TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「水樹と嗣子」8

2019年07月30日 | T.B.2003年

なんなのだろう、
みんな、誰もかも、
自分の邪魔をする。

放っておいてくれたら
それだけでいいのに。

どこに行くのか、とか
何かするのか、とか

全部、全部、
気にかけているからじゃない。
何かしでかさないか
余計な事をしないかどうか、
見張っているだけ。

「………私、生まれてくる所を間違えたんだわ」

星空を見上げながら
いつかと同じ言葉を嗣子は呟く。

他の一族に生まれていたら、
いや、
違う時代に生まれていたら。

「そうだね。
 それならこんな風に
 こっそり会わなくても良かったかもね」
「ええ」

そうよ、と嗣子は頷く。

うん、と笑顔を見せるのは
砂一族の青年。

彼の差し出すお茶を
ありがとうと受け取る。

何と無しに、
夜の星が見たくなって、
こっそり村を出て砂漠に足を踏み入れたら
そこで、出会った。

「スガと初めて会った時は、とても驚いたけど」

砂一族は危険な一族だと聞いて居た。
毒を使い、人を攫う
野蛮な一族だと。

「話してみたら全然違うんだもの」
「まぁ、砂一族にも色々居るんだよ」

知っていると嗣子は笑う。

こうやって出されたお茶だって
最初はとても警戒したけれど
何の変哲もないただのお茶。

しかも、美味しい。
そう言うとスガは
砂一族だって普通のお茶ぐらい飲むよ、と
答える。

けれど、

「スガは砂一族では変わり者なのね」
「まあね」

私と一緒だ、と。

だから、分かってくれる。
嗣子の言葉にも
物珍しさじゃなくて、心から同感して頷いてくれる。

「このままどこかに行けたらいいのに」

家族も、村の生活も
何もかも捨てて
誰もどの一族かなんて
気にも止めない人達が暮らしている町に。

「水辺のあちこちを見てみたいなぁ。
 一番は海かな」
「私も、海見てみたい」
「あと谷一族の洞窟とか」
「三つ目が居るって本当かな?」
「狩りの一族、山と西」
「私、狩りは別にいいかな」
「そうなの?
 俺は見てみたいけどなぁ。
 狩りに使う毒とかどうなっているんだろう」
「そういう所は砂一族よね」
「あと、東一族のオンセン?」
「見ても楽しい物じゃ無いと思うけど」
「そうかな。
 他一族にとっては珍しいと思うよ。
 東一族って独特だよね」
「そう?そんなもんかしら?
 いつか、村を案内出来たらいいわね」
「期待してるよ」

なんでもない、たわいもない話。

そんな事を言っても、
やっぱり日は昇るし
そうすれば村に戻っていつも通り。

また、会えるのは
次の新月の晩。

「そう言えば、
 この前は来れなくてごめんなさい」
「いや、良いんだ。
 誰かに見つかりそうなら無理しないで」

スガに会いに来ていると
分かってしまったら、
もう、こうやって会うのは終わり。

「見つかったというか、ねえ。
 ふふ」
「なになに?」
「変な人に引き留められちゃって」

少し腹は立った。けれど。

まぁ、でも。
今になって思い返すと
あの時の水樹の慌てっぷりは
少し、面白かった。

「見つかったの?」
「そういうんじゃないの。
 すぐに引き返したから」
「………そっか」
「その、ごめんなさい」
「いいよ」

「ちょっと抜けた所がある人だから
 スガに会いに来てるなんて気付くはず無いわ」

大丈夫だと思う、と
そういう嗣子の言葉に
重ねるようにスガが言う。


「もういいよ」



NEXT

「涼と誠治」34

2019年07月26日 | T.B.2019年


 数名の山一族は、馬で、一気に崖を下りる。

 一歩間違えれば、命はない。

 けれども彼らは、手慣れたように、崖を下りる。

「いたか!?」
「いや、こちらには!」
「やはり、裏には逃げられているな」

 馬に乗ったまま、山一族はあたりを警戒する。
 裏一族の気配は、もはやない。

「落ちたと云う、西一族は?」
「もはや、助からんだろう」
「村へ戻るか」

 ひとりが、馬を動かす。

 が

「待て!」

 別の山一族が、何かに気付く。

「いるぞ!」
「何!?」
「どこだ」

 山一族は集まる。

 ひとりが、馬から下りる。

 さやを持つ。
 叩く。

「死んでいるのか」
「当たり前だろう」
「死んだな」

 黒髪の西一族が倒れている。
 ひとりだけ。

「ひとりなのか?」
「そのようだな」
「声はふたりしたんだが」

 再度、さやで、西一族を叩く。
 けれども、動かない。

「あの上から落ちてきたんだぞ」
「雷に、当たったか」
「残念だったな」

 と、

 山一族は一歩下がる。

「……どう云うことだ」

 倒れている黒髪の、指がわずかに動く。

「生きて、る」
「ありえない」

 山一族は顔を見合わせる。

「どうする?」
「奇跡じゃん」
「なら、」

 ひとりが頷く。

「この状況を聞き出せるわけだ」
「ははっ」
「山へ連れて行くか」

 もうひとり、馬から下りる。
 ふたりで、西一族を馬に乗せる。

「とにかく、山へ戻ろう」
「族長に、こいつを差し出せ」
「行くぞ!」

 雨が降り続いている。

 馬が走り去る。
 が
 ひとりだけ残る、山一族。

 辺りを見回す。

 この場に残る感覚に、気付く。

「……何だろう?」

 山一族は首を傾げる。

 この、感じたことのない、

「魔法の痕跡、は」






NEXT



「水樹と嗣子」7

2019年07月23日 | T.B.2003年

砂漠当番を終えた友樹と裕樹を
村の正面で水樹が迎える。

「おつかれ、おつかれーい!!」
「お疲れ兄さん。
 今日は門番?」
「そうそう、実樹兄さんと」

今日の門番は始まったばかりなのに
もう、一日経ったと言わんばかりに
疲れた顔で実樹が言う。

「俺は門番には向かないと思うんだ。
 早く帰りたい」
「またまたぁ、謙遜を」
「俺って占術師だからな!!」

「人手不足なんだ仕方無い」

諦めろ、と
友樹が実樹の肩を叩く。

あ、そうだ、と
裕樹が言う。

「水樹兄さん、嗣子と会ったんだって?」
「そうそう。
 この前の飲み会の帰りに、って
 どこからそれ聞いたんだ?」

うーんと、裕樹。

「嗣子が、俺に苦情を訴えてきたというか」
「苦情とな!?」
「ほら、最初に砂漠で会った時。
 俺と兄さんが一緒だったから
 接点があるという事でなんだろうけど」

言いにくいけど、と、続ける。

「あの変な人に
 これ以上私に絡まないように言って、と」

「変な人ぉお!!?」
「まぁ兄さん。
 確かに、夜道に面識のない年頃の男に
 声かけられるって、まあ、なかなかに
 警戒事項だからさ」

「それは、まずいぞ水樹」
「訴えられたら、
 完全にあちらの勝利だぞ」

それはちょっと、と
友樹と実樹が言う。

「面識あるもん!!
 砂漠で会ったもん!!」

「もん、て、兄さん」

その年と顔と声で
その語尾はちょっと。

「だって、砂漠行こうとしてたし。
 危ないし~」
「正義って難しいな」
「普段の行いの現れだよな」

裕樹にまで言わせるとは
本当に怒らせちゃったな、と
水樹は人知れずため息をつく。

「兄さん?」
「あ、いやいや、何?」

「兄さん、喋らなきゃまともに見えるよ」

「喋ったらアホって事!?」

「騒がしい枠というか」
「沈黙は金だな。黙っとけ」
「ええええぇ」

だが、と実樹が言う。

「確かに砂漠は危ないな」
「夜に1人で砂漠に出掛けるって
 結構度胸あるけどな」
「あれは度胸じゃないよ。
 分かってないだけだって」

「砂の動きが不穏だ。
 夜でも、昼でも、
 気をつけるに越したことはない」
「変に静かだなとは思う」

兄さんも!?と水樹は驚く。

「友樹兄さんもそう思う?
 動きを見せなくなったよな」

ぐ、と実樹が杖を握り直す。

「何か企んでいる気がする。
 こういう時はいつもより危険だ」
「お、占術か?」
「ああ」

こくり、と頷き、
不敵な笑みを浮かべつつ言う。

「俺はまだ見習いだからな。
 これは、大樹兄さんの占術結果だ」

「自分の占術じゃないんかーーーい!!」


NEXT

「涼と誠治」33

2019年07月19日 | T.B.2019年


「何があった!?」

 西一族の村。

 雨が降っている。

 村の広場には、狩りを終えた者たちが集まっている。
 いつも通り、獲物を捌き
 いつも通り、片付けを行う。

 が、

 突然の事態。

 和やかだった雰囲気が、一瞬で変わる。

「何だ!?」
「誠治たちの班だ!」

「誠治!?」

 皆、一様に集まってくる。

 誠治の班は、4人。

 うちふたりが、気を失った誠治を抱え、広場に現れる。
 もうひとりの姿はない。

「何があった?」
「誠治!」

「とにかく病院へ!」

 手を貸す者が現れ、意識のない怪我だらけの誠治は病院へと運ばれる。

 狩りのまとめ役が、ふたりの元へと来る。

「いったいどう云うことだ」

 ふたりは顔を見合わせる。

「それが、」
「私たちにもよく判らないの」

「判らない?」

「ええ」

 ふたりは、経緯を話す。

「大雨の中、誠治は狩りを続けると云ったんだ」
「それで、涼が誠治を止めに追ってくれて」
「俺たちふたりは、先に下山してきた」
「なのに、村の入り口に着いたら」

 なぜだか、誠治が怪我だらけで倒れていた。

「誠治がうわごとで云うんだ」
「崖から落ちたって」

「崖?」

 広場がざわつく。
 狩りのまとめ役は目を細める。

「誠治と黒髪が、崖から落ちただと?」

 ふたりは顔を見合わせる。
 真意は判らない。

「あいつはどこにいる?」

「……涼のことは、」
「判らない……」

 そして、これ以上、何も判らない。

「村長を呼んできてくれ」
 狩りのまとめ役は、声を出す。
「それと、誠治の意識が戻ったら、すぐに知らせるように」

 雨が降り続いている。

 が

 状況を知ろうと、広場には、たくさんの西一族がいる。
 誰もが、雨に濡れている。

「まあ。でも、さ」

 誰かが云う。

「よかったんじゃないか、あいつで」
「崖から落ちたのが、あいつで」
「まあ、そうね」
 さらに、誰かが云う。
「黒髪だったからねぇ」
「いてもいなくても、……いや、むしろいない方が」
「一族のため?」

 小さな笑い声。

「いくら狩りの能力があってもな」
「西一族で黒髪じゃあ」
「とても……一緒にはいたくないよな」

「あっ、おい!」

 皆、広場の入り口を見る。

 いつの間にか、

 そこに、涼の結婚相手が、立っている。






NEXT



「水樹と嗣子」6

2019年07月16日 | T.B.2003年


夜道を進む嗣子の後ろを
少し距離を取って歩く。

「来ないで」
「あ、いや。
 もう少し人通りのある所まで」

いくら東一族の土地とは言え
夜の人気の無い道。

「慣れているから平気」
「そうなのか。
 そりゃあ、心強いな」
「バカにしてる?」

武術の心得のある水樹に言われたら
そう思うのは当然かも知れない。

「いやいや、だって、夜じゃん」
「それが?」
「お前ここがどこか分かってんのか?」

村の郊外。
静かな森沿い。

獣は出ないと言うし、
整備もされている。

月は出ていないけれど
星がその分よく見えて、
嗣子にしてみれば、落ち着く道。

「?」

まじか、と
水樹は慌てる。

「墓地の近くだぞ!!!」

言われて、そうだったな、と
思い出す。でも。

「………それが?」
「幽霊でるかもしれないし」

「え?怖いの?」

コクコク、と水樹は頷く。

「死んだ人でしょう。
 何が出来るっていうのよ」
「お前、霊魂を舐めるなよ」
「………信じる人なんだ」
「そうだよ、悪かったな」
「悪いとは言ってないわ」
「姉ちゃんの元彼とか、出るよ。
 俺がこっそりお高いシャンプー使った事とか!!」

「それは、よくわからないけど」

と嗣子は言う。

「なら、村の近くまでは
 着いてきていいわよ」

「まじで、さんきゅ」
「でも、この距離はそのままで」

それ以上近寄らないで、と
念を押す。

「うす」

ギリギリ会話ができる間隔のまま、2人は歩く。

水樹は鼻歌を歌っているが
嗣子は放っておく。
どうせ村まであと少しだし。

怖いのならば仕方無い。

「なあ、意外と話すと面白いなお前」
「………お前って言われるの嫌い」
「ごめん」

でも、と水樹は続ける。

「俺、言うほど
 嗣子が変わってるとは思わないけど、な」
「………」
「まあ、俺も同じだけど」

変わってる、って。

「全然違うわよ」

「そうかな?」
「違う!!全然!!」
「???嗣子?」

「何にも出来ない私とは違う。
 あなたは、変わっているかも知れないけど
 みんなが必要としてるもの!!」

だから、分かってない、と嗣子は言う。

「私、生まれる所を間違えたのよ。
 東一族に向いてないんだわ」
「そんな事無いって」

ぴたり、と嗣子が止まる。

「もう、村の中心に入るから。
 ここまで。
 本当にこれ以上着いてこないで」
「あ、あぁ」

嗣子は、最後に水樹にこう告げる。

「あなたが、今、
 私に構うのだって、
 珍しい物見たさだから」

「嗣子」

水樹が呼びかけるが、嗣子は振り向かず
村の中心へ歩いて行く。

1人残された水樹は、
困った様に頭をかく、と呟く。

「そういうんじゃ、無いんだけどな」


NEXT