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今日の筆洗

2022年09月23日 | Weblog
 芥川龍之介が一九二〇年に発表した短編小説『南京の基督(キリスト)』は中国が舞台で、娼婦(しょうふ)の少女が主人公。キリスト教徒で、老父を養うために客をとるが、梅毒に感染する。客との接触をやめ、薬をもらっても治らない▼商売を休み続ければ、生活は窮する。周囲は誰かにうつせば治ると説いた。「私の姉さんもあなたのやうに、どうしても病気が癒(なお)らなかつたのよ。それでも御客に移し返したら、ぢきによくなつてしまつたわ」。しかし客は「目までつぶれた」という▼うつせば治るというのは誤りだが、放置すれば、失明や臓器などの疾患のほか、死に至ることもあった梅毒。日本の今年の感染者は既に八千人を超え、今の集計方法になった九九年以来最多だった昨年を上回った▼増加要因は不明らしい。四三年にペニシリンによる治療が成功し、発生は減ったが、その後も各国で再流行があるという。感染初期に感染部位のしこりなどがみられ、早めに分かれば完治可能。検査は保健所でもできる▼小説の娼婦は、自分は汚れても他人に迷惑をかけねば死後は天に行けると信じる。誰かを不幸にできぬと飢え死にしても性交渉しないと決め、祈る。「私は女でございます。いつ何時(なんどき)どんな誘惑に陥らないものでもございません。天国にいらつしやる基督様。どうか私を御守り下さいまし」▼幸い、天に頼む他にもできることが今はある。