東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2022年09月28日 | Weblog
「耳ふさぎ餅」とは葬儀にまつわる昔の習わしで人が亡くなった際、その人と同じ年の人物は餅で耳をふさがなければならなかったそうだ▼耳をふさぎ、こう唱える。「よいこと聞け、悪いこと聞くな」。奇妙な風習だが、生きている人をあの世へ招こうとする死者の声を聞かないようにしたという▼安倍晋三元首相の国葬が行われた。故人の冥福を祈る一方で国葬決定から葬儀の日まで正直、餅で耳をふさぎたい気がしないでもなかった。それほど国葬に対する世論は分かれた。人の死をめぐって国民が対立する。その喧噪(けんそう)が苦しかった▼双方の気持ちはいずれも理解できる。国に貢献した人物であり、国葬にふさわしいと言う人がいる。一方で、法的根拠があいまいな上、毀誉褒貶(きよほうへん)ある安倍さんへの弔意を国民に強制するもの−という反対派の主張も筋が通る。情と理が交錯し、おいそれと結論が出る話ではなかろう▼あらゆる権威が低下した時代である。安倍さんの国葬を行うといえば、国を二分する対立が起きるのは分かりきったことだったが、岸田首相はそれに気づかなかった。国民を説得し、理解を求める熱もなく、ただ、餅で反対論に固く耳をふさぎ、「(国葬の)よいこと聞け、悪いこと聞くな」と唱えていたようにしか見えない▼国葬は終わった。が、国民の間に対立感情が残った。葬儀後の清めの塩でも払えまい。