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今日の筆洗

2024年06月21日 | Weblog

 百戦錬磨の闘将、武田信玄は戦闘についてこんな言葉を残したという。「軍勝五分をもって上となし、七分を中とし、十分をもって下となす」▼互角に戦うのが最高で、七分の勝ちなら評価は中くらいで、完全勝利はかえってよくないという意味で、首をかしげる家臣にこう説いた▼互角に戦ったなら今度こそ勝ってやろうと思うが、七分だと自分が優位だと安心してしまい、十分の完全勝利なら、自分は強いのだと驕(おご)りが出る-。勝ちすぎもよくないという哲学らしい。(四季社『日本例話大全書』)▼信玄も湯に漬かり、戦いの傷をいやしたと伝わる甲府の湯村温泉で指された将棋の叡王戦5番勝負第5局。全八冠を持つ藤井聡太叡王(21)が敗れた。昨年10月以降のタイトル独占で驕りがあったわけではなかろうが、強さばかり語られてきた人の失冠。勝った同学年の伊藤匠七段を称(たた)えるべきだが、いささか驚いた▼終盤に追い詰められ、表情をゆがめ視線を動かす姿に、この人も無敵ではないのだと思った。投了後「伊藤さんの力を感じるところも多くあった」と相手を称えた。敗北をどう糧にする気か▼信玄は「負けまじき戦に負け、滅ぶまじき家の滅ぶるを、人、皆天命なりという。それがしにおいては、天命と思わず」とも語った。敗北は運ではなく、原因があるのだ-。挫折を知った若武者もそれは承知しているだろう。