TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「西一族と巧」12

2020年02月21日 | T.B.1996年
 占い師は、机に並ぶ、占いの道具を見る。

 先ほど、この店を去った者の、結果だ。

 占い師が使う道具。
 けれども、これは、補助的なものに過ぎない。
 この占い師は、魔法と云う自身の力で、未来を見る。

「巧は、……」

 占い師は呟く。

「一族の中で立場がある」

 狩りが出来る。

 出来るだけではない、成果を出している。
 皆をまとめる力もある。

 慕われ

 西一族として、申し分ない日々。

「でも」

 この先

 遠くない、先、に

 それらは、失うのだろう。

 周りがどう思うかは、判らない。
 でも、自身が一番、失ったと、思うのだ。

 残るものは

「自身の優しさ、だけ」

 占い師は目を閉じる。

 それでも

「あなたがそれらをすべて受け止めるのなら、この先もやっていけるのですよ」

 まだ、しばらくは、

 変わらない、日々。

 狩りをし、
 その日を暮らし、

 ただ、同じ日々が、続く。


 動いたのは、その数年後。





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「西一族と巧」11

2020年02月14日 | T.B.1996年
「巧ー!!」

 巧の姿を見付け、向が手を振る。

「お疲れー!」

 横に、華もいる。

「巧、何も買わなかったの?」
「お前みたいに、あれこれ買うわけないだろう?」
「何よ、向だって、いろいろ買っているじゃない」
「これは、必要なもの!」
「私のだって、必要なものよ!」

 向と華の手には、買ったものが。

「とりあえず、飯行こう!」
「そうね、お腹がすいた」
「あちらの店で、北一族料理を出してるところがあったぞ」
「じゃあ、そこに行こう」
「食べながら、私が買ったもの聞いてね」

 3人は、店に入る。

 席に坐り、食事を注文する。

 北一族の料理。

 食事時と云うこともあり、店内は混んでいる。

「私ね、これ買ったんだ!」

 待てない華が、話し出す。

「ほら、髪飾り。みんなへのおみやげ! この砂糖菓子もね」
「ふぅん」
「これ、スコップ。かわいいでしょ。こっちは小さい鉢。かわいい!」
「相変わらず、園芸品じゃん」
「だって、好きなんだもの。花!!」

 華は、何かを取り出す。

「よく育つ肥料!!」
「おいおい、こんなところでそんなもの出すな!」
「砂一族製だって! 効果ありそうじゃない?」
「むしろ、不安……」
「いろいろ買えたんだな、華」
「そうなのよ、巧!」

 華が云う。

「あと、帰りに花の苗買っていい!?」
「いいよ」
「おい、巧。運ぶの手伝えってことだぞ、これ!」
「いいじゃない」

 華は、向の荷物を見る。

「で、向は何を買ったの?」

「俺は肉を捌くのに使えそうな小刀! 狩り場用な」
「へえ、帰ったら見せてほしい」
「もちろん!」
「こっちはおもしろいぞ」

 向が取り出す。

「それは!」
「……何?」
「ここを押すと、人が笑う声が!」

 あひゃひゃひゃひゃひゃ

「…………」
「…………」
「……で?」

「終わり」

「…………」
「…………」

「まじか、向」
「ばかなの、向」

 あひゃひゃひゃひゃひゃ

 以上です。

「ところで……」

 肉をほおばりながら、華が訊く。

「巧はなぜ、北一族の村に来たかったの?」
「あー、確かに」
 向も云う。
「何も買ってないみたいだしな」
「俺は、……」

 向と華は、巧を見る。

「気分転換」

「気分?」
「転換?」

 少し考える。
 占い、何て、云えることではない。

「ほら、狩りが続くと疲れるし、さ」

「……ふうん」
「へえ」

 ふたりは不思議そうな顔をする、が
 巧は、話題を変える。

「それで、今度の狩りだけど」

 3人は話をし、笑いながら、食事を続ける。




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「西一族と巧」10

2020年02月07日 | T.B.1996年
「魔法?」
「そう」

 占い師は頷く。

「未来を見る力」
「未来を、見る……魔法?」
「ええ」

 占い師は指を差す。

 壁に、大きな地図が貼ってある。
 水辺の地図。

「私たちの一族から、反対に位置する一族」
「海一族、か」
「そこにも、先視と云う名で未来を見る者たちがいます」

 占い師が云う。

「星の動きや、玉の配置で見る占いとは違う」
「…………」
「未来を見る力を与えられているのです」

 占い師は、巧を見る。

「自身のこの先を、知りたいのですね?」
「…………」
「そうなのでしょう?」
「……ああ」

 占い師は目を閉じる。

「魔法とは云いますが、すべてがはっきりと見えるわけではありません」
「…………」
「もちろん、未来は変わります」
「魔法として、見るのに?」
「術者の能力によるのです」

 占い師は、占いの道具に触れる。

「確定未来を見る能力を持つ者は、稀」
「……そう、なのか」
「未来がはっきりと見える者がいるのなら、それに耐えられないでしょう」

 占い師は改めて云う。

「未来は変わります。どうぞ落ち着いて、結果をお聞きになって」

 巧は、占い師が触れる道具を見る。

「あなたは、そのために来たのですから」

 巧は

 待つ。

 占い師は、何かを

 見ている。

 何かの、匂い。
 お香?
 薬草?
 それとも、……毒?

 やがて

 占い師は口を開く。

「西一族のあなたは、ずいぶんと狩りの腕があるようですね」

 西一族は狩りの一族。
 狩りが上手ければ、それだけで、一族内の立場を得ることが出来る。

「このまま、狩りで、この先もやっていけるかもしれない」

 でも

「他に何か取り柄があるかと云うと、それはない」

 巧は息をのむ。

「他の皆は将来を考え、動き出しているのに」

「…………」

「もし、何かあって、狩りが出来なくなった場合、」

「…………」

「自身は、西一族で生きていけるのだろうか……」

「俺は、」

 巧は口を挟む。

「俺は、……」
「その先が、訊きたいのですよね」
「…………」

 占い師は巧を見る。

 返事を待つ。

「将来の不安? そう云うことなのだろうか?」
「ええ」
「何を……心配して、いるのだろう。このまま、」
「…………」
「おそらく、このまま……、やっていけると思うんだけど」
「その通り」

 占い師は頷く。

「あなたが自身へのことをすべて受け止めるのなら、この先もやっていけます」
「なら、」
「それは、不安や心配ではありませんよ」

 占い師は笑う。

「あなたはこの先を、この先のために考えようとしているだけ」




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「西一族と巧」9

2020年01月31日 | T.B.1996年

「おお!」

「これが、北一族の村!!」

 久しく訪れていなかった北一族の村を、3人は見渡す。

 並ぶ、たくさんのいろいろな店。
 通りを歩くのは、多くの他一族。

「すごいわ!」
「すごいな!」
「北一族の村は、違うな」
「私、あの店見たい!」
「女は買い物が好きだよな~」
「いいじゃない」
「夕方の馬車に間に合えばいいよ」

「なら」

 向が云う。

「お昼までは各自行動。昼食で合流で、いいか?」

「判った」
「了解!」

 華は軽く飛び跳ねながら、進み出す。

「お小遣い、いっぱい持ってきたし……、じゃ、あとでね!」
「俺は、狩りで使えそうな道具がないか見てくる」

「向、華。気を付けてな」

 人混みの中、
 ふたりは、それぞれの方向へと消えていく。

 巧はそれを見送って、歩き出す。

 北一族の通りには、多くの食材が並ぶ。
 肉、魚、野菜。
 香辛料。
 それぞれの一族の特産品。
 織物、陶器、装飾品。
 どれが本物で、どれが紛い品か、判らないが。

 通りは賑わっている。

 ふたりは、目的の場所にたどり着けただろうか。

 巧は歩く。

 片手には、手書きの地図。
 北一族の村をよく知る、西一族の者に書いてもらった。

 通りを逸れ、人が少なくなる。
 巧はその地図の場所にたどり着く。
 普通の一軒家のような、……店。

 巧は、扉に触れる。
 ためらう。

「…………」

 と、

 巧は扉を見る。

「開いてますよ」

 中から声。

「どうぞ」

 ゆっくりと、扉が開く。

「お入りください」

 現れたのは、

 頭から下まで、すっぽりと布を被った者。
 目だけが、巧を覗いている。

 けれども、にこりと笑ったのが、判る。

「西一族の方ですね」
「…………」
「何かご自身で、気になることが?」

 巧は答えない。

 占い師は、再度笑う。

「まあ、ここは占いを営む場所ですもの、そう云う方が来ます」

 占い師は、席に案内する。
 巧は部屋の中を見回す。

 少し、薄暗い部屋。
 何か、不思議な飾り。
 小さな明かり。

 巧の前には、……占いの道具。

「占いとは云いますが」

 占い師が云う。

「私の場合は、魔法に近いものです」





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「西一族と巧」8

2019年05月03日 | T.B.1996年

「と、云うわけで」

 向が、ふたりの前に立つ。

「またこの班です!」

「わぁああ、短かったなぁ、別の班!」
「お前、他の班にくっついていろよ」
「何で私がよ! 向こそ!!」
「俺は巧と一緒!」
「巧は私よ!!」

 恒例のやりとりを、巧は遠い目で見る。

 しばらく、いろんな者と狩りの班を組んだが、またこの班に戻った。
 何度目か。

「いいか、華!」

 向が云う。

「今日はくれぐれも、花を持ち帰るとか云わないように!」
「それは私の勝手でしょう!」
「狩りの班は共同作業!」
「みんなはひとりのために!」
「ひとりはみんなのために、だ!!」

「ちょっと……。もう、行かないか?」

 このまま放置していたら、日が暮れてしまう。

 獲物もずいぶんと太ったものが増えてきた。
 狩りの成果を出さなければ、評価が下がる。

 3人は歩き出す。

 村を出て、山へ。

 狩り場に着くまでは、多少は気を緩めていてもいい。
 山道を歩きながら、おしゃべりは続く。

「ねぇ巧。私ね、花屋になりたいんだ」
「だろうね」
「主に花屋。たまに、狩り」

 華は、花が好きなのだ。
 花屋の道を選べるなら、それが合っている。

「俺は、狩りで成果を出して、狩りで生計を立てる」
「それしか取り得ないもんねー」
「だから、俺の邪魔をするなよ、華!」
「そんなの知らなーい」

「でもさ」

 巧が云う。

「花とは云え、ずっと付いていないと枯れてしまうだろう?」
 巧は首を傾げる。
「狩りをやっている暇なんてあるのか?」

「えぇえ??」

 華も首を傾げる。

 そう云えば、村の花屋店主も、花屋しかやっていない。
 狩りには出ていない。

「狩りに出ないと駄目だぞー」
「そうなの?」
「一族内での立場!」
「ふーん」

 華が云う。

「じゃあ、狩りを主にやる人と、結婚しようかなー」
「俺は嫌だぞ!」
「向とは云っていない!!」
「そこは断るなよ!!」
「どっちよ! 嫌って云ったじゃない!!」

 ふたりは、ぎゃあぎゃあ騒ぐ。

 その様子を見ながら、巧が呟く。

「……みんな、なんだかんだ、先のことを考えているな」

 向と華は、巧を見る。

「え、何?」
「どうした、巧!」

「だから、将来のことを」

「巧ってば!」
「考えてるってふわっとだぞ、ふわっと!」

「悟も稔も耀も……」

「何その3人」
「心配するの早すぎやしないか?」

 向が笑う。

 そして

「巧はさ」

 向が思いついたように、云う。

「ちょーほーいん、とか、いいんじゃないか!」
「諜報」
「員……」

 白い目で、巧と華は見る。

「諜報員って……」
「戦いの腕前がないと出来ん!」
「戦いの腕前とかないし」
「巧は狩りが上手いだろう!」
「狩りと戦いは、等しくないぞ」

「てか、何よ、その仕事!」
 華が身を乗り出す。
「諜報員って何!!」

「華は知らんだろう!」

 向は胸を張る。

「西一族を守るために、他一族の動向を探る、かっこいい仕事だ!」

 とは云え、

 そのような仕事は実在しない。
 と、云われている。

 あるんだか、ないんだか。
 噂で耳にする程度。

「いったん、落ち着くか」

 巧はふたりをなだめる。
 もうすぐ狩り場。

「何だよ、気になる話!」
「私も気になる~」

「なら」

 巧が云う。

「みんなで北一族の村に行かないか?」




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