TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」48

2018年04月27日 | T.B.1998年

「術の、解除……?」

「くっ!!」

 司祭がよろける。
 地に倒れる。

「あいつめ! しくじったな!」

 アキラとトーマは、あたりを見る。

 今まで洞窟を覆っていた力は、もはやない。

「どう云う、ことだ?」
「術者に何かが?」

 いや、

「誰かが外で、相殺の紋章術を使った」

 アキラが放った鳥が、山一族を呼んだのだろう。
 少なくとも、ハラ家が近くまで来てくれたのだ。

 術は解けた。

 多少の傷を負ってはいるが、まだ動ける。

「司祭、様」

 トーマが呼びかける。

「もう、あなたになす術はない。……あきらめてくれませんか?」
「何を云う!」

 司祭は立ち上がろうとする。

「あきらめる気はない! 何度でも私はやる!」
「司祭様」
「術は解除されたが、それだけだ! 娘はまだ眠っている!」

 司祭が指差す方向に、マユリ。

 この騒ぎでも目覚めることなく、眠り続けている。

 おそらく、

 別の場所にいるカオリも。

「復活の術だけであれば、私ひとりでもやれる」

 ふらつきながらも、司祭は立ち上がる。
「こうなれば、この娘の命だけでもやるだけだ」
 よろよろと、祭壇へと向かおうとする。

 アキラは首を振る。

 思った以上に、司祭は力を使い果たしている。

 それでも、まだ、

「トーマ」

 アキラは云う。

「終わらせよう」
「ああ」

 ふたりは動く。

 トーマは司祭を追う。
 アキラは、司祭の恋人だったもの、へと。

「何を!!」

 司祭は、アキラの動きに気付く。

「やめろ!!」

 司祭は、このものに手を出されることを警戒していた。

 大切な人であるから。

 そして

 この儀式には、そもそも、その身体が必要。

 司祭は呪文を唱える。

「!!?」

 アキラは振り返る。

 と、

「ぐっ!!」
「司祭様、すまない」

 トーマが、司祭のわきに飛び込む。

 その胸に

 短剣を突き立てる。

 アキラは再度、司祭の恋人だったものに、向かう。
 それが横たわる場所が光る。

 アキラの紋章術。

「どうか、静かに眠ってくれ」

 冷え切った石座の上に炎が立つ。
 それを包み込む。

「    !!」

 倒れこみながら、

 司祭は手を伸ばす。

「チハル……」



NEXT

「海一族と山一族」44

2018年04月24日 | T.B.1998年

「あいつめ、しくじったのか!?」

司祭の悔しそうな声が
洞窟に響く。

「術が、解除された?」

アキラの言葉に、トーマも辺りを見回す。

確かに、先程まであった
力を吸われているという感覚が消えている。

「誰かが、外側から術を解いた?」

ミナトが上手く長達を誘導したのだろうか。
紋章術の使い手は
海一族にはいなかったはずだが。

「………まさか」
「山一族の助っ人か?」

アキラが砂浜で
使いの鳥を放った事を思い出す。

「そうだと良いが。
 その話しは後だ」

術は解けた。
多少のケガはあるが、
まだ、動ける。

「司祭様」

再度、トーマは呼びかける。

「もう、貴方に為す術はない。
 ……諦めてくれませんか」

「諦める気はない!!
 今回が無理ならまた次を狙う。
 何度でも、私はやるだろう」
「………司祭様」
「魔方陣は解除されたが
 それだけだ、
 娘はまだ眠っている」

確かに、マユリと呼ばれた少女は
この騒ぎでもぴくりともせず
眠り続けている。

きっと、洞窟の入り口にいるカオリも。

「吸収する命が少ないのはやむを得ないが。
 こうなれば、この娘だけでもやるだけだ」

さあ。と
司祭は言う。

術を止めたいのであれば自分を倒せ、と。

「トーマ」

アキラが言う。

「俺達で、終わらせよう」
「ああ」

二人は駆け出し二手に分かれる。
トーマは司祭。
アキラは司祭の恋人だった者の所へと。

先程、トーマが近づいた時もそうだった。
司祭はこの遺体に手を出されることを
警戒をしている。

大切な人であるから
というのも一つの理由だろうが。

恐らくこの儀式には
蘇らせる本人の体が必要不可欠。

「止めろ!!」

石座に駆け寄るアキラを遮るように
司祭が呪文を唱える。

が。

「ぐっつ!!!」
「………司祭様、すまない」

脇に飛び込んでいたトーマが
司祭の胸に短剣を突き立てる。

その音だけを聞き、
アキラは石座の周辺に紋章術を発動させる。

「どうか、静かに眠ってくれ」

冷え切った石座の上に炎が立ち、
それを包み込む。

司祭は自身も倒れ込みながら
その体に手を伸ばし、
かつての恋人の名を呼ぶ。

「あぁ、チハル」


NEXT

「山一族と海一族」47

2018年04月20日 | T.B.1998年

 裏一族の巨大な紋章術。

 人の命を用いて、何をするつもりなのか。

「術を止めるしかないな」

 ヒロノは再度、魔法陣を見る。

「出来るのか?」

 若い海一族がヒロノを見て云う。

「こう云うものは、術者を倒すしかないのだろう」
「…………」
「術者の裏一族は、中にいるはずだ」
「いや、」

 ヒロノが云う。

「紋章術にもいくつか種類がある」

「と、云うと?」

 ヒロノは、持っている杖で紋章術をなぞる。

「時間がない。解除の方法だけ説明するが、」

 ひとつは、
 海一族が云う通り、術者を見つけ出し倒すこと。

 もうひとつは
 魔法陣の線を消し去ること。

「術者の力が未熟なら、砂をかけただけでも魔法陣の線は消える」

 ヒロノは足元の線を、杖で触れる。
 が、線は光り続ける。

「消し去ることが無理なら」
「無理なら?」

「相殺の力を持つ、紋章術を用いることだ」

「そんなこと出来るのかしら?」

 メグミが口を挟む。

「紋章術でも高度なものよ」

 海一族もヒロノを見る。

 時間がない。

 術の中にいる者たちは、相当な時間が経っているはず。
 じわじわと、命を奪われながら。

「おい。俺はハラ家だぞ」

 ヒロノはメグミに云う。

「山一族の村全体に、紋章術をかけたことを忘れたのか」

 ああ、と、メグミは頷く。

「そうだったわ」

 イ=ハラ家。

 裏一族の紋章術を相殺出来るかもしれない。

「ミヤ」

 ヒロノは、ナオトを見る。
 ナオトは頷く。

「海一族と協力して解決しろよ」

 その言葉に、若い海一族がメグミを見る。

 それに気付き、メグミはため息をつく。
 云う。

「この人、ここで戦線離脱」

「うるさいな。離れてろ」

 ヒロノは杖を鳴らす。

 瞬間、

 見えない力が動く。

「何だ」

「何だ、これは!?」

 海一族たちが、驚く。

 波動、のようなもの。
 あたりの木々が揺れる。

 裏一族の紋章術を取り囲むように、光が伸びる。



NEXT


「海一族と山一族」43

2018年04月17日 | T.B.1998年

山一族は驚いて顔を見合わせている。

「アキラの事か」

なんと言うことだと
山一族が深いため息をつく。

「そちらの村に入った事は
 後から詫びを入れよう」

まずは、と
腰を据えて魔方陣を確認する。

「術を止めるしかないな」
「出来るのか?」

ミツグは術に詳しい山一族に問いかける。

「こういうのは、
 術者自身が止めるか、
 術者を倒すしかないのだろう」
「………」
「術者の裏一族は中にいるはずだ」
「いや」

「紋章術にもいくつか種類がある」

「と、言うと?」

術に詳しい山一族が
持っていた杖で魔方陣をなぞる。

「時間が無いので
 解除の方法だけ説明するが」

足元で光る線を、
ひっかくように杖を動かす。

「術者の力が未熟なら
 砂をかけただけでも魔方陣の線は消える、が」

だが、魔方陣には何の変化も見られない。
線は変わらず光り続ける。

「消し去ることが無理ならば」
「無理なら?」

「相殺の力を持つ紋章術を用いる事だ」

「そんな事出来るのかしら。
 紋章術でも高度なものよ」

術に詳しい山一族の
連れの者が口を挟む。

紋章術を扱わない海一族でも
それが簡単な事では無いことぐらい分かる。

難しい事なのか、と
ミツグは山一族を見る。

「俺は、ハラ家だぞ。
 山一族の村全体に、紋章術をかけた事を忘れたのか」

ハラ家。

最低限の交流とは言え
山一族についての情報は海一族にもある。

一族内は大きく三つの家系に分かれている。

フタミ
ハラ
ミヤ

それぞれに一族での役割があると言う。

ハラ家は占いを司る一族。
海一族の司祭に近い立ち位置。
そして、一族の中でも特に魔法に長けた家系。

術に詳しいのではない。
彼自身も術の使い手である。

それならば。

「ミヤ」

彼は、また別の山一族に声をかける。

ミヤ、であれば
狩りや戦いに長けた家系。

「海一族と協力して解決しろよ」

ミヤと呼ばれた山一族は頷く。

どういう事だ、と問う前に、
術に詳しい山一族の連れが答える。

「この人、ここで戦線離脱」

山一族で高位に位置する術使いであっても
力を使い果たすほどの術と言う事。

分かった、とミツグも頷き
ミヤと呼ばれた山一族を見る。

「うるさいぞ。離れていろ」

術に詳しい山一族が杖鳴らす。

ぐん。と

彼を中心に見えない波が押し寄せる。
山一族の紋章術。

「何だ、これは」

海一族は、その見えない力に
驚きの声を上げる。

力の波は広がり、
辺りの木々を揺らし
更に広がっていく。

唯一、海一族でも術に精通している
司祭見習いのミツナが声を上げる。

「こりゃ、凄いや」

裏一族の紋章術の光を
別の光が覆っていく。

山一族の術が、発動する。


NEXT

「山一族と海一族」46

2018年04月13日 | T.B.1998年

 ――人の命を使い、何かを成し遂げる魔法。

 山一族と海一族は、それぞれに顔を見合わせる。

「この世に存在してはならない、」
「禁止された魔法……ではないか」

 どちらともない、呟き。

「この魔法、誰がやったと思う?」

 若い海一族が、ちらりとヒロノを見る。

 ヒロノは首を振り、訊き返す。

「紋章術を使う山一族を、疑っているのかと」

「それは、違うのだろう?」

「もちろんだ」
 ヒロノは云う。
「こんな巨大なもの」

 山一族が扱うには、あまりにも大きすぎる紋章術。

 若い海一族は、後ろを振り返る。

「海の異変がなければ、こちらも山の仕業だと思ったが」

 その言葉を継ぎ、海一族の長が云う。

「我が村に、裏一族が現れた」
「そちらにも!?」
「やはり、山にも、か」
「確証はないが、おそらく」

 両一族の村に、同時に裏一族が現れたと云うこと。

「裏一族の目的は判らない。ただ、事を急いでいるようだ」

 普段は人の目に触れずに動く裏一族。
 が、
 こんなに大きな騒ぎを起こしている。

 しかも、この魔法陣。

 ヒロノは、メグミを見る。

「おい、どうする?」
「この魔法陣はどうなのよ」

 メグミは腕を組む。
 儀式の場所に、カオリがいるかもしれない。
 生け贄のことが解決するかもしれない、と、この場所に来たのだ。
 簡単に引き下がるわけにはいかない。

 ナオトが云う。

「この陣の中に入らなければ、安全だろう」

 その言葉にヒロノは頷く。

「術は、陣の中で発動するからな」

 その外にいれば、当然問題はない。

 けれども、この先に進みたいのだ。

 と、

「この中にトーマがいる! 彼が危ない!」

 また別の海一族が声を上げる。

「トーマって?」

 メグミは目を細める。

「この陣の中に、海一族の誰かがいると云うの?」
「ああ」

 海一族が頷く。

「連れ去られた者と、あとを追った者がふたり」

 全部で3人。

「ほかにも、いるかもしれない」

「それはまずいな」
「連れ去られた者、とは?」

 声を上げた海一族が云う。

「海一族の村に、山一族がいたんだ」

「うちの一族が!?」
「なぜ!?」

 それは判らない、と、首を振り、海一族が云う。

「その山一族が、裏一族に連れ去られたんだ」

 この先、

 儀式の場所へ。

「生け贄だと、裏一族は云っていた……」

「まさか、カオリが、」
「海一族の村に?」

「その後を追ったひとりも、また、山一族だ」

 ヒロノとメグミは顔を見合わせる。

「アキラのこと、か」

 何と云うこと

 そう思いながらも、

 やっぱりそうだったのか、と、確信する。

「そちらの村に入ったことは、後に詫びを入れよう」

 ヒロノは息を吐く。



NEXT