TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と天樹」21

2016年10月28日 | T.B.2017年

「怪我、ずいぶんと非道かったんだな……」
「たいしたことないさ」

 辰樹は、横で弓の手入れをする天樹を見る。

 治っているのか
 治りきっていないのか

 天樹には、怪我の痕が残っている。

「いつものことだ」
「でも」
「ふたりで怪我するよりかはいいよ」
「…………」

 天樹は、弓の手入れを続ける。
 辰樹も自分の武器を手に取る。

「……本当に、悪い」
「いいって」

「俺は、さ。務めの成功失敗とか、評価とかより」

「うん」

「同じ一族が傷付くことの方が大変なことだと思ってる」

「そうか」

 天樹は手を動かしながら、頷く。

「だから、これからの務めは……って、あれ?」

「…………?」

 辰樹は首を傾げる。

「どうした?」

「天樹の装飾品が、ひとつ……ないけど」

 東一族は腕に装飾品を、付けている。

 最低でも、ふたつ。

 もちろん、辰樹も、だ。

 これは、家柄を表すもの。
 生まれてすぐ親から受け取る、大切なもの。

 一族で付けていない者を、見たことがない。

「なくしたのか?」
「いや」
「なら、なぜ、ないんだ?」

 天樹は手を止め、顔を上げる。
 辰樹を見る。

 そこで、辰樹は、はっとする。

「もしや!」
「何?」
「いつだったかの、白い花!」
「花?」
「兄さん、高木からとっただろ!」
「いつの話?」
「時期はずれの白木蓮だよ!!」

「……覚えているような、そうじゃないような」

「その花、女の子に渡したんだな!」

「ええ!?」

「そして装飾品も!」

 辰樹は立ち上がる。

「そうか! そう云うことか!」
 ひとりで頷く。
「うん! そう云う!」
「辰樹、うるさいよ」

「俺に内緒はだめだ、兄さん!」

「……辰樹」

 あきれ顔で、天樹は辰樹を見上げる。

「花も装飾品も女の子!」

 辰樹は止まらない。

 結果。

「つまり兄さんは、結婚するのか!!」

「お前の頭の中は、そう結論付いたわけだ」

「兄さんは、今期で成人だもんな!」

「……うん」

「おめでとう!!」

「…………」

「早く、俺も成人したいなー!!」

「…………」

 辰樹はひとりで嬉しそうだ。

 その笑顔を見て
 天樹は、何かもうどうでもいいや、と、思った。



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「ヨーナとソウシ」5

2016年10月25日 | T.B.1998年

「ヨーナ、どうしたの。
 なんだか楽しそうだね」

宿泊客を全て出迎え、
彼らを部屋に案内した後、
ソウシは尋ねる。

「そう、かしら」
「そうだよ。
 もし僕の事なら無理はしないで」
「………」
「………」
「あ、そうだった」
「えぇえ!!?」

そもそも、
ソウシを北一族の市場に連れて行く、行かない、
そういう話で揉めて宿を出たのだった。

宿番として、残っていたソウシには
その事で何かあるのだと思うのは当然だ。

「えええ!!?
 完全に僕の関係だと、えええ。
 あ、いや、いいんだ忘れて」
「違うの!!
 その事は解決したから。
 北一族の村にはみんなで行く、それで決定」

ごめんってば、と
ヨーナはソウシの手を握る。

「冗談だよ。
 いつもありがと、ヨーナ」

で、と
ソウシはその続きを促す。

「何か良いことあった?」

「実はね、
 私、三つ目様と話したのよ」

言いながらも、自分が浮かれるほど
珍しい事では無いかもしれない、と
ヨーナは少し声が小さくなる。

他の一族の出入りが多いこちら側の集落に
彼らは顔を出すことが少ない、

が、

ケンやソウシの家がある
村の集落地帯では
案外当たり前の事なのかもしれない。

「良かったじゃないか。
 祝福はして貰えた?」

神に近い存在とされる彼らは
司祭の立ち位置に居る。

「それが、司祭様じゃないの。
 まだ、若い。
 えっと、ヨ……ヨシュウ、じゃなくて」
「ヨシヤ様。
 司祭の息子さんだ」

「ケンは知り合いだったみたいだけど。
 もしかして、ソウシもそうなの」

「いや、全く」

「ケンは顔が広いからね。
 普通に話してたから驚いちゃった」
「あいつらしいなぁ。
 怖い物知らずというか」

そうね、と
笑ってヨーナは言う。

「こちら側に興味があったみたい。
 危ないからって、
 ケンがそのまま送って行ってた」
「まさか、一人で?」
「そう、危ないでしょう。
 お忍びっていってたわ。
 奥様に贈り物したいって」

「……マルタ様、か」

「だから、
 私が代わりに珍しい物を探そうかと思って」
「引き受けちゃったんだ?」

あんまりあれこれと
引き受けちゃダメだ、と
ソウシがヨーナをたしなめる。

「ヨーナはそうやって
 すぐに手一杯になるのだから」
「……気をつけるわ。
 でも、これはもう約束したから」

仕方ない、と
ソウシが珍しく不満気なため息をつく。

「ねぇ、ヨーナ。
 ヨシヤ様の奥様は
 二つ目の人、らしいよ」

「三つ目に嫁ぐってどんな気持ちかしら」

「ヨーナだったらどうする。
 同じ女性としては」

ソウシは見えないはずの視線を
ヨーナに向ける。
本当に見ているように視線を感じる。

そういう時は決まって
ソウシが何か大事な事を尋ねる時。
きちんと考えて答えないといけない時。


「そうね、私なら」



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「辰樹と天樹」20

2016年10月21日 | T.B.2017年

「おい!」

 呼ばれて、辰樹は振り返る。

「おい! 辰樹!」
「ああ、うん。陸院か」
「おいおいおい。何だよ、それ」
「いや。お前に興味ないし」
「相変わらず腹立つな、お前!」

 辰樹は、横に立つ木を見上げる。

 ついこの前まで、小さい葉だったのに、
 木々には、ずいぶんと葉が広がっている。

 つぼみも、付いている。

「はあ……」

 辰樹のため息に、陸院は目を細める。

「感傷的になっているのか?」
「別にー」
「気持ち悪いぞ、辰樹」
「関係ないだろ」

 辰樹は歩き出す。

「おい、待てって!」
「うーん」
「待てってば!」

 陸院は慌てる。

「今度の務めの話だよ!」
「務めー?」
「俺とお前で、務め!」
「えー。陸院となら、やだー」
「うわぁあああ」

 辰樹の率直な言葉に、陸院は落ち込む。

「だって、陸院とはやりにくいし」
「茶化してるのか?」
「茶化してるわけじゃない」
 辰樹は云う。
「事実だ!」
「ぉおおおおお」

 陸院は、ますます落ち込む。

「落ち込む俺を何とかしてくれ!」
「何だよ、お前」
「落ち込む俺を!」
「うるさいな、判ったよ!」

 辰樹も面倒くさくなって、頭を抱える。

「それで、」

 辰樹は陸院の肩を叩く。

「今度の務めは何だ?」

「……辰樹」

「迷い犬の探索か?」

「…………!!」

「それとも、今期の苗を植えるのか??」

「…………!!?」

「お前との務めはそんなもんだと俺は思っている!」

「辰樹ぃいい!!」

 陸院が本気で怒り出したので、辰樹は走り出す。

 走って

 走って

 走れるだけ走って、

 やがて、村の高台へとたどり着く。

 ここからは、水辺の方まで見渡せる。
 以前、西と争っていた頃の、見張り台の名残り。

「ふう」

 大きく息を吐いて、辰樹は坐り込む。

 風が吹く。

 花びらが舞う。

 音。

 何かの、音。

 ……足音?

「……あれ」

 辰樹は、その方向を見る。

「辰樹、今度の務めの話だけど」

 それは、先ほども聞いた言葉。
 けれども、これは、陸院の声ではない。

 辰樹は目をこらす。

「え? え、え??」

 そこに、

「天樹!?」



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「ヨーナとソウシ」4

2016年10月18日 | T.B.1998年

「……本当だわ」

谷一族のごく限られた血筋に
まれに生まれてくる三つ目の者。

両目ともうひとつ、
額に位置する目。

一族の額の入れ墨の由来となった物。

水辺の八つの一族に
それぞれ特徴はあるが、
瞳が三つというのは谷一族にしか存在しない。

だから、村人は
その存在自体を秘密にすることで
稀有なその存在を村全体で守っている。

「ヨシヤ、どうしたんだこんな所で。
 ここから先は、
 他の村の奴らの出入りが多い」

「あぁ、お前」

その三つ目の青年は、
ケンに気が付き、問いかけに答える。

「たまには俺も、
 こちら側に足を運びたい」
「そうは言っても、1人か?」
「お忍びだよ」
「全然忍べて無いじゃないか」

へぇ、と
ヨーナは感心する。

三つ目は、今、十数人存在するらしい。
彼らは、大切に守られ、
神官に近い立ち位置にいる。

その立場や貴重な存在という事で
ヨーナや
ほとんどの村人にとっては
雲の上の存在に近い。

ケンは確かに
仕事柄あちこちの家に出入りしている。
時にはヨーナが驚くような人と
知り合いだったりする。

暫くケンと話していた
三つ目の青年がヨーナに気が付く。

「ケン、お前の奥さんか?」
「違う。
 ……宿屋の跡取り娘だ」

急に自分に話が降られて
ヨーナは軽く頭を下げる。

「宿屋のヨーナと言います」

「そう、君が」

三つ目の青年は
ヨーナに歩み寄る。

「そうかしこまらないで。
 俺はヨシヤ。
 普通に話して構わないよ」

歳も近いようだし。と
ヨシヤと言う三つ目の青年は言う。

「こちら側にはあまり来ないから
 宿屋や店を眺めてみたいのだけれど」

こちら、とヨシヤが言うのは
村の入り口付近の集落の事。
ヨーナの宿屋や、観光客向けの店が並ぶ。

他一族の出入りが多いので、
三つ目の者は
あまり立ち入ることが無い。

「だから、そう言うのが迂闊なんだって」

彼が動くときに揺れる前髪の隙間から
覗く三つ目の目が
ヨーナを見つめる。

「宿屋のお客さんってのは
 他一族の人がほとんどだろう」
「ええ」
「彼らは自分の村の特産品を
 持ってきていたりするのかな」
「そういう人が多いですね。
 鉱物の取引に来る人達ですから」

市場よりも幾分安く手に入ると、
足を運ぶ商人も多い。
交換の品の見本として
色々な物を持ってくる。

「ほら、
 物珍しい物でも見たら
 気が紛れるんじゃないかな、と思って」

あぁ、と
ヨーナは合点が行く。

歳が近い、ヨシヤという名前。

かかわりは浅くとも
三つ目様の事は
色々と聞こえてくる。

生まれたばかりの子供が亡くなって、
奥方は寝込んでいる、と。

ヨシヤはそんな妻に
何か贈り物をしたいのだろう。

「何か、聞いてみる事ならできます」

ヨーナは答える。

「そうか、ありがとう」

助かるよ、とヨシヤは答え、
ヨーナに言う。

「君は僕の奥さんに
 少し雰囲気が似ているなぁ」

えぇえ、と
ケンはうんざりした声をあげる。

「全然違うって。
 どこ見てるんだ、ヨシヤ」


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「涼と誠治」12

2016年10月14日 | T.B.2019年

「鹿を捕らえたのか」

 西一族の村に入ってすぐ。
 通りがかった村長が、涼と誠治に気付く。

「さすが、誠治は血抜きが上手いな」

 村長は獲物を見て、頷く。
 これなら、何家族も分配が出来る、と。

「どうした?」

 何か、ふたりの違和感に気付き、村長は誠治を見る。

「何か、あったのか?」

 誠治が目をそらしたので、村長は涼を見る。

 涼は、誠治を見る。

 誠治は、誰とも目を合わさない。

「何も」

 涼が答える。

「別に、何も」
「そうか」

 村長は、再度、誠治を見る。

「広場にはまだ、道具が出ているはずだ」
「……ああ」
「獲物を捌く人数も足りるだろう」
「判った」

 村長に云われ、誠治は獲物を抱えなおす。
 涼を、ちらりと見る。
 歩き出す。

 その後ろ姿を見送ると、村長は口開く。

「狩りで、何があった?」
「別に」
「山に会ったんだな?」
「…………」
「山と、何を話した?」

 涼は答えない。

 村長は息を吐く。

「お前。まさか、何かしたわけじゃないだろうな?」

 涼は首を振る。

「何も」
「余計なことはするなよ」
 村長が云う。
「山ともめごと起こしても、何もならん」

 涼が訊く。

「もし、誠治の身に危険が及んだら?」
「それは、」
「俺は、誠治を守らなければならない」
「何だ」

 村長が云う。

「お前、仲間意識はあるのか」

 涼は答えない。

「誰が、お前にそうしろと云った?」

 涼が云う。

「仲間は必ず守れと」
「誰が?」
「…………」
「お前の父親か?」
「…………」
「立派な父親だな」

 村長は、涼を見る。
 けれども、涼と目は合わない。

「誠治をよく見てろ」

 その言葉に、涼は目を細める。

「山と接触しないように、見張れと云うことだ」
「それは、」
「それと、山一族のことは誰にも云うな」
「…………」
「同じことを、山一族にも云われたか?」

 村長は、鼻で笑う。

「まあ、とにかく家に帰れ。今日の狩りはおしまいだ」

 涼は村長を見る。

「俺は、お前のことは信用している」

 云いながら、村長は涼の肩を叩く。

「お前の力のこともだ。西一族のために使ってくれる、とな」

 涼は、村長の手を振り払う。
 歩き出す。

「悪いな」

 後ろで、村長がそう呟く。



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