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今日の筆洗

2016年12月30日 | Weblog

 福島の浜通りに住む詩人・みうらひろこさん(74)の詩集『渚(なぎさ)の午後』に、「遅すぎた約束」という詩がある。<約束を果たせなかった事で/心を病んだ人達を知っている…>。そんな重い言葉で始まる詩だ▼あの津波が引いた後、がれきが山となった沿岸部で生存者を捜し歩いた消防団員らは、あちらこちらから助けを求める声がするのを、確かに聞いた▼だが、闇が迫り、余震がくり返し襲ってきた。「明日朝一番に助けに来るからな」「きっと、きっと助けに来るからな」と約束し、引き揚げるしかなかった▼みうらさんは、うたう。<その約束を果たせなかった事を/悔んで悔んで胸を掻(か)きむしった日々に/しだいに心が蝕(むしば)んでしまったという/救助に向うはずの翌日は/(原発が)メルトダウンで爆発の危険があるからと/全町避難、まるで石持て追われるように…>▼この子も、あるいはあの日、助けを求め声を上げていたのだろうか。原発事故で今なお立ち入りが制限される大熊町の沿岸部で、七歳で行方不明になっていた木村汐凪(ゆうな)さんの遺骨が、見つかったという。五年九カ月を経て果たされた「遅すぎた約束」だ▼みうらさんは<約束を果たせなかった事で/心を病んでしまった人達よ/あなた達は悪くない/あなた達は決して悪くない>と、語り掛けている。そういう人たちの心を癒やす、時の流れであってほしい。