TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「律葉と秋葉と潤と響」8

2018年10月30日 | T.B.2024年

パチパチ、と
たき火にあたりながら
律葉は秋葉に問いかける。

「冷えてない、大丈夫?」
「うん。もう服も乾いてきたよ」

獲物は無事に仕留めた。

ただ、雨脚が強くなった事もあり、
近くの岩場に移動し、
暫く様子を見ることにした。

山を下るのはそれから。

それに

「足、大丈夫?」

秋葉の足は添え木で固定している。

「捻っただけだと思うけど、
 帰りは響が背負ってくれるんだって」
「……ごめんね」

あの時律葉が
狩りを続けようなんて言わなければ。

「律葉が謝ること無いよ。
 むしろ。転んじゃってごめん」

秋葉は律葉の顔に手を伸ばす。

「律葉もケガしちゃったね」

最後に止めを刺す際に
暴れた蹄が頬を掠めたのだ。

「こんなのかすり傷よ」

足音が聞こえて
沢から潤と響が帰ってくる。

「戻ったぞ」
「おかえり。
 うわぁびしょ濡れ」

早くこっちへ、と
秋葉が2人を手招きする。

「ありがとう。
 任せてしまって」
「いいのいいの。
 2人ともケガは大丈夫?
 うわぁ、律葉、目の下腫れてきた!?」
「冷やしているから、そのうち引いてくるわ」

普段は狩った獲物はそのまま持ち帰るが
今日はこんな天候の上、
帰りは秋葉を背負って行く事になる。

近くの沢で獲物を捌き
持てる物だけ持ち帰る事にする。

「ねえ見て、角だよ!!」

じゃーん、と響が解体した角を取り出す。

「持ち帰るのそれ?」
「うん、何か良い記念になりそう」

本当は肉や食べられる所を
メインに持ち帰るのだが
響らしい、と律葉はクスリと笑う。

「………もう、
 こんな無茶な狩りはしない」

皆の様子を見ていた潤が言う。

「天候や状況判断が甘すぎた。
 早く切り上げるべきだった」
「ごめんなさい」
「いや、秋葉が謝る事じゃない」

うーん、と響が頷きながらも
なにかを言いかけたが
律葉は思わず言葉が付いて出る。

「でも、成果は出せたわ」

決して良い狩りだったとは言えないが
全てがダメだった訳では無い。

皆、一生懸命頑張ったのに。

「律葉、あのね」
「響、黙ってろ。
 ―――ケガをしてまで、
 命をかけてまで狩りをすることは無い」
「………っつ」

でも、と
律葉は答える。

「私達は西一族よ。
 狩りをする事が誇りじゃない」

狩りの腕を持つ者は評価され、
狩りに行けない、出来ない者は
なにか役割を見つける事でこの村で生きていける。

今までも、これからも
みんな必死に狩りの成果を上げようとしてきた。
それは律葉も同じだ。

「それが古いと言ってるんだ」
「……古い、ですって」
「いつまで狩りで食料を確保するつもりだ。
 山の生き物だって次々と湧いてくる訳じゃ無い。
 そんなのは、家畜を育てていけば良い事だろう」
「南一族の真似をしろと?」
「そうだ!!
 いつまでも一族の誇りだなんて、バカげている」

潤は南一族の村で育っている。
考え方が違うのは分かっている、けれど。

「潤、その辺で」

響が止めに入るが
律葉は止められない、
思わず手が出てしまう。

パン、と
潤の頬を叩いていた。

「謝って!!」

「誰に?」
「………え?」
「律葉に?それとも皆に?」

問われて、律葉は戸惑う。
誰に謝って欲しかったのだろう。

振り上げていた手が
行き所を無くしている。

「ねぇ、みんな。
 もう止めようよ」

秋葉が泣き出しそうな顔で
辺りを見回している。

「あぁ、悪かった。
 律葉もすまない。
 雨脚が弱まってきた、―――山を下りよう」

そう言って潤はてきぱきと荷物を
纏めていく。
大丈夫だよ、と響が声をかけてくれるが
律葉は下を向いたまま言葉を無くす。

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「琴葉と紅葉」24

2018年10月26日 | T.B.2019年


「何よ」

 病室に入ってきた者を見て、琴葉は目を細める。

「今度は、あんたが説教?」

 紅葉。

「何を云うのよ」

 紅葉は、持ってきたものを見せる。

「ほら、食べて」
「…………」
「元気出しなよ」
「…………」
「ね?」
「元気だし……」

 紅葉は、果物を横の机に置く。

 椅子に坐る。

 しばらくそのまま、時が過ぎる。

「あの、琴葉」

 口を開いたのは、紅葉。

 琴葉は、手織りの布を深く被っている。

「心配したんだけど」
「…………」
「聞いている?」
「何……」
「いったい、どこへ行っていたの?」
「どこにって」

「あの、……ひとりで?」

 紅葉は、琴葉を見る。

 琴葉は、顔を出す。

「ひとりよ」
「そう」
「何? 黒髪とどこか行っていると思った?」
「いえ、……そうじゃなく、」

 琴葉は云う。

「外へ行こうとして怪我して」
「…………」
「そのまま数日間、」
「琴葉、」
「そう云えって云われたのよ!」
「あのね!」

 紅葉が云う。

「あなたがいないと云われている間、どうしていたのか知っている!?」

「どうしていたのか、て?」

「黒髪の子よ!」

 その言葉に、琴葉は目を細める。

「何を、云いたいの?」

「あなたのために、どれだけ苦労したと!」
「苦労?」

 その言葉に、琴葉は笑う。

「いったい、どんな苦労をしたと云うの」

「家に閉じ込められていたのよ!」

「閉じ込め?」

 琴葉は首を傾げる。

 自分が北へ行っている間、
 西では、そう云うことになっていたのか。

 琴葉は鼻で笑う。

「ふーん。閉じ込め、ね」

「笑いごとじゃないでしょう!」

 紅葉は立ち上がる。

「私はっ」

「…………?」

「私は、……」

「…………」

「…………」

「心配しないでよ」

 琴葉は云う。

「あ、いや。心配しているのは、黒髪のことだろうけど」

 琴葉は目を瞑る。

「私たち、西一族の厄介者同士」

 云う。

「ただ、まとめられているだけだから」



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「律葉と秋葉と潤と響」7

2018年10月23日 | T.B.2024年

ぽつりと頬に雫が落ちる。

「あ~、降り出したね」

予想していたよりも早く
雨が降り始める。

「仕方無い、
 本降りになる前に引き返そう。
 ……良いだろ、律葉?」

潤は律葉に問いかける。

「ええ」

なぜ自分に問いかけるのか、と
どこかモヤモヤしながら律葉は頷く。

「じゃあ、帰りは俺が後ろ歩くね」
「任せたぞ響。
 先頭は俺で、
 秋葉、足元に気をつけろよ」
「……」
「秋葉?」

秋葉が遠くを見つめている。

「どうしたの秋葉」
「……静かに」

秋葉が声を潜めて離れた茂みを指差す。

「居る」

「え?」

律葉には分からない。
他の2人も首を傾げている、が
物音を立てないように身を潜める。

「秋葉どこに」
「しっ」

ぬっ、と
茂みから1匹の獲物が顔を出す。

「鹿、じゃないね」

似てるけど、と響が言う。

「山羊の系統だろうな」
「どうする?」

そうしている間にも
雨は降り続けている。

「試したい」

律葉は答える。
もう帰ろうとしていたところ
現れたチャンスなのだ。

「一度だけだ。
 逃げてしまったら追わない。そこまでだ。
 響も良いか?」
「もちろん」
「私も大丈夫」

二手に分かれ、
追う側と、追った先で待ち構える側に分かれる。

風上にならないよう、
潤と秋葉が獲物に近づいていく。

そこから追われて来るだろうところに
目星を付けて、
律葉と響が回り込む。

「律葉」

響が大丈夫と律葉の肩を叩く。

「俺、野生の山羊は食べるの初めてかも。
 楽しみだね」
「ええ」

息を殺し、
獲物に近づいていく潤と秋葉。
その様子を律葉達は見守る。

そっと、矢をつがえる様子が見える。
同じ様に律葉達も
それぞれに武器を構える。

狩りは始まってしまえば
あっという間の出来事。
十秒二十秒で命の奪い合いとなる。

「………」

狩りを行う直前の
この瞬間はいつも指が震える。
緊張からか、それとも恐怖なのか。

鼓動の音が
やけに大きく聞こえる。

「………」

最初の一投。
それが放たれる。

と、思われたその時。

「っ!!」

雨で足元が悪かったのだろう、
矢をつがえていた秋葉が
足を滑らせる。

秋葉は受け身を取って
転がるが
その音に獲物が反応する。

「秋葉っつ!!」

潤が秋葉を引っ張り上げ、
自分の後ろに下がらせる。

獲物は逃げない。
そのまま潤と秋葉の方に駆け出してく。

潤が武器を持ち替えたのが分かる。
近距離用に
大型の武器にしたのだ。

響もそちらに走り出す。

獲物の動きも早い、
あっという間に2人の元に迫る。

「いやっ!!」

2人が蹴り飛ばされたように見えて
思わず律葉は悲鳴をあげる。

「大丈夫だ、落ち着け」

潤の声が聞こえて
律葉は矢をつがえ直す。

響が自分の太刀を振るっているのも見える。

大丈夫。大丈夫。
ちゃんと間に合う。

律葉は自分に言い聞かせながら
もう一度矢をつがえ、
弓を引き絞る。

はーはーと自分の呼吸の音が
耳に届く。

落ち着いて。

一度目を閉じ、そして開く。
力いっぱい引き絞った弦を
今、と放つ。

「        」

大きな悲鳴が辺りに響き渡る。

それを皮切りに
雨が強く降り始める。


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「琴葉と紅葉」23

2018年10月19日 | T.B.2019年


 その後、
 琴葉は西一族の村内で村人に連れられ、病院へと入る。

「いったい、どこへ行っていたの!」

 病室に入るなり、母親は声を上げる。

 横になっている琴葉は、ちらりと母親を見る。

「いや、うん。……ちょっと」
「ちょっとって、どこよ!」
「えーっと、たまにはお肉食べたいなぁなんて」
「肉?」
「私も狩りに行けるかなぁ、て」

「琴葉!」

 母親は、その横に坐る。

「何よ……」
「心配したのよ」
「…………」
「あなたがいなくなって」
「……嘘」
「心配したに決まってる!」
「いつからいなかったのか、知らないくせに?」

 大きな声で、

「いつもいつも、私がどこで何をしているか知らないくせに!」

 その声に、母親は驚く。

「琴葉……」

「いいの、もう!」

「ねえ、琴葉」

 琴葉は、顔を隠す。

「……心配しているのは本当よ」
「…………」
「あなたが黒髪の子と何かあったんじゃないかと」
「それは、ない」

「あなたに何かあったら……」

「…………」

「ねえ」

「何があるって云うの?」

「それは……」

 琴葉の母親は、琴葉に近付く。

「あなたに何かあっても、あの子に何かあっても駄目なのよ」
「それじゃ判らない」
「私たち家族は……」
「何?」
「ごめんなさい、これ以上は……」

「…………」

「琴葉」

「…………」

「お願いだから、……ふたりとも、何もしないで」

 琴葉は顔を出し、母親を見る。

「母さん」

 琴葉は云う。

「何かよく判らないけれど、母さんは黒髪の子を利用してる?」
「え?」
「母さんがあいつを嫌っているわけじゃないのは知ってる」

 琴葉は目を細める。

「でも何か、利用してる?」
「それは、」
「どうなの?」
「あの子は、……」
「何?」
「あなたとは馴れ合わないようにしていると」
「…………」
「私がそう訊ねたのだけど……」
「ふーん」
「でも、それでいいと、母さんは思っている」
「へえ」

 琴葉は云う。

「ならやっぱり、彼を利用していると?」
「違うわ」
「何が違うの?」
「ただ、あの子には、自分の立場を判ってほしいと」
「もういい!」

 琴葉は再度、顔を隠す。

「母さんのこともあいつのこともいいの」

 ただ、呟く。

「私はただ、自分が生きられる場所を探したかっただけ」




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「律葉と秋葉と潤と響」6

2018年10月16日 | T.B.2024年

うーん、と班長の潤が首を捻る。

「今日は調子が悪いな」

狩り場に辿り着くも、
獲物を見つける事が出来ない。
そう言う日もある。

「前回の狩りから日が浅いからね。
 まだ警戒しているのかも」

響が言う。
上手く狩りが出来ない理由はいくつかあるが
今回はそれだろう。

「別の班はどうだろうね」
「あちらの山には追われた動物が逃げ込みやすいから
 向こうに赴いた
 他の班に任せるしかないな」

「でも、まだ時間はあるでしょう」

律葉が言う。
獲れなくてもいいや、ではない。
西一族は狩りの一族なのだから。

「それは、もちろん」

続けるよ、当たり前だろう、と
潤が答える。

「……少し奥まで行ってみる?」

どうかな、と
響が提案する。

「ええ」
「でも結構歩く事になるぞ」

大丈夫か?と潤が問いかけ
そうか、と、律葉は秋葉を見る。

「私は平気だよ。歩くの大好き」

でも、と
秋葉は空を見上げる。

「もしかしたら雨になるかもね」

空に雲がかかりはじめている。

「それじゃあ、2時間。
 引き返す時間もあるからな。
 獲物が獲れても獲れなくても
 2時間で帰ることにしよう」
「了解」
「はいはい」

「分かったわ」

律葉もその意見に頷く。

もちろん山の奥に行けば行くほど
獲物が増えるが、同じく危険は強まる。

「秋葉、歩くの
 きつくなったら言ってね」
「ありがとう、律葉。
 大丈夫よ」
「絶対に大きな獲物を仕留めるから」
「ふふふ。
 そうしたら持って帰るの大変だね~」

他の班の助っ人を
呼ばないといけないかもね、なんて
2人で盛り上がる。

「獲れなくても時間が来たら
 帰るからな」

後ろを歩いていた潤が
2人に声をかける。

「最初から諦めないで。
 獲れた方が良いに決まっているでしょう」
「無理するなって言っているんだよ」

そうは言うけど、と
律葉は振り返る。

「だって、狩りで成果を上げないと、
 意味が無いじゃない」
「一回ぐらいなにも獲れない時があっても
 良いじゃないか」
「……ダメよ。そんなの」

「律葉は真面目だな」

気負いすぎるなよ、と
言いながら潤は律葉を追い越して、響に声をかけに行く。

「………なっ」

潤に他意は無い。
それでも、
律葉はどこか引っかかる。

「律葉?」

きちんと狩りをしようと、言っているだけ。

昔からそう。

真面目だね、なんて、

今まで律葉に向けられた言葉は
褒め言葉ではなかった。

「………」


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