TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「『成院』と『戒院』」15

2020年04月21日 | T.B.2016年
東一族の村の端。

静かな場所に、墓地はある。

もう何度も通っただろう道を
間違えることなく『成院』は進む。

その途中には、
自分と同じ病で命を落とした又従兄弟の墓。

知っている。
彼は正式には病で無くなったのではない事。

一人だけすまない、と
心の中で詫びる。

「………」

また途中。

粗末な墓を見る。

見知った顔では無かったが、
彼らは、娘の治らぬ病にどうにか、と
砂一族に通じた為に罰を受けた。

遺された娘も、
罰を与えた者の事も知っている。

全てが知れたら、
彼らと同じ運命を辿るのだろうと思う。

そこには行くつもりだ。

必ず、行く、と
頭を下げる。

「………」

あれから少し時が過ぎて
色々な事があった。
歳を重ねて、その分娘も大きくなり、
宗主も代替わりした。

想いを馳せる間もなく、
目的の場所に辿り着く。

「ああ、晴子が先に来たのか」

その墓には、花が備えてある。
男兄弟だったから、
好きな花も分からないので
彼の好物を備える。

もう娘が、あの頃の自分達と
同じ年頃になる。

「お前はずっと若いままだな」

もう、夢は見ない。
夢の中で自分に語りかけてくることもない。

ただ、記憶の中の成院が
だんだんと薄れかけていく。

けれども、

なにかあると自分は必ずここに来る。

それでも思い出すために。
戒めのために。
譲って貰った命の代わりに
今何が出来ているかを。

「聞いてくれよ、成院」

ただ、一人、
『成院』はその墓に語りかける。


「辰樹と天樹」18

2016年03月25日 | T.B.2016年

「医師様」

「辰樹、戻ったのか!」

 呼ばれて、医師が慌てて出てくる。
 そして、辰樹を上から下まで見る。
 無事かどうか、確認する。

 この医師は、辰樹の叔父にあたる。

 辰樹は、目の前で手を合わせる。
 そう、目上の者へ、敬意を示す。

「どうだった?」
「これ」

 辰樹は、砂の浄化薬の作り方が書かれた紙を取り出す。

「務めは成功だな」

 医師は辰樹の肩を叩く。

「うーん。成功と云うのか……」
「何だ。成功じゃないのか?」

 医師は首を傾げる。

「ほら。中に入れ。怪我は?」
「あ、うん。かすり傷だけど」
「かすり傷でも、砂の毒は判らないからな」

 医師は、中に入るよう、促す。

 けれども、辰樹は動かない。

「どうした?」

「俺より、……向こうに相方が倒れてて」
「お前の相方?」
「砂に怪我を負わされて!」
「怪我を?」

 判った、と、医師はが云う。

「なら、すぐに向かおう。お前は中で手当を、」
「いや。俺も一緒に行く」
「お前は手当が先だ」
「平気だって!」

 医師は辰樹を見る。

「砂の毒の危険性は知っているだろ」
「だからこそ、相方が心配なんだ!」
「辰樹……」
「早く!」

 医師は息を吐く。

「判ったよ」
 云う。
「お前もそのあとに手当を受けるんだぞ」
「判った」

 医師は、荷物を準備する。

 辰樹は医師を案内する。

「辰樹待てって!」

 辰樹はいつも以上の速さで走る。

 市場を抜け

 木々の生い茂った

 東一族の村のはずれ

「辰樹、いったいどこまで行くんだ」

 医師は息を切らす。

「ここに!」

 辰樹はあたりを見る。

 が

「そこに、……」
「どこだ?」

 天樹はいない。

「ど」

「ど?」

「ど、どうしよう。俺!?」

 辰樹は慌てる。

「ここに、天樹がいたんだけど!?」

 いない。

「え? ええ!? あの怪我で動いた??」

 辰樹はさらに慌てる。

「辰樹、落ち着け」
「天樹の父ちゃんと母ちゃんが心配してるに違いない!」

 医師は慌てる辰樹を見る。

「落ち着け。動けたんなら、大丈夫だよ」
「でもっ」
「大丈夫だって」

 医師は、辰樹をなだめる。

「その、天樹って子なら、俺に心当たりがある」
「……え?」
「お前を診たあとに、ちゃんと治療に行ってやるよ」
「でも、刀で刺されたような傷とかあったし!」
「判った判った」

 医師は、病院へ戻るよう、辰樹を促す。

 辰樹は、天樹がいた場所を再度見る。
 歩き出す。



NEXT

「辰樹と天樹」17

2016年03月18日 | T.B.2016年

「天樹……」

 誰かの声。

「おい、天樹!」

 天樹は、薄く目を開く。

 ここは、

 ……東一族の村のはずれ。

「しっかりしろ!」
「……辰樹」
「大丈夫か?」

 辰樹の問いに、天樹は頷く。

「……悪い、」

 辰樹は、顔を曇らせる。

「俺のせいで、しくじった」

 天樹は、横になったまま、首を振る。

「辰樹、……身体は?」
「俺は大丈夫」
 辰樹が答える。
「軽かったから、毒もすぐ抜けたらしい」

 辰樹は、天樹を起こそうとする。

「今、病院へ」
「大丈夫」
 天樹は、自身の手を掲げ、それを止める。
「血は、……乾いているな」
「無理だ。動くな」

「大丈夫」

 天樹は、再度云う。

「宗主様への報告は、俺が行く」
「天樹……」
「お前は、病院に向かえ」
「俺の怪我は大したことない」
「だめだ」

 天樹が云う。

「もし、砂の毒が残っていたら危険だ」
「なら、一緒に!」
「それに、砂の浄化薬の作り方を、医師様に届けることが優先だ」

「天樹、」

 辰樹は天樹を見る。

「お前も、連れて行く」
「いや。俺は、宗主様のところに」
「天樹」

 天樹は、目をつぶる。

「宗主様に失敗を咎められるのは、ひとりで十分」
「なら、しくじった俺が行くさ!」
「動けるうちに、その紙を医師様に渡してほしい」

「天樹……」

「辰樹、頼む」

 天樹の目は閉じたままだ。

 辰樹は、立ち上がる。

「すぐに、戻る」
「大丈夫だって」

 天樹は、目を閉じたまま、云う。

「……ここは東一族の村なんだから」

 立ち去る音。

 天樹は、ただ、音を聞く。
 立ち去る音は、やがて、消える。

 天樹は、少しだけ目を開く。
 ひとりで地面に転がったまま、空を見る。

 日が落ちている。
 あたりには、誰もいない。

 そろそろ起きようか。
 戻って、宗主のところへ行かなければならない。
 まだ、やらなければならないことも、ある。

 ……仕方ない。

 天樹は起き上がる。

 と

 身体に痛みが走り、顔をしかめる。

 腕で、肩を押さえる。

 見ると、身体に血が付いている。
 血が、やっと止まったような痕跡。

 天樹は息を吐き、立ち上がる。
 思ったより、動けそうだ。

 ただ、非道い格好、だが。

 人に会わないよう、天樹は、宗主の屋敷に入る。
 宗主がいる場所へは、迷わず、たどり着ける。

 遠のきそうな意識で、天樹は歩く。



NEXT

「辰樹と天樹」16

2016年03月11日 | T.B.2016年

 ひっそりとした砂漠に、砂一族が、ひとりだけ立ち上がる。

 その砂一族は、あたりを見る。

 大きな岩を見る。
 近付く。

「……あー、」

 岩陰を覗く。

「ここにいたー」

「……お前は、」
「あの子だけ帰したの? 天樹は帰らなかったのー?」
「……富和(ふわ)」

 岩陰に、天樹が倒れている。

 富和は再度、あたりを見る。
 天樹と富和以外、誰もいない。

 東一族も。
 砂一族も。

「失敗?」

 富和は、にこにこと笑う。

「いったいどうしたのよー。らしくない」
「…………」
「ああ。最後の砂の魔法に当てられたのね」
 富和が云う。
「人をかばったからなの? ますます、らしくない」

 富和は手を伸ばし、持っている刀を見せる。

「ほら」

「それは、」
「あんたの刀」

 富和が云う。

「拾っておいてあげたわ」
「…………」
「私ってば、親切!」

 富和は、天樹に近付く。
 両手で、刀を持つ。

「さあ。あんたの刀の切れ味」
「…………!!」
「試してみようかなー」

「うっ……!」

 富和の持つ刀は、天樹の身体に刺さっている。

「うふふ」

 富和は笑う。

「あんたに切られた砂一族のみんなも、痛かったと思うよー」

 富和は、手に、力を込める。

「ほら。痛いんなら、少しは東の情報を出しなさいよ」
 富和は笑顔のまま。
「泣いて、ごめんなさいとか。見てみたいわー」

 天樹は顔をしかめる。

「まずは、あんたの真名を教えなさい」
「…………」
「天樹、は、偽名だってこと判ってるんだから」
 天樹は、目を閉じる。
「偽名を使うってことは、東では高位と云うことね」
 ほら、と、富和は、持ち手を変える。
「親は誰? 宗主直結かしら?」

 天樹は答えない。

「天樹ぃ」
 富和は、さらに刀を握る。
「気絶する前に、早く話しなさいよ」

 天樹は、答えない。

「……あんた、死ぬつもり?」

 天樹は苦しむ。
 けれども、何も云わない。

 富和は目を細める。

「何なのよ、東一族は!」
 苛立つ。
「嫌い、本当に嫌い! 大嫌い!」

 富和は、刀を棄てる。

 天樹は呻く。

「ふん」

 富和が云う。

「じゃあ。とりあえず、砂にでも行く?」

 倒れている天樹を、富和は見下ろす。
「うふふ。どんな毒を試してみようかしら」
 鼻で笑う。
「どうせ、逃げられやしないんだから」
「そう思う?」

 天樹は、富和を見る。

「そう思うって?」

 天樹の言葉に、富和は目を細める。

「どう云うことよ」
 富和が云う。
「転送術なら、さっき、もうひとりの子に、」

「こう云う、こと」
「……?」
「刀、ありがとう」
「…………!!」

 発光。

 瞬間。

 富和の目の前から、天樹の姿が消える。

「……っ!」

 富和は思わずあたりを見る。
 誰もいない。

「く、そっ……!」

 転送術。

 もうひとつ、彼は準備をしていたのだ。

 富和は、悔しさのあまり、岩を叩く。



NEXT

「辰樹と天樹」15

2016年03月04日 | T.B.2016年

 何人かの砂一族が倒れている。

 けれども、砂一族は笑う。

「浄化薬持っているの」
「だーれだ」
「誰かなー」

 おもしろそうに。

「東の畑の毒」
「広がっていくねー」
「大変だねー」

 辰樹は天樹を見る。

「どうする?」

 天樹は、砂一族を見回す。

 ふと

 ひとりの砂一族を指差す。

「あいつだ!」

 それを合図に、辰樹が走る。

「げっ」
「ばれた!」
「ばれた!!」

 その砂一族に、辰樹が追い付く。

「浄化薬を出せ!」

「ひっ!」

 辰樹は、砂一族の懐に手を入れる。

「お前っ!」

 別の砂一族が、辰樹に手を伸ばす。
 が
 すぐに倒れる。

 天樹の矢が、当たっている。

「これだ!」

 辰樹は紙を掴む。

 浄化薬ではない。
 けれども、浄化薬の作り方が記された、紙。

「おいっ!」
「返せ!」
「もう一度、魔法だ!」

 辰樹は、後ろに飛ぶ。

 走る。

「これ以上は不要だ!」

 天樹が叫ぶ。

「撤収するぞ!」
「判った!」

 と

 答えた辰樹が、ふらつく。

「!!?」

 慌てて、天樹が辰樹に駆け寄る。

「どうした?」

 天樹は、辰樹の腕を見る。
 血が、ほんの少し流れている。

「大丈夫、たいしたことない」
「いや、これは、」

 血が流れている。
 つまり、
 その傷から、毒が入っていると云うことだ。

「辰樹、急げ!」

 天樹は辰樹を立ち上がらせる。

 最初に準備しておいた、転送術の場所へ。

「走れ!」
「…………?」
「辰樹?」
「…………」
「おい、しっかりしろ!」
「…………」
「しびれるか!?」

 辰樹は目を閉じている。
 天樹は、辰樹を抱え、走る。

「待て、東一族!」
「帰すんじゃないぞ!」
「動くな!」

 砂一族の魔法が作動する。

 天樹も、紋章術を作動させる。

 が、間に合わない。

 砂埃。

 勢いで、天樹は倒れる。
 刀を落とす。
 すぐに顔を上げ、辰樹を見る。

 その先に倒れた辰樹がいる。

 ちょうど、転送術の上に。

「辰樹!」

「…………」

「辰樹! 聞こえるか?」
 天樹が云う。
「その紙を持って、先に帰れ!」
「…………!?」

「行くぞ! 東一族村内へ!」

 発光。

「うっ!」
「!!?」
「なんだ、なんだ!?」

 すぐに、暗闇。

「何が起きた!?」

 砂一族の声が響く。
 そこには、誰もいない。

「……いないじゃん」
「なーんだ」
「東に逃げ帰ったか?」

 静まりかえった砂漠に、散り乱れた砂一族が姿を現す。

「お前、逃げ帰ったんじゃないだろ!」
「結局、浄化薬の作り方、盗まれたじゃん」
「あーあ」

 そして

 その砂一族たちは、順番に姿を消していく。

「結果、砂の負け、だし」

「見張りを固めろよ」

「次は何の毒を作ろうかなー」

 …………

 …………

 再度、静寂。



NEXT