パチパチ、と
たき火にあたりながら
律葉は秋葉に問いかける。
「冷えてない、大丈夫?」
「うん。もう服も乾いてきたよ」
獲物は無事に仕留めた。
ただ、雨脚が強くなった事もあり、
近くの岩場に移動し、
暫く様子を見ることにした。
山を下るのはそれから。
それに
「足、大丈夫?」
秋葉の足は添え木で固定している。
「捻っただけだと思うけど、
帰りは響が背負ってくれるんだって」
「……ごめんね」
あの時律葉が
狩りを続けようなんて言わなければ。
「律葉が謝ること無いよ。
むしろ。転んじゃってごめん」
秋葉は律葉の顔に手を伸ばす。
「律葉もケガしちゃったね」
最後に止めを刺す際に
暴れた蹄が頬を掠めたのだ。
「こんなのかすり傷よ」
足音が聞こえて
沢から潤と響が帰ってくる。
「戻ったぞ」
「おかえり。
うわぁびしょ濡れ」
早くこっちへ、と
秋葉が2人を手招きする。
「ありがとう。
任せてしまって」
「いいのいいの。
2人ともケガは大丈夫?
うわぁ、律葉、目の下腫れてきた!?」
「冷やしているから、そのうち引いてくるわ」
普段は狩った獲物はそのまま持ち帰るが
今日はこんな天候の上、
帰りは秋葉を背負って行く事になる。
近くの沢で獲物を捌き
持てる物だけ持ち帰る事にする。
「ねえ見て、角だよ!!」
じゃーん、と響が解体した角を取り出す。
「持ち帰るのそれ?」
「うん、何か良い記念になりそう」
本当は肉や食べられる所を
メインに持ち帰るのだが
響らしい、と律葉はクスリと笑う。
「………もう、
こんな無茶な狩りはしない」
皆の様子を見ていた潤が言う。
「天候や状況判断が甘すぎた。
早く切り上げるべきだった」
「ごめんなさい」
「いや、秋葉が謝る事じゃない」
うーん、と響が頷きながらも
なにかを言いかけたが
律葉は思わず言葉が付いて出る。
「でも、成果は出せたわ」
決して良い狩りだったとは言えないが
全てがダメだった訳では無い。
皆、一生懸命頑張ったのに。
「律葉、あのね」
「響、黙ってろ。
―――ケガをしてまで、
命をかけてまで狩りをすることは無い」
「………っつ」
でも、と
律葉は答える。
「私達は西一族よ。
狩りをする事が誇りじゃない」
狩りの腕を持つ者は評価され、
狩りに行けない、出来ない者は
なにか役割を見つける事でこの村で生きていける。
今までも、これからも
みんな必死に狩りの成果を上げようとしてきた。
それは律葉も同じだ。
「それが古いと言ってるんだ」
「……古い、ですって」
「いつまで狩りで食料を確保するつもりだ。
山の生き物だって次々と湧いてくる訳じゃ無い。
そんなのは、家畜を育てていけば良い事だろう」
「南一族の真似をしろと?」
「そうだ!!
いつまでも一族の誇りだなんて、バカげている」
潤は南一族の村で育っている。
考え方が違うのは分かっている、けれど。
「潤、その辺で」
響が止めに入るが
律葉は止められない、
思わず手が出てしまう。
パン、と
潤の頬を叩いていた。
「謝って!!」
「誰に?」
「………え?」
「律葉に?それとも皆に?」
問われて、律葉は戸惑う。
誰に謝って欲しかったのだろう。
振り上げていた手が
行き所を無くしている。
「ねぇ、みんな。
もう止めようよ」
秋葉が泣き出しそうな顔で
辺りを見回している。
「あぁ、悪かった。
律葉もすまない。
雨脚が弱まってきた、―――山を下りよう」
そう言って潤はてきぱきと荷物を
纏めていく。
大丈夫だよ、と響が声をかけてくれるが
律葉は下を向いたまま言葉を無くす。
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