TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「成院と戒院と」6

2017年11月28日 | T.B.1997年

成院は動きを止める。

「卑怯な」

攫った南一族の子どもに
刃物と突きつけながら
砂一族はクスクスと笑う。

「卑怯だよ」
「それが、砂一族」
「いつもの事じゃない」
「ねぇ」

それに、答えるように
成院も薄く笑う。

「じゃあ、こちらも
 少し卑怯な手を使うぞ」


「さて俺はどっちでしょう」


「「え?」」

砂一族の2人は、
少し離れた砂丘を見る。
先程までそこで戦いの様子を見ていた
戒院が居ない。

正面の成院を見る。

「………お前、髪、伸びた?」

同じ顔。
でも、違う。
入れ替わった?いつ?
先程の砂煙が舞った時?

「げぇ、気付くの早っ」

でも、と
成院のふりをした戒院が言う。

「もう遅い」

彼らが振り返る前に
背後に回っていた成院が
砂一族に襲いかかる。

「ぐっ」

その、一瞬。
僅かな隙をみて
戒院が南一族の子を奪い取り、
2人は一旦その場から離れる。

「待て」
「卑怯者」

砂一族が飛ばす矢を避けながら
岩陰に駆け込む。

「戒院!!」

成院は言う。

「だから、髪は短くしろって言ってただろ」

折角の双子なのだから、
敵の目を紛らわせる、と
そういう手段もあるのだろうが、
戒院はそれには反対だ。

「やだよ。
 そもそもお前と組む事なんて
 数えるほどしか無いんだし!!」

それに。

「絶対、ちょっと長い方が
 おしゃれだろ!!」

はいはい、と
聞き流して、成院は砂一族の方に向き直る。

「よし、それじゃ
 様子を見ながら」

「……おい、成院!!」

南一族の子の介抱をしていた戒院が
声を上げる。
どこか、ぐったりとしていて
元気がない。

「矢が」

腕にかすかな傷がある。
恐らく先程、砂一族の放った物が
かすったのだろう。

傷自体はただのかすり傷。

だが、砂一族の武器には
必ず毒が仕込まれている。

「戒院、」

どうにか、できるか、と
問いかける成院に
戒院は頷く。

「処置はする。
 俺が医者見習いで良かったな」

だが、と
戒院は続ける。

「早くきちんと処置できる場所に行きたい。
 それと、
 出来れば毒が何か分かった方が助かる」

解毒薬を砂一族が持っていればそれが早い。
そうでなくとも
毒が何か、聞き出さなくとも
武器を取り上げることが出来たら。

「分かった」

後は頼んだ、と
成院はその場を離れる。

「あぁあ、
 成院怒らせちゃったよあいつら」

傷口の手当てを進めながら
戒院は呟く。

「あいつ怒ると
 紋章術発動しながら戦うから
 おっかないんだよな」


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「涼と誠治」18

2017年11月24日 | T.B.2019年

 日が沈む頃、彼は病院へ向かう。

 西一族の、多くの家から昇る煙。
 皆、食事の支度をしている。

 この時間帯なら、多くの人に会わずにすむ。

 けれども、視界は悪い。
 足下がよく見えない。
 出来るだけ、ゆっくりと進む。

 途中

 何かの音。

 足下を見ていた彼は、顔を上げる。
 目をこらす。

 道の先に、誰かがいる。

 その誰かは、道の真ん中で何かを拾っている。

「…………」

 彼は地面を見る。
 果物が転がっている。

 誰かは、手際よく、落とした果物を拾う。

 彼は、誰か、を見る。

 誰かは、彼に気付く。
 黒髪である彼に、気付く。

「……っ!!」

「…………?」

「触らないで!」

 誰かは、彼の近くに転がる果物を拾い上げる。

「何で、こんなところにいるのよ!」

 遠ざかりながら

「気持ち悪い。どこかへ行ってしまえ!」

 そのまま、立ち去る。

 彼は動かない。

 地面を見る。
 もう、果物は転がっていない。

 あたりを見る。
 誰もいない。

 彼は、先ほどの言葉を思い出す。

 いつものこと。
 昔から云われてきたような、こと。

 彼は歩き出す。

 そう云えば

 いつだったか

 それとは違う言葉を云われたことがある。

 彼は首を傾げる。

 いつのことだっただろう。
 誰が、云ってくれたのだろう。

 忘れてしまった。



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「成院と戒院と」5

2017年11月21日 | T.B.1997年

東一族の村から離れた砂漠地帯。

「ねぇ、どうするのこれ」
「どうしようか」
「まさかね、南一族だったとは」
「この髪が邪魔で見えなかったんだよね
 頬のマーク」
「でも東一族の服着ているじゃない」
「紛らわしい方が悪いよね」
「今さらこっそり帰すわけにもいかないし」
「仕方ないから
 この子をそのまま使っちゃおう」

砂一族はその子を抱えたまま
思い思いに話す。

騒がないようにか
口元に布を掛けられている。

「運が悪かったと思って
 諦めてね」

ねぇ、と
屈託の無い笑顔で
砂一族は言う。

「あんまり煩わしいと
 ここで殺しちゃうからね」

暴れていた南一族の子は
その声に動きを止める。

「あぁあ、泣いちゃうかな?」
「ねぇねぇ怖い?」

面白そうに砂一族達は
声を掛ける。

が。

「……おかしいな。
 なんでここに居るの?」

声の調子を落として
後ろを振り返る。

「東一族さん」

砂一族から少し離れた場所に、
成院と戒院が立っている。

「東一族の村から
 随分と離れたつもりなんだけど。
 いつの間に追いついたんだ?」

成院が戒院に言う。

「間違い無い、南一族の子だ。
 でかしたぞ戒院」
「いや、頑張ったよ、俺」

ふぅ、と
座り込みながら戒院が答える。

「転送術使うの
 すっごい久しぶりだから
 緊張したわ~」

その言葉に
砂一族は舌打ちをする。

「東一族の紋章術か」
「へぇ、あいつら高位家系かな?」

「これ、結構体力使うから、
 後は成院、任せた!!」
「ああ」

言葉と同時に成院は飛び出す。

砂一族は二人。
躊躇いもなく刃物を振りかざす。
砂に足を取られながらも
成院は自身の武器で刃先を受け流す。

「その子を離せ」

「言われて、はいどうぞ、って
 渡すと思う?」
「そんなわけ無いよね」

言葉と同時に
二人の攻撃が続く。

「どうするつもりだ」

「どうって」
「決まっている」
「我ら砂一族の薬の実験だよ」

その言葉が終わらないうちに
砂一族の一人が
蹴り飛ばされる。成院に。

その勢いで、
辺りは一瞬砂煙に覆われる。

「………」

「おや、結構強い」
「参ったな、
 もしかして、ちょっと不利?」

砂一族の次の行動は早い。

「ねぇ、動かないで。
 この子殺すよ」

持っていた刃物を
そのままその子に突きつける。


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「彼と彼女の墓」5

2017年11月17日 | T.B.2020年

「いらっしゃい」

 北一族の村の、花売りが云う。

「それとも、お帰りなさい、なのかしら」

 そう云って、笑う。
 続けて

「この前売った花は、誰にあげたの?」
「あげたと云うか」

 彼は答える。

「お墓に」
「ああ」
 花売りは頷く。
「そうだったの」

「…………」

「誰の、お墓なの?」

 花売りは続ける。

「家族? 友人? それとも、」
「…………」
「それとも……」
 花売りが云う。
「彼女、とか」

 花売りは彼を見る。

「判らない」

 そう、彼は答える。

「……判らない、か」

 花売りは息を吐く。

「おかしな話」
「そう?」
「そうよ」

 花売りは花を並べる。

「白木蓮の花なんて、すぐに散ってしまうのに」
「うん」
「ほかにもきれいな花はたくさんあるわ」
「うん」
「変な人」

 花売りが云う。

「また、花を買ってくれる?」
「ここの花なら」

 花売りが頷く。

「きっと、あなたの彼女も喜ぶわ」

 北一族の村の日が傾き出す。

 客の背を見送って、

 花売りは花を片付けはじめる。

 と、

 また、ほかの客。

「…………」
「何か用?」
「何?」
「何か用かと聞いたのよ」
「はっ、俺は客じゃないか」

「…………」

「誰だ」
「え?」
「今のやつ」
「ああ」

 花売りが答える。

「同じお客様よ」
「客?」
「花屋の、ね」

 その客は、鼻で笑う。

「わざわざ南一族が?」
「南?」
「南一族がわざわざお前目当てに、と云ったんだ」
「だから、花屋の客だと云ってるじゃない」
「それはどうだか」
「それに、」
「それに?」
「あの人は南一族じゃないわ」
「何?」
「私も南一族だと思っていたのだけど、」

 花売りは首を傾げる。

「東一族なのよ」
「東一族?」
 客は目を細める。
「なぜ判った」
「なぜと云われても……」

 客は舌打ちをする。

「東一族は義理堅いからめんどくさいんだよな」
「そう?」
「次は追い返せ」
「なぜ、あなたにそう云われなきゃならないの?」
「近付けるんじゃない」
「それは私が決める」

 その言葉をおもしろくなかったかのように、客は立ち去る。

 花売りはあたりを見る。

 店を閉める。




2020年 北一族の花屋にて

「成院と戒院と」4

2017年11月14日 | T.B.1997年

「すみません」

村を歩いていた成院と戒院は
声をかけられる。

「あぁ、昼間の」

南一族から旅行でやって来たという親子。
声をかけてきたのは母親だ。

「娘を見なかったかしら。
 ちょっと目を離した隙に
 姿が見えなくなって」
「いえ」

成院は答える。

「心配ですね。
 気掛けて見ておきます」
「ありがとう。
 夫も来た道を引き返しているのだけど、
 女の子だけどやんちゃな子で」

母親は気丈そうに振る舞っているが
心配なのだろう。
もう一人の子を抱えて、顔色は優れなかった。

「大丈夫です。
 すぐに見つかりますよ」

そう言って、二人はその場を離れる。

東一族は家族でなくても
よくお互いを見知っている。
知らない子どもが居たらすぐに声をかけるだろう。

だが、それが見つからないというのが
気に掛かる。

「ただの迷子なら良いが」
「……うーん」
「とりあえず、こちらからも
 何人かに声かけをしておこう」
「………」

成院の言葉に
戒院の返事はどこか歯切れが悪い。

「あぁ、しまったな」

どこかバツの悪い顔をして
戒院は呟く。

「戒院?」

「なぁ、あの子」

んん、と
戒院は頭を抱える。

「長い髪で
 頬の入れ墨が隠れるだろう」
「ああ」
「もし、東一族の衣装を着ていたらどうだ?
 加えてあの黒髪。
 恐らく外見からは東一族にしか見えない」

そこで、成院は
戒院が何を危惧しているのか悟る。

「砂一族、か!!」

まずい、と
成院は呟く。

東一族と長年敵対している一族は二つ。

そのうち一つは西一族。
だが、こちらは長い間停戦状態にあり
顔を合わせることすらない。

問題はもう一つ。
砂漠を挟んで隣接する砂一族。

領土を狙い攻め込んでくるのが多いが
一番の問題は
女子供を攫っていく事。

「攫われた、か」

「ただの思い過ごしならいいが
 あぁあ、着付け体験なんて
 勧めるんじゃなかったな」

まだそうと決まったわけではないが
二人は駆け出す。

「おい、門番はどうする?」
「誰か居ないかな。
 ん~、満樹が
 任務で外に出てなければ」
「なんでも満樹に頼むの良くないぞ」
「だって、あいつ
 なんだかんだで付き合ってくれるんだよ。
 いい奴だ!!成院と違って!!!」
「満樹に同情するよ。
 ……光院!!」

すれ違った又従兄弟に
成院は言う。

「少し場を離れる。
 後を頼む」

二人の様子に
光院は問いかける。

「……手伝おうか?」
「大丈夫だ。
 迷子を捜している。が、戻らなかったら援護を頼む」
「分かった」

「おいおい」

良いのかな、と
戒院は成院に言う。

「宗主の息子に
 門番頼むとか、ないわ」

「大丈夫、光院は
 そういう事は気にしないやつだし、
 武術の腕はある」

後で偉い人に怒られるのかなぁ、と
それも覚悟した上で
戒院は仕切り直す。

「失踪してからどれくらいだろう」
「両親の様子だと
 そう時間は経っていないように思うが」
「ならまだ砂漠は越えていないかもしれない」
「急ぐぞ!!」


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