ヒロノとメグミは立ち止まる。
それに合わせ、後ろに続く者も、動きを止める。
すでに山一族の領域を超え、中間地点である場所。
通常、不可侵である場所。
近くから、滝の流れる音が聞こえる。
うっそうと樹々が生い茂り、光を遮っている。
薄暗い。
降り続いた雨で足元はぬかるんでいる。
ここにはすでに、道はない。
その目の前に、
「海一族……」
数名の海一族。
向こうも同じように、思っているのだろう。
この場所へ来るときは、
普通、お互いに顔を隠して訪れる。
が、
今、すべての顔が見えている。
「……向こうの族長だ」
ヒロノがメグミに目配せをする。
「あれが、」
数人に取り囲まれるようにいる者。
海一族の長。
「山一族ではないか」
「ここへは何をしに」
海一族が声を出す。
「…………」
「…………」
沈黙。
しかし、
「いや……。このような場合ではないな」
ヒロノは息を吐く。
「やはり、あなた方もここに何かがあると、来たわけですね」
ヒロノの言葉に、海一族は顔を見合わせる。
そして、頷く。
緊急事態。
生け贄のこと。
お互いの一族で起きたこと。
判ってはいる、が
簡単に、手を取り合うことが出来ない。
山一族も海一族も、武器に手をかけた状態。
そちらが先に動く、か。
「ナオト、待って!」
動こうとしたミヤを、メグミが制止する。
「ねえ……。これは?」
メグミは足元を指差す。
淡い光。
「気付いたか。見ろ」
若い海一族も、その先を指差す。
「この光が向こうまで伸びている」
「これは、」
ヒロノが云う。
「かなり巨大な魔法陣……」
「危険だ」
「だな」
その海一族がひとり、魔法陣に沿うように動く。
ヒロノも合わせる。
お互いで確認するように。
「山は紋章術を使うと聞いた」
「ああ」
「判るか」
ヒロノは、その魔法陣を見たまま答える。
「複数の力を持つものだな、これは」
「複数の力?」
「おそらく、侵入者を警戒するものと、」
「それと?」
ヒロノは息をのむ。
「人の命を吸収するもの……」
「何?」
ヒロノの言葉に、両一族がどよめく。
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