東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2016年12月06日 | Weblog

 <ベースボール遠く見ている野菊かな>。俳優、渥美清さんの俳句を思い出している。渥美さんも野菊と並んで腰を下ろし草野球をぼんやりとながめていたのかもしれない▼かつての野球少年ならば、こんな空想をした経験はないだろうか。自分たちの野球の試合をやや離れたところからじっと見ている大人がいる。胸が騒ぐ。あの人はプロ野球の関係者で新たな才能を見つけにやって来たのではないか。お目当ては自分なのではないか▼そんなことはあろうはずもなく、「関係者」と空想した大人は「寅(とら)さん」のような近所のお暇な方だったりする。この空想には、この人がたぶん絡んでいる。亡くなった元巨人の打撃コーチ荒川博さん。王貞治さんに「一本足打法」を教えた名コーチである▼荒川道場。日本刀を使った打撃指導。畳が擦り切れるほどの素振り。王さんと荒川さんの逸話に胸を熱くした、当時の少年も大勢いるだろう▼とりわけ二人の出会いである。中学生の王さんが野球をやっているのを散歩中の荒川さんがたまたま見つけ、指導する。そこからすべての道がスタートする▼大半の人間のもとには才能を見いだし、力を貸す「荒川コーチ」はやって来ない。やって来たのかもしれぬが気がつかぬ。偶然の出会いと努力、そして偉業。荒川さんと王さんの歩みは奇跡の、そしてお二人にとって幸せの物語である。