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今日の筆洗

2019年04月04日 | Weblog

風とひのきのひるすぎに/小田中はのびあがり/あらんかぎり手をのばし/灰いろのゴムのまり 光の標本を/受けかねてぽろつとおとす」。宮沢賢治の「芝生」である▼野球のキャッチボールなのだろう。農学校の小田中君は太陽光線が反射し、キラキラ光ったボールがまぶしくて落球したか。笑い声が聞こえる。のんびりした平和な光景が浮かんでくる▼野球の試合に欠かせぬものとはなんだろうとふと考える。人は必要である。ボールも。グラブやバットはゴムまりならいらぬ。子どもの時のように素手で受ければよいし、打てばよい。間違いなく必要なのは平和で安全な時間と空間ではないか。のんびりした詩にそんなことを思う▼平成最後の選抜高校野球は愛知の東邦が千葉の習志野を最後まで寄せ付けず、見事優勝を果たした。ナイスゲーム。両校の健闘をたたえる▼東邦は平成元年の優勝校であることが話題だが、それより何かを感じるのは一九四一(昭和十六)年の優勝校であることかもしれぬ▼太平洋戦争が始まった年で選抜大会は翌四二年から戦後の四六年まで中断している。戦争で野球ができなくなる直前の優勝校。それと同じ学校が幸い平和で一度として大会が中断されることのなかった平成という時代の初めと終わりを制した。野球の神様が野球に必要なものを教えてくれている気がしてならぬのである。

 
 

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