TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」44

2018年03月30日 | T.B.1998年

 呪文をもとに魔法を発動することを、通称「魔術」

 陣、つまり、魔法陣をもとに魔法を発動することを、通称「紋章術」

 一族間で、呼び名は違うものの、
 魔法の発動の仕方は、主にふたつ。

 前者は、海一族や北一族などが得意とし、
 後者は、山一族や東一族が得意とする。

「それじゃあ」

 トーマの問いに、アキラは頷く。

 司祭を倒しても、魔法陣の術者は司祭ではない。
 この足元の魔法は、止まらない。

「……気付いたか」

 司祭が云う。

「だから云っただろう。無駄なことはするなと」

 魔法陣の光が、さらに強まる。

 ふたりの力を削っていく。
 まるで、命を吸い取るように。

「司祭様、……あなたもこのまま、死ぬつもりなのか」

 魔法陣の中にいる限り、
 司祭もまた、その命を奪われているはずだ。

「私は十分生きた」

 司祭が云う。

「老い先短い命だが、彼女に渡せるのならそれもよい」

「…………っっ」

 アキラは片膝を付く。

「まずいぞ、このままでは」

 司祭はふたりに近寄る。

「トーマ。それに山一族よ。苦しんで死にたくはないだろう」

 さあ、教えろ、と。

「もうひとりの娘……、生け贄はどこだ」

 アキラは首を振る。
 答えることは出来ない。

 だが、この魔法陣のすべてが範囲となるのならば、
 カオリの命も危ない。

 司祭はトーマの前に立つ。

「答えないのか。……残念だ」
「ぐっ!!?」
「トーマ!!」

 司祭は、地に付いたトーマの右手に、剣を突きさす。

「同じ一族のよしみで、あまり苦しませたくはないのだが」 

「っっ!!」

「さあ、早く居場所を云うのだ。……次は左手か、それとも足か?」

 司祭は再度、短剣を振り上げる。

「待て!!」

 その瞬間、

 ふ、と

 魔方陣の光が消える。

「………え?」

 洞窟の中に、その飛び散った光がゆっくりと降り注ぐ。

「まさか、」
「術が完成したのか?」

 アキラとトーマは、顔を見合わせる。

 いや、

 違う。

「これは」

 アキラは戸惑いながら答える。

「術が、……解除された?」



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「海一族と山一族」40

2018年03月27日 | T.B.1998年

「………う」
「くっつ!!」

「は、はははは」

よろめきながらも、司祭は立ち上がる。

「無駄だ。
 ここは我々裏一族の魔方陣の中だ」

口元の血をぬぐいながらも、
勝ちを確信したかのように言う。

「もう、術は発動しているのだ。
 お前達に為す術は無い」

「………くっ」
「………トーマ」

立ち上がりながらアキラが言う。

「あの司祭は、呪文を唱えた」
「……そう、だが??」
「先程から、あの司祭は
 呪文での術発動を行っている」

術を使うのだから、
当たり前では?と
トーマは首を捻る。

「それが?」

「今あいつが使っている術は、呪文術。
 呪文を唱えることで発動する」
「………ああ」
「足元のこの魔方陣は、紋章術。
 ────術の種類が違う」

「まさか!!」

アキラは頷く。

「この魔方陣の術者は
 あの司祭ではない」

他に、居る。

「それじゃあ」
「ああ」

例え司祭を倒したとしても、
この術は止まらない。

「ほう、気付いたか」

司祭は言う。

「だから言っただろう。
 無駄なことはするな、と」

魔方陣の光は更に強まり、
足元から力が抜けていく。

「司祭様、
 あなたも、このまま
 死ぬつもりなのか」

陣の中に居る限り、術者以外の者は
すべてが対象になるはずだ。

「私は充分生きた。
 老い先短い命だが、
 彼女に渡せるのならそれもよい」

「まずいぞ、このままでは」

立ち上がっていたものの、
アキラが片膝をつく。

司祭は2人に歩み寄る。

「トーマ。それに、山一族の者よ。
 お前達も苦しんで死にたくはないだろう」

「さぁ、もう1人の娘はどこだ?」

「答えるとでも思ったのか」

だが、この広大な魔方陣の
すべてが範囲となるのならば、
カオリの命も危ない。

「そうか、残念だ」
「ぐあっ!!」
「トーマっ!!」

腕を付いていたトーマの右手に
司祭は短剣を突きつける。

「同じ一族のよしみで、
 あまり苦しませたくは無いのだが」

そう言いながら司祭は笑う。

「さぁ、早く答えろ。
 次は左手か、それとも足か?」

司祭が再び短剣を振り上げる。

「待てっ」

アキラが叫んだ瞬間、
魔方陣の光が、はじけて消える。

「………え?」

洞窟内には、その飛び散った光が
雪のように、
ゆっくりと降り注ぐ。

「術が完成したのか?」

トーマが誰と無しに問いかける。
だが、トーマもアキラも、
司祭も生きている。

「違う、これは」

アキラも戸惑いながら答える。

「術が、解除された?」


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「山一族と海一族」43

2018年03月23日 | T.B.1998年

「トーマ」

 アキラは声を出す。

「理にかなっていない」
「ああ……」
「倒すべきだ」
「…………」

 アキラはトーマを見る。

 とは云え、トーマにすれば、同じ一族。
 身内のようなもの。

 トーマは、動けるのか。
 自身の短剣を握ってはいる。

 が、

「トーマ」

 再度、アキラはトーマを呼ぶ。

「俺がやる」
「アキラ」
「裏とは云え、海一族で尽力してきた者なのだろう」
「…………」

 そう簡単に、手を下すことは出来ないだろう。

 アキラは矢を取る。

 足元の魔法陣が光っている。
 急がねば。

「ここから立ち去れ!」
「儀式は終わっていない!」

 司祭の呪文。

 爆発。

 ふたりは顔を覆う。

「さあ、逃げるな」
 手を広げたまま、司祭が云う。
「そのまま、命を使わせてもらおう」

「!!?」

 魔法陣の光が強くなる。

 その光は、司祭の恋人だったものへと、集まりだす。

「トーマ!」
「いや、アキラ。俺も戦う!」
「このままでは、こちらの力が奪われていく!」
「どうする!?」

 アキラは陣を描く。

 山一族式紋章術。

「面倒なやつめ!」

「少しの間なら、裏の魔法陣から身を守れる!」
 アキラは再度、弓を握りしめる。
「何度も、機会はないぞ」

「判った!」

 トーマは走る。

「おい!」
「大丈夫だ!」

 近しい者だからこそ、トーマは司祭の弱点が判るのだ。

「ええい、トーマめ!」

 トーマは、司祭をすり抜ける。
 背に回る。

「この!」

 再度、司祭の呪文。

 と

 かざした司祭の手を、アキラの矢が打ち抜く。

「ぐっ!」

 それと同時に、トーマは司祭の腕を取る。
 そのまま、地面へと投げる。

「…………!!」

 司祭は地面へと倒れる。

「これで、」
「トーマっ!」

 瞬間、

 トーマと、アキラも吹き飛ばされる。

 司祭の魔法の方が、早い。

「――っう!!」

「は、はは」

 よろめきながらも、司祭は立ち上がる。

「云っただろう。ここは我々裏一族の魔法陣の中だ」

 司祭は、口元の血を拭う。

「儀式の邪魔をしてはいけない」

「……くっ」

「……トーマ」

「何だ」
「ひとつ、……判ったことがある」
「何?」

 立ち上がりながら、アキラは足元を見る。

「あの司祭は、呪文を唱えた」
「……そうだが?」

 海一族で魔法と云えば、呪文を発動の力とする。

「それが?」
「この足元の魔法陣は、いわゆる紋章術」
「…………!」

 アキラは頷く。

「まさか、」
「この魔法陣の術者は司祭ではない」

 他に、いる。



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「海一族と山一族」39

2018年03月20日 | T.B.1998年

「トーマ」

「理にかなっていない」
「あぁ」
「倒すべきだ」
「…………」

アキラがトーマを見る。

分かっている。
司祭を止めなくてはいけない。

自身の短剣を握る。

が。

「トーマ」

アキラが再び声を掛ける。

「俺がやる」
「アキラ」
「海一族で尽力してきた者なのだろう」

足元の魔方陣が光っている。
もう、時間が無い。

アキラが矢を取る。

「ここから、立ち去れ!!」
「何を言う。
 儀式は終わっていない!!」

司祭が呪文を唱える。

ゴッ!!と
洞窟内で小さな爆発が起こる。

「……っつ」

二人は顔を覆う。

「逃げるなよ」

司祭の声が洞窟に響く。

「そのまま、
 命を使わせてもらおう」

急に魔方陣の光が強くなる。

「!!?」

光はそのまま
司祭の恋人だった者へと
集まっていく。

もしも、
あれがカオリなら。

トーマは司祭を見つめる。

彼は、きっと今まで
亡くした彼女のために生きていた。

だが。

「アキラ!!」

一歩下がっていた足を踏み出す。

「俺も戦う」

分かった、とアキラは頷く。

「このままでは、
 こちらの力が奪われていく」
「どうする?」
「2人がかりであれば」

アキラが陣を描く。
魔方陣に吸い取られていた力が
ほんの僅か弱まる。

山一族の紋章術。

「少しの間だ、
 何度も機会はないぞ」

頷き、トーマは走り出す。

「えぇい、面倒なやつらめ」

もしかしたら、
同じだったかもしれない。
だからこそ、
司祭の弱点は分かる。

トーマは石台に向かって駆ける。

「待て、彼女には」

石台に横たわる
人だった者。
司祭の恋人だった者。

一瞬の動揺。

それがあれば。

地面を蹴り、向かう方向を変える。
司祭の背後に回り込む。

「トーマめ!!この!!」

司祭が呪文を唱える。

「ぐっつ!!」

だが、術は発動しない。
司祭が振り上げた手を
アキラの矢が射貫いている。

「はっ!!」

トーマは司祭の腕を掴み、
そのまま地面へと投げ込む。

「…………っ!!」

司祭は倒れ込む。

「これで」
「トーマ、まだだ!!」

アキラの声に振り向く前に、
トーマと、
離れていたアキラも吹き飛ばされる。

司祭の魔法。


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「山一族と海一族」42

2018年03月16日 | T.B.1998年

「彼女?」

 それは、
 カオリのことでも、マユリのことでもない。

「誰のことだ」

 呟いたトーマに、アキラが云う。

「おそらく、あれのことだ」

 司祭は、台座に横たわるものを見る。
 人だったもの、を。

「まさか」
「それを、生き返らせようとしているのか?」

 司祭は答えるように、それに触れる。

「なぜ、そのようなことを」

「簡単なことではないか」

 大切な人だったのだ、と。

 だが、

「人を生き返らせるには、何人もの命を犠牲にする、と」
 トーマが云う。
「そう教えてくれたのは司祭様だ」

 しかも、成功するかどうかは、判らない。

「とても、理にかなったことでは」
「彼女が生き返るかどうか、……ただ、それだけだ」

 弓を持ったまま、アキラは云う。

「本人が生きかえることを望んでいるかは判らない」
「いや、望んでいる」
 司祭が云う。
「彼女の死は理不尽だった。そこの娘たちと同じように」

「同じなわけがあるか」

 いいや同じだ、と、海一族の司祭は語尾を強める。

「何が同じだ」
「この、彼女こそが前回の生け贄だからだ!」

 司祭の声に洞窟が静まりかえる。

 前回の生け贄。

 アキラとトーマは顔を見合わせる。

 生け贄は、
 山一族と海一族で、交互に出される。 

 今回は、山一族から出される、とすれば
 前回は海一族からの生け贄と云うのは、当然のこと。

 けれども、

 十数年前の話だ。

「望んでいない死だった。彼女は生き返りたいのだ」
「ならば」

 なおさら、なぜなのか。

 生け贄の儀式は裏一族によって仕組まれたこと。

 それを知っているならば、裏一族を恨むだろう。
 裏一族に寝返るわけがない。

 司祭は答える。

「私は裏一族を、海一族を憎んだよ。よくも彼女を!! と」

 だが、と
 海一族の司祭が云う。

「裏一族は、彼女を生き返らせてあげよう、と云ったのだ」

 裏一族を憎んでも、倒しても、彼女は戻ってこない。

 しかし

「裏一族に来れば、その術のすべてを教えると」
「……司祭、様」

「彼女を生け贄とした海一族よりも、ずいぶん親切じゃないか」
 


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