敵の脅威が迫る中、城にこもるか、打って出るか。と言っても、大詰めを迎えたドラマ『真田丸』の話ではない。カタツムリの話だ▼天敵に襲われたら、殻に閉じこもる。カタツムリは完全な籠城(ろうじょう)派だと思われていたが、そうでもないらしい。北海道にいるエゾマイマイやロシア極東にいるある種のカタツムリは、オサムシなどに襲われると、その殻を激しく振り回して見事に撃退することが最近、確認されたというのだ▼北海道大学の学術研究員・森井悠太さん(29)がある時、飼育していたエゾマイマイをピンセットで触ろうとしたら、殻を振り回した。その一瞬の動きを見逃さず、知られざる生態の解明につなげたというのだから、身近なところに大発見の糸口はあるものだ▼カタツムリと、その仲間の進化の歩みにも驚かされる。素人考えで、ナメクジが進化して家を持つに至り、カタツムリになったと思っていたが、逆だという▼海で暮らしていた巻き貝が陸上に進出し、カタツムリとなった。だが、成長に合わせて殻を作り続けるのは、かなりのエネルギーを要する。殻を捨てれば、そういう労力を使わずに済むし、殻が邪魔になって入れぬ隙間にも入り込めるようになる。身を守る城より身軽さを選んでの変身だという▼定年まで住宅ローンに縛られ続ける。そんな身にはちょっとほろ苦い、カタツムリの進化の物語だ。