TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」19

2017年04月28日 | T.B.2019年

「ちょっと!」

「おとなしくしろ!」

「放して!」

 琴葉は男たちを振り払う。
 走ろうとする。

「おい、待て!」

 けれども、琴葉は走ることが出来ない。
 足を引きずる。

 すぐに、男たちが琴葉を捕らえる。
 琴葉は再度、振り払おうとする。
 が、転ぶ。

「痛っ」

 もともと悪い足が、ますます動かない。

「こいつを魔法で眠らせろ! うるさい!」
「仕方ないな」

「やめてよっ」

 琴葉は云うが、男たちに押さえられているので身動きが出来ない。

 男のひとりが、何かを云う。

 呪文。

「放してってば!」

「しばらく眠っていろ!」

「やめ、」

 思わず、琴葉は目を閉じる。

 このまま父親にも会えず
 西にも帰れず

 砂に売られてしまうのか。

 …………

 …………

「何だ?」
「魔法はどうした!」

「…………?」

 琴葉は腕を動かす。
 身体が自由に動く。

 魔法は、発動しなかったのだろうか。

 目を開く。

 横に、

 男たちは、いない。

 代わりに、

「誰だ」

「西、一族?」
「いや……?」

 男たちは吹き飛ばされたように、離れたところにいる。
 そこに現れた者に、男たちは戸惑っている。

 ――格好は、西一族。

 けれども

「黒髪、だぞ?」
「西に?」
「ありえない!」

「あんた……」

 琴葉は驚く。

 そこに、

 黒髪の彼が、いる。

「なぜ、ここに?」
「なぜって」
「なぜここが判ったの?」
「北に行く馬車に乗ったじゃないか」
「あれ? あ、そうか……?」

「おい!」

 ひとりの男が、立ち上がる。
 声を上げる。

「焦るな、西は魔法が使えん!」

 回り込め、と、指示を出す。

「人が集まる前に終わらせろ!」
「魔法を使え!」
「動けなくするんだ!」

「ちょっ、ねえ!」

 琴葉は状況を思い出す。
 混乱する。

 男たちに囲まれている。

「このままだと、私たち砂に売られてしまう!」
「それは困るな」
「殺され、!」
「それも困る」
「っうう!」
「彼らはね」

 彼が云う。

「通称裏一族」
「裏、……?」

「簡単に云うと、自分の一族を離族して悪いことをする集団」

「いや。そんな、云っている場合!?」

 と、

 男たちが何かを唱える。

 強い、光。



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ジロウ

2017年04月25日 | イラスト


ジロウ

南一族
T.B.1992年生まれ
身長:これから伸び盛り・O型

マジダの事が好きで
タロウはライバルだと思っている。

南一族の和菓子屋さんの息子。

ジロウはマジダに付けて貰ったあだ名で
本名は快晴(カイセイ)

「タロウとマジダとジロウ」おまけ

2017年04月25日 | T.B.2001年

「君は、ここの春は初めてだろう」

南一族の医師が言う。
いや、とタロウは答える。

「去年も居ましたけれど」
「ほぼ病室で過ごしていたじゃないか、
 あれは、カウントしません」
「……カウント」

「楽しんだら良いよ。
 昼間っから堂々と、飲めるの、なんて
 花見ぐらいなんだから」

イエーイ、と医師が花見の集団に駆けていく、
と、思いきや
一回戻ってきてタロウに耳打ちする。

「いつか、事情を話せるときが来たら
 あの子達に聞かせてあげたらよい」

「えぇ、いつか」

そうだね、と医師が言う。

「僕にとっては
 君が抱えている問題は
 そう大きな事では無いと思う」

きっと二人もそう言うだろう、と。
そして、
ゴホン、と僅かに咳払いして続ける。

「早いほうが良いかも。
 どこかの村で罪を犯したアサシンぐらいに思ってるから」
「……ええぇ!!」
「今回は君が悪い。
 大げさな言い方するから」

「ちょま、ちょっと、待って。
 マジダ。ジロウ。
 あのね~」

あわてたタロウが
二人の元へ駆けていく。



「琴葉と紅葉」18

2017年04月21日 | T.B.2019年

 琴葉は、男の後ろを歩く。

 ときに男は振り返り、琴葉を確認する。

 大通りを抜け、人気がなくなる。
 旧い建物の並ぶ場所。

「この先に」

 男は、路地を指差す。

 琴葉は男を見る。

「行こう」

 男は琴葉の肩を押す。

 琴葉は云われるまま、路地を進む。
 やがて
 開けた場所に出る。

 静かな、場所。

「おいおい、誰を連れてきた!」

 そこに、ふたりの男がいる。
 男と同じ、北一族の格好。

「見ろよ。西の女だ」
「へえ!」
「役立つのか?」
「役立つだろう」

「ねえ、」

 琴葉は男を見る。

「この人たちは、」

 男は笑う。

「大丈夫。悪い人たちじゃないから!」

「…………」

「俺たち、仲間だからな」
「おい。西の話を聞かせろよ」
「村長の情報をだな」

「私、父さんを……」

「そんなことはどうでもいいんだよ」

 男の声が冷たくなる。

「俺たちは西の情報が欲しいんだ」
「え?」
「どれだけ西の情報が出てくるかで」
「君の今後が決まるからねー」

 琴葉は後ずさる。

 騙された。
 騙された、のだ。

「結構些細なことが、他一族には大きな情報になるんだぜ」
「ほら、話せよ」

 琴葉は首を振る。

 村長?

 もともと、琴葉は他人のことに興味はない。
 話せと云われても、何も知らない。

「何も……」
「ん?」
「何も、……知らない」

 男たちは顔を見合わせる。

「村のことは何も、知らなくて……」

「おいおい!」
「嘘をつくんじゃないぞ」

「本当に、……私、知らない」

「は?」

「周りと付き合いない、から……」

 男たちは笑う。

「本当かよ!」
「とんだ役立たずだな」
「西の中でのお前の立ち位置が、だいたい判るわ!」

 男たちは笑い続ける。

 琴葉は、目を細める。

「なら、時間の無駄だ!」
「早いとこ、片付けるか」

「…………?」

「ああ、大丈夫。命を取るわけじゃないから」

「え?」

「北の遊郭に売るか?」
「いや、砂に売る方がいいだろう」
「西の実験台をほしがっていたぞ」
「じゃあ、砂だな」

「……砂?」

 男たちは、琴葉を掴む。



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「タロウとマジダとジロウ」10

2017年04月18日 | T.B.2001年

「タロウ」

「出て行くの?」
「いや、俺は」
「ちゃんと、答えて」

マジダの言葉に、タロウはしばらく逡巡して答える。

「うん」

「なんで?」
「なんで、って」

「みんなに迷惑がかかるから」
「かかってないわ」
「これから、きっとそうなるから」
「だから?」
「もっと遠くに行かなくちゃ、て」

不思議だ、とタロウは思う。
マジダを前にすると
黙っておこうと思っていた言葉が
自然と口から出てくる。

「私、毎日遊びに来ていたわよね」
「ああ」
「年上のタロウ相手に
 生意気な言い方もしたわよね」
「そうだね」

「迷惑だった?」

タロウは首を振る。

「いや、楽しかったよ」

毎日、お茶とお菓子を準備して
待つくらいに。

「行きたい所があるなら
 帰りたい所があるならいいけれど」

ねぇ。と
マジダが言う。

「でも、そうじゃないなら
 居なくならないで」

服の裾をぎゅっと握り、
マジダが震える。

「……マジダ?」
「タロウがタロウじゃなくても
 迷惑かけても
 みんな、がっかり、しないから」

うわぁあ、とマジダが泣き出す。
ジロウが言っていた、
女を泣かすな、と。

「あ、わ、わ。
 マジダ、ちょっと、泣かないで」

「あぁあ、泣かせちゃった、
 知らないんだ~」
「マジちゃんを泣かせやがって」

遠くから様子を見ていたのか、
南一族の医師とユウジが歩み寄る。

「え」

「マジダがね、自分で止められなかったらって
 呼んで置いたんだよ」

ジロウの言葉に応えるように
医師が言う。

「まぁ、必要無かったみたいだけど」
「医師様」

南一族の医師はタロウを制する。

「タロウ、違うだろ。【先生】だ」
「あ」

タロウは口元を押さえる。
ユウジもその様子を見て告げる。

「どうだ、キナリより
 もっと前の名前に戻りたいなら
 俺は止めないが」

かろうじてタロウの事情を知っている二人。

「みんな、お前のこと結構気に入ってるんだ。
 お前が思っている以上にな。
 困っているなら皆が協力する」

タロウは、ユウジに頭を下げる。

「ありがとうございます。村長」
「いつも通り、ユウジさんで構わねぇよ」

「俺も」

タロウは辺りを見回す。

最期にマジダの方を見つめ、
こぼれるように口にする。

「俺も、タロウが、いいです」

「タロウ!!」

ごめんね、と
マジダを抱えながら
タロウはジロウに目配せする。

少し震えている。

それはそうだ、
怒る大人を一人で相手にしたのだから。
でも、意地でもタロウを引っ張り出した。

「ジロウ、君
 格好良かったんだな」
「当たり前だ、
 ―――じゃあ、行くか」

「そうだな」
「みんな待たせてますからね」

え、何に?と一人タロウは混乱する。
ユウジも医師も、みんなでどこに?
マジダが涙を拭き、降りる、と言うので
そっと下ろしてあげる。

「みんなに声かけていたの。
 もうすぐ満開だから、そうなったら行こうって」
「ずっと計画してたんだからな、
 おれん家のぼたもちも沢山持ってきたぞ」

マジダがタロウの手を引く。
ジロウは仕方ないと言うそぶりで
二人の後を追う。

「桜が満開なの。
 今日はね、お花見よ」

タロウは歩く。
それは、行こうとしていた村の出口ではなく、
村の中心の広場。

明日もまた、遊ぼうと約束しながら。


南一族の村にて
T.B.2001タロウとマジダとジロウ