「おい、大丈夫か!」
「……そ」
「しっかりしろ!」
「村長、……」
血だらけの彼は、村長に手を伸ばそうとする。
意識が、今にも遠のきそうに。
「助け、て」
「しっかりするんだ!」
「……まだ、死、にた、くない」
彼の目から、涙が流れる。
「……助けて、村、長」
「助かるから!」
村長は、彼を抱える。
年齢よりも、小柄な彼。
「いったい何があった」
「判らな、」
「いや。とにかく、病院に向かおう」
村長が走り出す。
彼が云う。
「俺、は、……怖いんだ」
「何が?」
「昔、お医者様が、調べて……くれるって」
「ああ。……あの話か」
村長が云う。
「お前が、家族と血がつながっているかどうか、だな」
「もし、」
「おい。その話はあとでだ」
「もし、……つながって、なかったら」
「…………」
「昔、西に、東の男が入り込んだ、って、話」
「……あまり話すな」
「もし、俺に、その東一族の血が流れていたら」
「そんなことはない」
村長が云う。
「お前が生まれてすぐに、母親が云っていた」
「…………」
「お前は、西一族の子だって」
「…………」
「お前の母親が云うんだから。間違いない」
「でも、」
彼は涙を流す。
「父さん、は」
「他に事情があるのかもしれん」
「父さんは、……母さんを責めて」
「…………」
「俺は、生まれない方が、よかったんだ、て」
「もういい」
村長が云う。
「話すのをやめろ。息を整えるんだ」
「村長、助けて……」
彼が云う。
「……俺は、母さんを、守ら、ないと、」
村長は、彼を見る。
彼は、目を開かない。
しばらくして
彼が目を覚ましたのは、何日もあとのこと。
村長の家で、だった。
それから彼は、父親のいる家に戻っていない。
ただ
時を待つ。
誰にも見られないように。
気付かれないように。
知られないように。
T.B.2012年 真偽は別にして