TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」10

2016年09月30日 | T.B.2019年

 誠治の額から、汗が流れる。

「何だ。西一族の若造か」
「そう云うお前は」

「誠治」

 涼が声を出す。

「あれは」

 誠治が、目を細める。

「あれが山一族だよ」

 山一族は馬に乗ったまま、冷笑する。

「そっちは何だ。西一族に黒髪がいるのか」
「黙れ!」
 誠治が声を上げる。
「そもそも、」
「お。思い出した!」

 誠治が何か云う前に、山一族が手を叩く。
 涼を指差す。

「お前、あれだ。熊を二匹仕留めたやつだな!」

 涼は、答えない。

「うちの一族が、誰だったか見てたんだよ」
 山一族が云う。
「黒髪の西一族が、熊を仕留めたって」

 山一族は、再度手を叩く。

「すごいな! うちでもなかなか出来るやつはいない」

「見ていた、だって!?」

 誠治が声を上げる。

「ここは、西の土地だ! なぜ山がいる!」

「おいおい」

 山一族は手を上げる。

「ここは、山一族の土地だろ」
「ばかな! 勘違いしているのか!」
「勘違いしているのは、西一族だ」
 山一族が云う。
「このあたりは、呼べば、すぐに山一族が集まるぞ」

 涼はあたりを見る。

 誠治はその様子に気付き、涼に訊く。

「いるか?」
「いや」
 涼は首を振る。
「ここには、この山一族ひとりだ。近くには誰もいない」

「へえ」

 山一族は、弓矢を手に取る。

「黒髪の方、気配が判るのか」

 涼は、山一族を見る。
 けれども、視線は合わない。

 と、

 山一族が突然、手を動かす。

「何、」
「動くな、誠治!」

 涼が声を上げる。

 矢。

「なっ!!?」

 誠治も声を上げる。
 動けない。

 山一族が放った矢は、ふたりの間を抜け、すぐ後ろの木に刺さる。

「お前っ!」

「誠治」

 涼が云う。

「西に合図を出すか?」

「いや」

 誠治は、山一族をにらむ。

「ばかにしやがって……」

「誠治、」

「おい、山一族!」

 誠治は、刀を抜く。



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「ヨーナとソウシ」1

2016年09月27日 | T.B.1998年


「ようこそ、谷一族の村へ」

ヨーナは旅人を出迎える。

湖を囲む八つの一族。
谷一族は湖から少し離れた
谷間に暮らしている。

正確にはその谷の
岩肌を削った洞窟に集落を作っている。

「私たち谷一族は坑道から採石を行い
 それを主な収入源として暮らしています。
 鉱物を加工して売る産業も栄えています」

ヨーナは腕や首に付けられた
淡い色の鉱石から出来た
飾りを見せる。

「これはお守りとして、
 一族の者なら身につけている物。
 ちなみに、観光客向けの物は
 もっとキレイな細工がされていて、女性には特に喜ばれます。
 お土産にどうぞ」

「お上手だ」
「そう言われたら買って帰らないわけにはなぁ」

「さぁ、どうぞ。
 村で唯一の宿屋へご案内します」

谷一族は主に白色と茶色の
2種の髪色と目色を持つ。
ヨーナは白色系の灰色の髪。
一族の黒い衣装に良く映えるその色をとても気に入っている。

「ところで、
 谷一族はみんな額に模様があるんだね」

旅人の問いかけに
そうですよ、と
ヨーナは返す。

「谷一族の主な外見的特徴は額の丸い入れ墨。
 これは我々の祖先が三つ目であったという事に由来しています」

「三つ目ね」
「本当に居たのか」

まさか、と
ヨーナは笑う。

「あくまで言い伝えですよ。
 おかしいですよね」

洞窟の中にある
谷一族の村は
いつも照明が灯されている。

鉱石を掘る。

そんな用途から
谷一族では光を灯す
光源魔法が発達している。

「昼間のようだね」

「洞窟の外の明るさに合わせて
 夜は少し明るさを落とすんですよ」

さぁ、どうぞ、と
村の中心に位置する宿屋の入り口で
ヨーナは立ち止まる。

「どうぞ、我が家へ」



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「涼と誠治」9

2016年09月23日 | T.B.2019年

 久しぶりの晴れ間。

 涼と誠治は狩りへと向かう。

 山を登りながら、誠治が云う。

「せっかくの晴れ間なのに、何やってるんだよ」
「…………」
「狩りの好機を逃すなよ」
「悪い」
「狩りをするために、罰を後回しにしてもらってるんだろ」

 晴れ間は、数日続いている。
 が
 涼は、しばらく、狩りへと出向かなかった。

 誠治はそのことを咎めている。

 涼は何も云わない。

「ほかの班は、ずいぶんと獲物を仕留めたみたいだな」
 誠治が云う。
「この調子なら、俺たちも」

 誠治は、足早に山を登る。
 涼もそのあとを続く。

「おい」

 しばらくして、誠治が立ち止まる。
 涼も立ち止まる。
 誠治は声を落として、云う。

「獲物がいるぞ」

 涼と誠治の少し先に、獲物がいる。

 鹿。

 誠治は茂みから覗く。
「獲るか」
 云うと、誠治は刃物を取り出す。
 涼は、弓を構える。
 誠治は、獲物を見ながら云う。
「急所を狙えるか?」

 涼は頷く。

 矢を放つ。

 獲物は驚く、

 が

 すでに、矢が当たっている。

 誠治は茂みから飛び出す。

 持っていた刃物を握りなおす。
 とどめを、刺す。

 獲物は声を上げ

 そのまま、倒れる。

「上出来!」

 誠治は嬉しそうに、獲物を見る。

 涼も、茂みから姿を出す。

 誠治は早速、獲物を運ぶ準備をする。

「おい、涼。そっちを、」

 獲物の横に坐り込んでいる誠治は、涼を見上げる。

 涼は、

 手を合わせている。

 手を合わせている、と云っても、よくやる祈りとは違う。
 片手は開き、片手は閉じている。

「お前、……たまにやるそれ、何だよ」
「別に」
「…………」
「…………」
「ひょっとして、祈ってる?」

 涼は答えない。

「そんなのいいから、運ぶ準備しろよ」

 涼は動かない。
 あたりを見る。

「どうした?」

 誠治は首傾げる、が
 すぐに、何かの気配に気付く。

「何だ?」
「これは、」

 足音。

 大きな、足音。

「お前ら、何者だ!」

 誠治は驚き、声の主を見る。

 その声は、ふたりの上から投げかけられる。

 そこに

 馬に乗る、ひとりの男性。

 西一族とは違う、顔立ちと装いの

 ――山一族。



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「西一族と魔法」

2016年09月20日 | T.B.2017年

北一族は、湖を囲む一族の中で
一番繊細な魔法を使うとされている。

威力よりも、
優雅さを優先し、
研究され、計算され尽くした
とても緻密な魔法。

そのため、魔法の仕組みについて
最も詳しいとされている。

そのように魔法を研究している
一人の北一族を
ある西一族が尋ねてくる。

その西一族は彼に言う。

「なぜ西一族は魔法を使えないのか。
 使おうとすれば使えるのか
 それを教えて欲しい」

「へぇ」

北一族は感心する。

「西一族が
 そんな事を言うとは驚きだ。
 君たちは魔法を必要としない
 唯一の一族だ」

狩りを生業としている西一族は
武器の扱いに長けている。

雑な言い方をしてしまえば
全てを力で押し切る一族。
魔法を使わない事を
誇りにしている一面さえ見える。

「今の西一族をどう思う?」

その西一族は問いかける。

「どう、とは?」

「昔のように表だって敵対する一族が居ない。
 狩りを行うとは言え、
 人を殺す事には慣れていない」

「物騒だな」

おお怖い、と北一族は言う。

「何もどこかに戦いを仕掛けようと
 そういう訳じゃあない。
 仕掛けられたときの対策だ」

知っているだろう、と
西一族があえて説明する。

「冷戦状態にある東一族は
 魔法も体術も使う。
 山一族は同じく狩りの一族だが
 魔法のありなしは大きい」

それに

「友好関係にあるが
 南一族は威力のある魔法で有名だ」

ふむふむ、と
北一族は続ける。

「そして北には
 私たち魔法の専門家が居るからね」

からかうように彼は言う。

「囲まれて、怯えているのかな。
 誇り高き狩りの一族が」

「もちろん、
 周辺の一族の事は信じている。
 だが、停戦の約束も
 交わしたのは随分昔のこと」

そう言って西一族。
一族を治める若い村長は笑う。

「もしもの事を
 考えて居るだけだよ。
 それが、村を治める者の勤めだ」

了解だ、と北一族の彼は言う。

「料金は前払いで貰っているからね。
 約束は守ろう」

まずは、と
彼は西一族の村長に告げる。

「各一族で使う術は異なるが
 魔法という意味では同じだ。
 訓練さえすれば
 他一族の魔法を使いこなすことも可能だろう
 東一族が南一族の魔法を、といった風に」

けれども、と彼は念を押す。

「西一族は他一族より
 訓練の量が倍以上かかると思って欲しい。
 そもそも魔法を使うという概念が無いからな」

ふぅん、と
西一族の村長は言う。

「特に早く覚えられる魔法で良いんだが」

「……普段、魔法を使う一族が
 西一族の村を訪れたときの
 あの不思議な感覚が分からないだろう」

「急に何の話だ?」

まぁ、聞け、と
北一族の彼は言う。

「まるでな、
 魔法の無い世界に放り込まれたような感覚なんだ」

「当たり前だろう、
 西一族は魔法を使わないのだから」

「違うなぁ。
 そう言う事では無いんだ」

意味がくみ取れない西一族の村長を
どこか面白がって
北一族の彼は言う。

「私たちは、他の一族の村に行っても
 当たり前に魔法を使うことが出来る。
 それが、
 西一族の村では魔法が使えない様な気分になる」

「そうなのか?」

「気分になる、と言うだけだ。
 もちろん、使う事が出来る。
 ただ、使う事を躊躇ってしまう」

「……意味が分からないんだが?」

北一族の彼は
もしかしたら、と
そう前置きを置いて言う。

「西一族は、
 魔法を打ち消す魔法を使っているのかもしれない」

「なんだそれ。
 相殺魔法と言うことか?
 そんなもの使えないぞ」

「だろうね、
 それを西一族が無意識に使っているのかもしれない
 と、そういう仮の話だ。
 まぁ、一番合っている魔法なのかもしれない」

「そんな魔法、意味があるのか」

「もちろん。
 使い方によっては
 一番脅威となる魔法だ」

これだから、
魔法を持たない一族は、と
北一族の彼は内心呟く。

もし、世界から魔法が無くなったら
一族間の関係も変わりかねない。

「難しい話だな。
 それで、魔法は使えるのか?」

「可能だ。
 希望するのであれば
 筋がある者に訓練を付けても良い」

ただし、と
北一族の彼は言う。

「得た力で
 北一族の村を襲うのは止めてくれよ」

「何を言う、
 どうせ、自分たちで押さえられるレベルまでしか
 教える気は無いだろうに」

そうして、鋭い笑みを見せる
西一族の村長に
あなどれないな、と
北一族の彼は思う。

知らぬふりをして
裏で何かを企みかねない人種だ。

もしや、と
彼は言う。

「俺は何か間違えてしまったかもしれないな」



T.B.2017
西一族と魔法