東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2024年06月12日 | Weblog

吉村昭さんの短編「山茶花(さざんか)」(新潮文庫『死顔』に収録)の主人公は保護司である。保護司になる前、その仕事が「全くの奉仕」と聞かされ、驚く場面がある。「未知の世界が社会の一隅に存在している」▼保護司という目立たぬ存在が社会の一隅から犯罪を抑止し、治安を支えてきたのだろう。大津市の保護司さんが、担当していた保護観察中の容疑者に殺害された事件がくやしい▼刑務所を仮出所した人や非行少年に対し就労支援や助言を通じて更生を支援する。相手とどう向き合うか。想像するだに難しい役目だろう。それを無給で引き受けていた方の命が奪われた▼保護司さんの自宅で面談中に切りつけた可能性があるという。世話になった人に向けた刃(やいば)が理解できない。保護司さんが更生という同じ目的を持った味方であることに容疑者はなぜ、気づけなかったか▼保護司は減少傾向にあり、高齢化も進む。保護司制度の歴史の中で保護司が凶悪事件に巻き込まれるケースは少ないとも聞くが、今回の事件で保護司離れを加速させたくない▼相手を恐れず、信用しなければ成り立たぬ仕事だが、その分、無防備になりやすいのは確かだろう。無防備さや無報酬であることが相手の信頼を得ることもあるが、少なくとも、自宅での面談などは見直しの必要もあるか。難しい問題である。まずは保護司さんたちの悩みを聞きたい。