TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」30

2017年09月29日 | T.B.1998年

「トーマ、何がどうなっているんだ!」

 トーマに近しいであろう海一族が声を出す。

「説明を!」
「とにかく、さっきのやつを追ってくれ!」
 トーマが云う。
「深追いはするな。俺もすぐにあとを追う」
「待ってくれ。何が起きているのかさっぱりで」

 海一族が、アキラとトーマのもとへと集まってくる。

 アキラはその場に立ったまま。
 トーマが押さえている裏一族を見る。

 トーマは、その者の顔を皆に見せる。

「こいつは」
「誰、なんだ……?」

 海一族は困惑している。

 トーマが云う。

「裏が、一族のふりをして侵入している」
「……本当か。じゃあ、こいつは」

 と、海一族の視線はアキラに移る。

「山一族だが敵じゃない。今は時間がないからあとで説明する」
「……判った」

 トーマに近しい海一族は頷き、走り出す。
 カオリをさらった裏一族を追って。

 トーマは、ほかの海一族に裏一族を引き渡す。

 アキラは裏一族に問う。

「カオリが山一族の村にいないと知っていたのだろう」
 裏一族は顔を上げる。
「なのに、なぜ山に火をつけた?」

「単純なことだ」

 裏一族は答える。

「山一族は予備を用意していたんだろう」
「……何?」
「我々は生け贄であれば、どちらでも構わない」

 身動きが取れなくなりながらも、裏一族は笑う。

「案外、あちらの生け贄も、もう手に入れているかもな」

「お前ら」

「生け贄は多ければ多いほど、いい」
「目的は何だ!」
「それは上の者しか知らん」

 アキラはトーマを見る。
 トーマは首を振る。

 これ以上、情報は出ない、と云うことか。

「とにかく、俺たちもカオリを追おう」

 トーマの言葉にアキラは頷く。

 アキラは空を見る。

 その視線に合わせて、鳥が舞い降りてくる。
 アキラの鳥。

「急ぎ山に情報を伝えるんだ」

 海一族が驚く中、鳥はもう一度、空へと向かう。

 アキラとトーマは走り出す。

 海一族の村の外れへ。
 そして
 そのまま、山へ。

 カオリをさらった裏一族が動いた痕跡がある。

「トーマ」

 走りながら、アキラは云う。

「裏一族が集める生け贄の話、知っているか」
「いや」
 トーマが云う。
「裏一族のことは情報が少ないからな」

「昨年の話なんだが……」

 アキラは思い出すように云う。

「山一族から姿を消した者がいた」
「姿を?」
「今も行方が知れない」
「…………」
「噂では裏一族に連れ去られたんじゃないかと云う話なんだが」
 アキラは首を振る。
「真相は判らない」

「まさか」

 トーマはアキラを見る。

「生け贄に……?」

「何とも云えない」
「そうか……」

「ただ、その者は純粋な山一族じゃなかった」

「何?」
「西との混血だった」
「西との!?」

 山一族と海一族が対立しているように
 また
 山一族と西一族も対立をしている。

「裏はいったい何を考えているんだ……」



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「海一族と山一族」26

2017年09月26日 | T.B.1998年

「カオリ!!」

アキラが叫ぶ。

「逃げろ。
 狙いはお前だ!!」
「え?」

今まで矢を受けて倒れていた
もう1人の裏一族が
急に立ち上がり、カオリに駆け寄る。

「いやっ!!」

一瞬の事。

裏一族はカオリを攫うと
山に向かい駆け出す。

「待て!!」
「カオリ!!」

思わず矢を逸らしたアキラに
残された裏一族がナイフを投げる。

「ぐっ」

アキラはすんでの所で避けるが
ここぞとばかりに
攻撃を仕掛けてくる。

「アキラ!!」

トーマも駆け寄り参戦する。
二対一となれば
裏一族も、さすがに取り押さえられる。

「……カオリは」

アキラが辺りを見回すが
もう、その姿が見えない。

「トーマ、
 何がどうなっているんだ?」
「ミナト!!」

トーマは見知った顔に安堵する。

「ちょうど良かった。
 さっきの奴を追ってくれ。深追いはするな。
 俺もすぐに後を追う」
「待ってくれ。
 何が起きているのかさっぱりで」

トーマは、取り押さえている
裏一族の顔を皆に見せる。
集まった皆は、
それが見知らぬ顔だという事に気づく。

「裏が、一族のふりをして侵入している」
「……マジか。
 じゃあ、こいつは」

と、横目でアキラを見る。

「山一族だが、敵じゃない。
 今は時間が無いから
 後で説明する」
「……分かった」

頷くと、ミナトはすぐに山へ向かう。
トーマとアキラは
裏一族を引き渡した後、それに続く。

「行こう、アキラ」
「ああ!!」

向かいかけて、アキラは止まり、
裏一族に問いかける。

「カオリが山一族の村に居ないと
 知っていたなら、
 なぜ、山に火をつけた?」

単純な事だ、と
裏一族は答える。

「山一族は予備を用意していたんだろう。
 俺達は生け贄であれば
 どちらでも構わない」
「なんだと」

取り押さえられて
身動きがとれなくなりながらも
笑いながら、裏一族は言う。

「案外あちらの生け贄も
 もう手に入れている頃かもな」


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「山一族と海一族」29

2017年09月22日 | T.B.1998年

 周りにいる海一族は、動きを止める。

「動くな」

 アキラは弓を構えたまま。

 地に倒れている裏一族は顔を上げ、アキラを見る。

「はっ。どうする、山一族」
「黙れ」
 アキラが云う。
「お前たちが侵入者だと判るのも、時間の問題だ」
「だろうな」
「いったい、お前たちの目的は何だ」

 裏一族が余裕の笑みを浮かべる。

「俺たちの仕事はあぶり出すこと、だからな」
「あぶり出す?」

 アキラはその言葉を繰り返す。

「何の話だ」
「山一族と海一族の生け贄だよ」

 裏一族が云う。

「我々は、その生け贄を手に入れるために来た」
「何?」
「だが、失踪したそうじゃないか」

 アキラは目を見開く。

「なぜ、そのことを」
「我々の情報網を見くびるな」

 アキラは、はっとする。
 トーマを見る。

 トーマにも、この話は聞こえている。

「まさか。この火事は、そのために?」

 裏一族は笑う。

 ふと、視線が動く。

 アキラとトーマは、その視線を追う。

「兄、様っ……!」

「カオリ!?」

 声が響く。

「ほら、出てきた」

 カオリが、そこにいる。

 長らく帰ってこないアキラとトーマを探しに来たのか。

 そして、

 海一族に囲まれたアキラに驚き、この場に飛び出した。

「山一族、の、女の子?」
「仲間がいるのか!?」

 まずい……

 アキラの額に汗が流れる。

 さらに現れた山一族に、海一族が動揺する。

 裏一族が笑う。

「カオリ!!」

 アキラが叫ぶ。

「逃げろ!!」
「え?」

 と、

 はじめにアキラの矢を受け、倒れていた裏一族が
 突然、動く。

 カオリの方へ。

「――っ!?」

 一瞬のこと。

 裏一族はカオリを抱き上げ、走り去る。

「待て!」
「カオリ!!」

「油断したな!」

「!!?」

 短刀。

 アキラは反射的に、それを避ける。

「アキラ!!」

 トーマが裏一族を取り押さえる。

「おい、動くな!!」
「くっ……、まあ、いい」
「……カオリは」

 アキラはあたりを見る。

 が、その姿はもうない。



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「海一族と山一族」25

2017年09月19日 | T.B.1998年

落ち着いて見てみれば
彼らは海一族になりすました
侵入者。

けれども、
そこはさすが裏というべきか
場を混乱させる事に長けている。

「見てくれ、この怪我。
 あの山一族にやられたんだ!!」

「……本当だ、山、一族??」
「なぜこんな所に」
「まさか、この火事もあいつが??」

ざわざわ、と
集まった海一族の視線が
アキラに集まっていく。

「みんな、待っ」

違うんだ、と言いかけたトーマを
アキラが遮る。

「トーマ、俺を養護するな」

「だが」

アキラは背を向けたまま言う。

「今、俺を庇っても
 事態が混乱するだけだ」
「……アキラ」

分かった、とトーマは小さく頷く。
裏一族の目的は
この場をかき混ぜる事。
そうなる事で
動きやすくなるのは裏の方だ。

けれど、この状況は
アキラにとっても良い物ではない。
海一族達がじわじわと周りを囲んでいく。

「武器を棄てろ山一族」

だが、アキラは近寄る彼らに構うことなく
裏一族に矢を放つ。

「ひっ!!」

矢は、裏一族をかすめる。
元から中てるつもりはない。

「動くな、【海一族】!!」

怯んで倒れた彼らに
アキラは走り迫り
眼前に矢尻を向ける。

「お前達が侵入者だとばれるのも
 時間の問題だぞ」

アキラの脅しに怯みながらも、
裏一族はどこか余裕を見せる。

「俺達の仕事は
 あぶり出す事、だからな」

「あぶり、出す?」

その会話は
近くに居るトーマの所にも届く。

「予定が変わった。
 生け贄が急ぎ必要になったが
 山一族の村から失踪したそうじゃないか」

生け贄、という言葉に
2人は目を見開く。

そして、なぜ 
生け贄が失踪した事を
裏一族が知っているのか。

「まさか、この火事は
 そのために?」

トーマの言葉に
裏一族は笑う。

正解、という事。


「兄様!!」


声が響く。
カオリが、そこにいる。

あちこちで火事が起こる中、
長らく帰ってこないアキラとトーマを
探しに来たのだろう。

そして、海一族に囲まれたアキラに
驚いて、飛び出した。

「山一族、の、女の子?」
「仲間が居るのか!?」

もう1人現れた山一族に
海一族の皆が動揺する。

裏一族は笑う。


「ほら、出てきた」


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「山一族と海一族」28

2017年09月15日 | T.B.1998年

 状況はこちらが優勢。

 と

 その海一族が笑う。

「お前ら、今、有利だと思っただろう」
「何?」

 アキラは弓を引いたまま

 はっとする。

 あたりが騒がしくなる。
 誰かがやってくる。

 ひとり、ではない。

 何人もの、海一族。

「おい、どうした!?」
「トーマ!?」
「この火は何だ!?」
「おい、舟の火を消せ!」

「みんな……、よかった」

 トーマの安堵の息が聞こえる。

 が、

 アキラの額に、汗が流れる。 

「みんな助けてくれ!」

 裏一族が、突然叫ぶ。

 まさか、

「山一族にやられた!!」

「山、」
「……一族?」

 慌ただしさが、一気に止まる。

 この場所すべての海一族が、アキラを見る。

「っっ!!」

 トーマは立ち上がろうとする。

「見てくれ!」
 裏一族が声を上げる。
「山一族が攻撃を!!」

 そこに倒れているのは、もちろん、海一族の格好をした裏一族。

 けれども、

 いきさつを知らない海一族たちからすれば、
 山一族であるアキラが、海一族に手を出したとしか思えないのだ。

「みんな、待っ」

 トーマの声。

 アキラは、ただ裏一族を見る。
 形勢は不利。
 それでも、矢を下ろすわけにはいかない。

 裏一族は、気付かれないよう、武器を控えている。

「トーマ」

 アキラは云う。

「俺を擁護するな」
「アキラ」

 状況を知るトーマの立場を悪くするわけにはいかない。
 山一族の味方など、もってのほかだ。

「おい! 山一族!」
「動くな!」

 少しずつ、海一族が近付いてくる。

 瞬間、

 アキラは矢を放つ。

 矢は、裏一族をかすめ、燃える舟を突く。
 裏一族がひるむ。
 思わず、倒れる。

 アキラは走る。

 裏一族の方へ。

「山一族め!」

 海一族が、アキラを狙う。

 アキラはそれを避ける。

「取り押さえろ!」
「逃がすな!」

「アキラ!」

 アキラは、走る。
 矢を持つ。

「動くな!」

 アキラは立ち止まり、声を出す。
 弓を引く。

 アキラの足元には、

 先ほど倒れた、裏一族。

 その矢を、裏一族に向ける。

「動くな、海一族!」



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