い物もままならぬ。芝居や映画、野球の愉(たの)しみもない。行く末への不安も強かった▼当初はまごついたが、生活に慣れるとコロナ前の人付き合いや贅沢(ぜいたく)が本当に必要だったかと少々疑問に思えてきたという人もいるだろう。朝起き、家族と顔を合わせ、食事をし、寝る。仕事は家で。働き過ぎの日本人が図らずも体験した、小体で不思議と落ち着いた暮らし。それが大切に思えるのは「合理化」のせいだけではあるまい▼百〓はその後、合成酒を飲む機会があった。「なぜ、こんな物をうまがつたかと思ふ」と書いていたが、この寂しさは本当に今だけのことか。

※〓は、門の中に月

 

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今日の筆洗

2020年05月25日 | Weblog

 映画館のトイレで順番待ちをしていたそうだ。やっと自分の番が来たので、後ろに並んでいた若い女性に「お先に」と声を掛けると「女の子は私を押しのけるようにして、ご不浄に飛び込んでしまった」▼脚本家の向田邦子さんが書いていた。女の子は順番を譲ってもらったのだから別におかしな話ではないと思う方もいるかもしれぬが、もちろん、その「お先」は「お先に失礼します」の意味であって、「お先にどうぞ」ではない。女の子はよほど焦っていたか▼焦りとうれしさのあまり駆けだしたくなるが、がまんしたいこのごろか。新型コロナウイルスの勢いもだいぶ落ち着いてきた▼緊急事態宣言の対象から除外される地域も増え、残るは東京、神奈川、千葉、埼玉の首都圏と北海道。こうした地域も二十五日には解除される見通しである。普通の日がひとまず帰ってくる▼それ自体は喜ばしいが、やはり焦ってはなるまい。外出を控え、長く家で過ごしていた身体である。かつての生活に急に戻そうとすれば、心も悲鳴を上げるだろう。経済活動にしても失った稼ぎを取り返したいのは分かるが、一足飛びにかつての営業時間に戻せば、再び集団感染の危険もある▼マスク着用や人との距離。守るべきものは守り、そろりと社会生活を再始動させたい。「解除」の声を「もう何をしても大丈夫」と勝手に解釈してはなるまい。

 
 

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そろりそろりってこれ思い出した。チョコレートプラネット ものまね「IKKO&和泉元彌」 [HD]

 


今日の筆洗

2020年05月24日 | Weblog

 工場の経営者が宣言する。ボーナスを支払うためには女性を一人解雇しなければならない。ボーナスか、女性の解雇か。従業員の投票で決めて。ベルギー・仏・伊共同製作の映画「サンドラの週末」(二〇一四年)。投票する立場になれば悩む設定である▼解雇対象になった女性は週末、同僚の家を訪ね歩き、自分を職場に残してと訴える。快く応じる人もいる一方で断る同僚もいる。人の不幸は誰も望んではいない。けれども、苦しい生活の中、ボーナスもほしい▼失業をめぐる苦い物語を思い出し、うめく。厚労省の集計によると、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって解雇や雇い止めされた労働者は二十一日時点で一万八百三十五人(見込みを含む)に上る▼宿泊、運輸、製造業などで雇用情勢が急速に悪化する。残念ながら今後さらに増えるだろう。一万八百三十五の残酷な「物語」と悲嘆に暮れる人々を思う▼外出自粛などの感染対策はやむを得なかったとはいえ、その「代価」が誰かの失業という形で、支払われるのは間違っている。支払うべきは国であって失業を食い止める雇用調整助成金が十分でないのなら、もう一段の上限額引き上げなど、企業向けの強力な支援を怠ってはなるまい▼感染者の折れ線グラフが下降線を描く。それでも、失業者が上昇線を描いてはコロナとの闘いはやはり、敗北なのである。

 
 

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今日の筆洗

2020年05月23日 | Weblog

 世の為政者に、健忘症になってはならないと呼びかける一節が寺田寅彦の『天災と国防』にある。災害への心得などを説いて名高い随筆は述べる。<悪い年回りはむしろいつかは回って来るのが自然の鉄則であると覚悟を定めて、良い年回りの間に充分の用意をしておかなければならない>▼世の災厄について言えば、必ず来る悪い年回りに備えるための大切な時間が、平常時らしい。コロナ禍のいま、為政者ならずともうなずけて、実践する難しさも感じる呼びかけであろうか▼政治家ではないが、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は、自然の鉄則を忘れることなく、備えようとしたまれな人であるようだ。何年も前から、感染症による危機を予見し、財団を通じて対策に資金を投じた▼世界に警告も発し、平常時に医療班や診断の技術、備蓄医薬品の充実をと訴えている。明察と行動力を、現在の危機を防げなかったことへの本人の無念の思いとともに、米紙が、先日報じていた▼わが国でもこの危機に手腕を感じさせている地方、中央の為政者は少なくはない。ただ、良い年回りにどうだったか、地方の医療や保健などを強くしたか、弱くしたかを問われる時もくるだろう▼ゲイツ氏は自身が発した警告が、世界的な協調につながっていれば…と悔いている。いずれ良い年回りになったときも忘れたくない思いである。

 
 

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今日の筆洗

2020年05月22日 | Weblog

 「乾坤一擲(けんこんいってき)」はのるかそるかの勝負を言う。乾坤は天と地、一擲は「ひとなげ」すること。由来をたどれば、擲(なげう)つのはこの場合、サイコロであるそうだ。天と地どちらの目が出るかの賭けである▼社会的地位を擲つことになると知っていても、サイコロを転がしてしまう人がいるようだ。ギャンブルによほど取りつかれてしまったか、そもそも価値判断ができなくなっているか。あるいは両方か▼いずれにしても、社会正義を預かる職には、ふさわしくない資質であろう。東京高検の黒川弘務検事長が、賭けマージャンの事実を認めて辞職することになった▼起訴権を独占し、高潔が求められる組織の幹部がこの自粛生活のさなかに、というだけでも、検察に対する信頼は揺さぶられよう。ほかならぬ、検察官の定年延長問題の渦中の人だ。すでに世の中の目がかつてないほど厳しくなっていた時期のマージャンという。職を賭した行為であると、分からないはずはなかっただろう▼先例のない閣議決定で批判を浴びることになっても、政府が黒川氏の定年を延長したのは、余人をもって代え難い資質ゆえであったはずである。こうなってみると、見込んだのは高潔と異なる資質ではなかったかと思わされる。任命責任にも今後、厳しい目が向けられよう▼「擲」には、擲(なぐ)るの意味もある。政権への信頼を大きくゆさぶる一擲である。

 
 

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